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第拾弐話 発見

 5月19日 20:33 伊820情報室 尖閣諸島 魚釣島周辺


[沈んではいない、停止中]


「…通信は出来るか?」


[試みる]


 さて、反応は帰って来るのか。

 まぁ、何はともあれ現段階では沈んではいないらしい。

 少し安心した。


「沈んで無くて良かったね、紫風ちゃん」


「あぁ、そうだな」


[通信が帰って来ない、通信設備が故障していると思われる]


「ほぉ~ん…」


 どうにかして通信出来ねぇかなぁ。

 んでも何で浮上しねぇんだ?


「どうにか738の状況を確認できるモンは無ぇのか?」


[そうですね…あ、そうだ]


「おっ、何かあるのか!」


[こちら伊745、伊738、我の通信が聞こえているならば、右へ変針せよ]


 成程、艦の動きで通信が傍受出来るか判断するのか。

 頭良いな。


[あ、変針、聞こえてる様だ]


「OK、分かった」


「送信設備と位置情報装置だけが故障しているのでしょうね」


「おう、そうだな」


 疾歌の言う通り、送信設備と位置情報装置だけが壊れている。

 そうに違いない。


「あー、あー、738。745のケツを追って横須賀へ戻るんだ。追うのは出来るだろ?」


 返信は帰ってこない。

 当然だ、ブッ壊れてるんだからな。


「745、先導と位置位置確認を頼んだ」


[了解]


「津山と話せるか?」


[艦長ですね、少々お待ちを]


 津山 信彦大佐。

 伊745の艦長だ。


[はい、津山です]


「おう、さっき言った通りだ。頼んだぞ」


[えぇ、お任せください]


 津山大佐は自信満々の様だ。

 無線からでも分かる。


「じゃ、通信切るぞ」


[はい]


 通信は基本的に敬語は使わない。

 んまぁ、通信傍受されたら困るからな。

 通信時間を短くしねぇと。


「よーし、これで解決!」


 これで後は伊738は無事横須賀に帰投できる。

 はぁ~、人騒がせな艦だなぁ。


「じゃ、俺はまた戻るから、何かあったら呼べ」


「「「はっ」」」



 23:46 発令所

 これで今日はお終い何も起こらない、そう思っていた。

 しかし起こってしまった。

 今日は寝られるのか?


「何?潜水艦?」


「はい、潜水艦です」


 艦長が少しめんどくさそうな顔をしながら話す。

 俺もめんどくさい。


「何処の?」


「中国です」


「めんどくせぇなぁぁ!何でこんな時間に来るんだよ!」


「まぁまぁ、紫風ちゃん落ち着いて」


「くっそ…朝来いよ朝…深夜に来んなよ」


 気持ちを落ち着かせる為に彩華を抱きしめて匂いを嗅ぐ。

 何処を嗅いでも良い匂いはするが、やっぱり髪が一番良い匂いがする。

 シャンプーと彩華自体の匂いが合わさって、安心する匂いになる。


「ほんっと…帰れよ…仕事増やすなよ…クソが」


「ヨシヨシ…紫風ちゃんは頑張ってるよ~」


「んぅ…」


 数秒間、彩華の頭を撫でまわす。

 すると匂いを嗅ぐよりも心が落ち着く。


「それで…潜水艦だって?」


「はい、潜水艦です」


「型式は?」


「海龍型ですね、今回は2番艦の海虎の方です」


「……」


「…どうかされましたか?」


「中国は中国でも中華民国の方じゃねぇか!オイ!」


 そう言えば台湾も領有権主張してたなぁ。


「それで、何で来たんだ?」


「恐らく伊738と745を追尾して来たのではないでしょうか」


「あれ、ココ通ったっけか」


「いえ、2隻の航路は石垣島の南方を通過しています」


「だよな…迷ったのか?」


「ど、どうでしょうか…」


 流石に迷う事は無いだろ。

 台湾本島にも近いんだし…意図的に来たのか?


