5月19日 20:33 伊820情報室 尖閣諸島 魚釣島周辺
[沈んではいない、停止中]
「…通信は出来るか?」
[試みる]
さて、反応は帰って来るのか。
まぁ、何はともあれ現段階では沈んではいないらしい。
少し安心した。
「沈んで無くて良かったね、紫風ちゃん」
「あぁ、そうだな」
[通信が帰って来ない、通信設備が故障していると思われる]
「ほぉ~ん…」
どうにかして通信出来ねぇかなぁ。
んでも何で浮上しねぇんだ?
「どうにか738の状況を確認できるモンは無ぇのか?」
[そうですね…あ、そうだ]
「おっ、何かあるのか!」
[こちら伊745、伊738、我の通信が聞こえているならば、右へ変針せよ]
成程、艦の動きで通信が傍受出来るか判断するのか。
頭良いな。
[あ、変針、聞こえてる様だ]
「OK、分かった」
「送信設備と位置情報装置だけが故障しているのでしょうね」
「おう、そうだな」
疾歌の言う通り、送信設備と位置情報装置だけが壊れている。
そうに違いない。
「あー、あー、738。745のケツを追って横須賀へ戻るんだ。追うのは出来るだろ?」
返信は帰ってこない。
当然だ、ブッ壊れてるんだからな。
「745、先導と位置位置確認を頼んだ」
[了解]
「津山と話せるか?」
[艦長ですね、少々お待ちを]
津山 信彦大佐。
伊745の艦長だ。
[はい、津山です]
「おう、さっき言った通りだ。頼んだぞ」
[えぇ、お任せください]
津山大佐は自信満々の様だ。
無線からでも分かる。
「じゃ、通信切るぞ」
[はい]
通信は基本的に敬語は使わない。
んまぁ、通信傍受されたら困るからな。
通信時間を短くしねぇと。
「よーし、これで解決!」
これで後は伊738は無事横須賀に帰投できる。
はぁ~、人騒がせな艦だなぁ。
「じゃ、俺はまた戻るから、何かあったら呼べ」
「「「はっ」」」
23:46 発令所
これで今日はお終い何も起こらない、そう思っていた。
しかし起こってしまった。
今日は寝られるのか?
「何?潜水艦?」
「はい、潜水艦です」
艦長が少しめんどくさそうな顔をしながら話す。
俺もめんどくさい。
「何処の?」
「中国です」
「めんどくせぇなぁぁ!何でこんな時間に来るんだよ!」
「まぁまぁ、紫風ちゃん落ち着いて」
「くっそ…朝来いよ朝…深夜に来んなよ」
気持ちを落ち着かせる為に彩華を抱きしめて匂いを嗅ぐ。
何処を嗅いでも良い匂いはするが、やっぱり髪が一番良い匂いがする。
シャンプーと彩華自体の匂いが合わさって、安心する匂いになる。
「ほんっと…帰れよ…仕事増やすなよ…クソが」
「ヨシヨシ…紫風ちゃんは頑張ってるよ~」
「んぅ…」
数秒間、彩華の頭を撫でまわす。
すると匂いを嗅ぐよりも心が落ち着く。
「それで…潜水艦だって?」
「はい、潜水艦です」
「型式は?」
「海龍型ですね、今回は2番艦の海虎の方です」
「……」
「…どうかされましたか?」
「中国は中国でも中華民国の方じゃねぇか!オイ!」
そう言えば台湾も領有権主張してたなぁ。
「それで、何で来たんだ?」
「恐らく伊738と745を追尾して来たのではないでしょうか」
「あれ、ココ通ったっけか」
「いえ、2隻の航路は石垣島の南方を通過しています」
「だよな…迷ったのか?」
「ど、どうでしょうか…」
流石に迷う事は無いだろ。
台湾本島にも近いんだし…意図的に来たのか?
「ま、上の海警と同じく見張っとけ」
「はっ」
「じゃ、寝させてもらう」
「後は我々にお任せください」
「艦長も寝れるうちに寝とけよ?」
「了解しました」
「じゃ、頼んだぞ~」
これでようやく寝られる。
クッソ、何で台湾の潜水艦が尖閣に来るんだ。
台湾は台湾海峡で忙しかったんじゃなかったのか?
ま、良いや…寝よう。
~~~~~~~~~~
翌日 14:22 情報室
今日も変わらず海警は海保と睨み合っている。
最近はこの状況にも慣れて来た。
「伊792は…そうだな、ウラジオストック当たりを哨戒させよう」
「はっ」
「伊722…738の代わりだ、海南島行き」
「来月の米海軍との演習にはどれを出しましょう?」
「えー、伊788を出そう」
「はっ」
こうして指示を出して、僚艦の様子を確認する。
うん、今すっごく司令官してる。
「紫雲ちゃ~ん!」
「ん?」
「洛人君がこの書類にハンコが欲しいって~」
「ん、どれどれ」
彩華が書類とハンコを持ってきた。
書類の内容は有休に関する内容であった。
「うんうん…OKOK」
この任務が終わったら2週間程有休を取る様だ。
ハンコを押して、洛人君の有休を承認する。
何処か旅行にでも行くのかな。
「じゃ、洛人君に渡してきてね」
「うん、分かった」
彩華は洛人君に書類を渡す為に走って行った。
彩華は1つ1つの動作が可愛い。
そう言えば彩華が司令官になったらどんな指揮するんだろう。
結構気になるなぁ。
「あ、司令」
「ん?」
「伊721はどうしましょう」
「あぁ、伊721はな―――」
21:11 居住区 女性用風呂
「お風呂が毎日入れるのも原子力のお陰」
「うん」
彩華とは毎日一緒に過ごしている。
任務の時も、プライベートでも、常に一緒に居る。
倦怠期なんて物はもうとっくの昔に通り過ぎた。
「ねぇねぇ」
「ん?」
「今度の出張さ、もしかしたら私だけで行く事になるかもしんない」
「えぇ~、私も一緒に行きたいよぉ」
「全部はお父様の気分次第…かな、うん」
「そっか」
今度の出張は呉に向かう。
呉にて第二潜水艦隊を新設するにあたり、私に司令官に相応しい人を選んで欲しいとの事らしい。
詳しい事はこの任務の後、海軍省に赴きお父様に話を聞く。
「でも、彩華は私の副官だし、それで何とか押し通してみるよ」
「頑張って!」
「うん、頑張るよ」
数分後 司令官室
お風呂から上がり、紙を乾かして部屋に戻って来た。
あぁ、この部屋のベッドがダブルベッドだったら良かったのにな。
「彩華」
「ん~?」
「好きっ」
「私も~」
いつも通り彩華と抱き合う。
頭を撫で合ったり、胸を揉み合ったり。
これも日常である。
これから私が寝るまで彩華とイチャイチャし続ける。
家に居る時はそのまま2人で
潜水艦だもの、あんまり音出せないし。
「じゃ、私そろそろ寝るよ」
「うん、おやすみ」
「おやすみ」
彩華が名残惜しそうに私から離れる。
まだまだ私と居たそうにしている。
私もまだまだ彩華と一緒に居たい。
でもこの部屋のキャパは1人だから、彩華と一緒に寝れない。
誠に遺憾である。
「じゃ、また明日」
「うん、おやすみ」
「おやすみ~」
彩華は自分の部屋に戻って行った。
彩華の残り香がまだ部屋の至る所に残っている。
勿論、布団にも残っている。
「一緒に寝たいよぉ…」
艦でも一緒に寝たいと強く思いながら、部屋の電気を消した。