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二人目の弟子

「ふむ、シャルロット君、何があったのだい?」


「あたし、あたしは……」



 西京を見上げるシャルロットの両目からとめどなく涙が溢れていた。

 服は破け、全身泥だらけになり、両手の指からはことごとく出血していた。

 チョンカはそんなシャルロットに対し、声をかけることが出来なかった。



「ミーティアを、助けたい……!! でも、あたし一人じゃできなかった……西京先生、お願いします……ミーティアを、ミーティアを……」



 シャルロットの悲痛な叫びが響いた。

 西京に縋りつきながら必死にミーティアの名を繰り返し呼んでいた。

 シャルロットはこの三日間、氷の中のミーティアを救出するためあらゆることを試みたに違いない。それでも救出が出来なかったのだ。

 そしてどうすることも出来ず、西京を頼ってきたのであった。



「本当は君をあの場所へは行かせたくなかったのだよ。つい今しがた、ラブ公にも遠まわしに行かないように話しをしたつもりだったのだが……」


「ど、どうして!?」


「西京……」



 チョンカ、ラブ公、シャルロット、三人の視線を集め、西京はため息を吐いた。

 ラブ公はともかくとして、チョンカとシャルロットに詰め寄られたら、さすがの西京も弱いのだ。重い口を開いた。



「ミーティア君が氷の中にいるのは間違いないだろうね。どのような姿でいるかは分からないが……。そうだね……仮に氷の中から救出できたとして、その後はどうなるんだい?」


「そ、その……後……?」


「そうさ。ラブ公、ミーティア君は望んで自分から火口へ飛び込み、最後の力を振り絞ってサイコフリーズを使用した。間違いないね?」


「う……うん……僕何も出来なかった……」



 シャルロットは西京の言いたいことに気が付いた。

 黙って聞いているその表情が、見る見る青ざめていく。



「つまりミーティア君を我々が救助できたとして、そのあとサイコフリーズは解除されてしまうわけだ。そしてすぐにではないにしろ火山活動が再開し、ミーティア君の守ろうとしたこの村は滅んでしまうことになってしまうね」



 シャルロットとラブ公は、涙を流しながら震えていた。

 チョンカは俯きながら両手を握りこみ、血が滴っている。



「シャルロット君、恐らくだがこの三日間、何をしようが氷が全く溶けなかったのではないのかな? それは他でもない、ミーティア君の意思だからね。シャルロット君がミーティア君にとって軽い存在というわけではないよ? しかし溶けるはずがないのさ……それほどまでにミーティア君の決意は固い」