「ま、上の海警と同じく見張っとけ」


「はっ」


「じゃ、寝させてもらう」


「後は我々にお任せください」


「艦長も寝れるうちに寝とけよ?」


「了解しました」


「じゃ、頼んだぞ~」


 これでようやく寝られる。

 クッソ、何で台湾の潜水艦が尖閣に来るんだ。

 台湾は台湾海峡で忙しかったんじゃなかったのか?

 ま、良いや…寝よう。



 ~~~~~~~~~~



 翌日 14:22 情報室

 今日も変わらず海警は海保と睨み合っている。

 最近はこの状況にも慣れて来た。


「伊792は…そうだな、ウラジオストック当たりを哨戒させよう」


「はっ」


「伊722…738の代わりだ、海南島行き」


「来月の米海軍との演習にはどれを出しましょう?」


「えー、伊788を出そう」


「はっ」


 こうして指示を出して、僚艦の様子を確認する。

 うん、今すっごく司令官してる。


「紫雲ちゃ~ん!」


「ん?」


「洛人君がこの書類にハンコが欲しいって~」


「ん、どれどれ」


 彩華が書類とハンコを持ってきた。

 書類の内容は有休に関する内容であった。


「うんうん…OKOK」


 この任務が終わったら2週間程有休を取る様だ。

 ハンコを押して、洛人君の有休を承認する。

 何処か旅行にでも行くのかな。


「じゃ、洛人君に渡してきてね」


「うん、分かった」


 彩華は洛人君に書類を渡す為に走って行った。

 彩華は1つ1つの動作が可愛い。


 そう言えば彩華が司令官になったらどんな指揮するんだろう。

 結構気になるなぁ。


「あ、司令」


「ん?」


「伊721はどうしましょう」


「あぁ、伊721はな―――」



 21:11 居住区 女性用風呂


「お風呂が毎日入れるのも原子力のお陰」


「うん」


 彩華とは毎日一緒に過ごしている。

 任務の時も、プライベートでも、常に一緒に居る。

 倦怠期なんて物はもうとっくの昔に通り過ぎた。


「ねぇねぇ」


「ん?」


「今度の出張さ、もしかしたら私だけで行く事になるかもしんない」


「えぇ~、私も一緒に行きたいよぉ」


「全部はお父様の気分次第…かな、うん」


「そっか」


 今度の出張は呉に向かう。

 呉にて第二潜水艦隊を新設するにあたり、私に司令官に相応しい人を選んで欲しいとの事らしい。

 詳しい事はこの任務の後、海軍省に赴きお父様に話を聞く。


「でも、彩華は私の副官だし、それで何とか押し通してみるよ」


「頑張って!」


「うん、頑張るよ」



 数分後 司令官室

 お風呂から上がり、紙を乾かして部屋に戻って来た。

 あぁ、この部屋のベッドがダブルベッドだったら良かったのにな。


「彩華」


「ん~?」


「好きっ」


「私も~」


 いつも通り彩華と抱き合う。

 頭を撫で合ったり、胸を揉み合ったり。

 これも日常である。


 これから私が寝るまで彩華とイチャイチャし続ける。

 家に居る時はそのまま2人でする時もあるが、艦内じゃ出来ない。

 潜水艦だもの、あんまり音出せないし。


「じゃ、私そろそろ寝るよ」


「うん、おやすみ」


「おやすみ」


 彩華が名残惜しそうに私から離れる。

 まだまだ私と居たそうにしている。

 私もまだまだ彩華と一緒に居たい。

 でもこの部屋のキャパは1人だから、彩華と一緒に寝れない。

 誠に遺憾である。


「じゃ、また明日」


「うん、おやすみ」


「おやすみ~」


 彩華は自分の部屋に戻って行った。

 彩華の残り香がまだ部屋の至る所に残っている。

 勿論、布団にも残っている。


「一緒に寝たいよぉ…」


 艦でも一緒に寝たいと強く思いながら、部屋の電気を消した。


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