「うち……」



 西京が両目を閉じ、ラブ公とシャルロットが泣き濡れている中、チョンカが言葉を発した。チョンカとて涙を流している。だが、その表情は他の三人とは異なっていた。



「うち、アホじゃけ、まったく理解できん!! うち、ミーティアちゃんを助けたい!!」



 西京のここまでの説明を全く聞いていなかったような発言だった。

 いつものシャルロットなら一笑に付していただろう。

 いつものラブ公なら諌めていただろう。

 チョンカはまっすぐに西京の顔を見ていた。



「うち、ミーティアちゃんを助ける!! 西京先生、お願い!! 力を貸してぇや!!」







 しばらく無言で考えていた西京が、両目を開いた。



「シャルロット君、君はまだ私の弟子になりたいのかい?」


「……っ!! は、はいっ!! 西京先生、あたしもチョンカと同じ気持ちです!! お願いします! 力を貸してください」


「に、西京! 僕もお願いします!」


「お前はダメ。死ね」



 再び、沈黙が場を支配した。

 チョンカはもとより、シャルロットの表情もチョンカの言葉を受けて決心を固めたような表情になっていた。



「ふふ、チョンカ君とシャルロット君にそう言われては私も断ることが出来ないね……もちろん、村も救いたい……そうだね?」


「せ、先生!!」


「西京さ──いえ、マスター西京っ!! よ、よろしくお願いします!!」


「えっえっ!? 今、し、死ね……えっ!?」


「シャルロット君、君にもチョンカ君と同様、才能がある。君にも私の弟子として今後はよろしく頼むよ?」



 シャルロットは真っ赤な顔をしてボロボロと泣いていた。

 ずっと一人で背負い込んでいたのだ。緊張の糸が切れ、重荷を降ろした今、歳相応の子供のように大声で泣きじゃくっていた。



「シャルロットさん、もう泣かんで? うちも頑張るけぇ!」


「うううぁああぁあぁん!! ひっく、ひっく、シャ……シャル……」


「え?」


「ひっく、あ、あたしのことは……ひっく、シャルって呼びなさい、チョンカ」


「……!! うん、行こう! シャル!!」



 西京は手を取り合う二人を優しげな表情で見ていた。

 ラブ公は西京のクレアエンパシーにより目を白黒させながら空を睨んでいた。


 ミーティアの氷が溶かせるかどうかは分からない。

 しかし、二人がどうしてもミーティアを救いたいと言うのだ。

 師匠として、その願いを蹴ることは出来るはずもないのだ。







 火口は、三日前に訪れたときよりもさらに気温が下がっていた。

 放置しておけばその内、土や岩も凍りつき雪が積もるのだろう。



「先生、どうやってミーティアちゃんを救って噴火も押さえ込むん?」


「ふむ、まぁ単純な話さ。この山を氷が続く地下まで土を削り取ってしまって、最深部にいるであろうミーティア君に話を付けた後、今度はこのサイコフリーズ以上の力で山全体を凍らせてしまえばいいのではないかな」


「そ、そんな簡単に……」


「しかし、それくらいしかないのではないかな? まぁやれるだけやってみようではないか」



 西京はそう言うとサイコキネシスで空中に浮かびだした。

 それを見ていたチョンカとシャルロットもラブ公を連れてついていく。



「マスター西京、あたしに出来ることはある?」


「シャ、シャル、そのマスターってなんなん?」


「ふ、ふんっ! チョンカと同じ西京先生と呼んでいたのでは同じ弟子として、差別化がはかれないのよ!」


「さべつか?? なに? お野菜のこと? は??」


「準備はいいかい? まずは私がサイコシャドウで根こそぎ山の斜面を切り崩してしまうね。もちろんそのまま氷が村の方へ倒れてしまわないように土を削っていくつもりさ。氷の部分が露呈するから、シャルロット君はラブ公を連れて最深部まで行ってほしいのだよ。そこでテレパシーでミーティア君に語りかけてみるといい。もしかしたらクレアエンパシーの方がいいかもしれないけれど、それは状況を見て判断してくれないかい?」


「せ、先生! うち! うちは?」



 シャルロットとラブ公は自分に与えられた役割を確実にこなすために言葉に出して何度も反芻していた。その姿を見て、チョンカも負けじと挙手し自己主張をする。



「チョンカ君はその後さ。ミーティア君に伝われば、氷が溶けるはずさ。そしてミーティア君を救出した後がチョンカ君の出番だね。ゴミ公に力を借りて、この山全体にサイコフリーズをかければいい。永遠に溶かさないつもりでね」


「う、うち、サイコフリーズって使ったことないんじゃけど……??」


「大丈夫さ。私も手伝うし、チョンカ君なら使えるはずさ。問題はシャルロット君のほうだよ」


「……あ、あたし……」


「ふふ、そんなに不安そうな顔をしなくても大丈夫さ。要するにね、ミーティア君がどのような状況に置かれているかが分からないから、まずはクレアボヤンスで確認して欲しいのだよ。その上でテレパシーを使うのか、クレアエンパシーを使うのかを決めて欲しい。そして、もしもクレアエンパシーを使用することになったとしたら、こちらの動揺も伝わってしまうからね、落ち着いて同調するようにね」


「あれ、さっき僕ゴミって……?? あれ?」


「それでは三人とも、準備はいいかい? 行くよ!!」

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