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地震

「ラブ公ちゃんのばかぁぁぁぁぁああああああーーーーーーーーー!!」


「ひっ!! ミ、ミーティアちゃん!?」


「あ、あたち、あたち、あたちぃ! どれだけちんぱいちたか、わか、わか、わか……!!」


「ミーティア、落ち着きなさい」



 チョンカ達は村での戦闘を終え、見事敵を退け再び老婆の家へと戻っていた。

 力を使い果たしてしまったチョンカは眠りについてしまい、またいつ目覚めるか分からない状況となっていた。

 チョンカが目覚めるまで出発を延期したい旨を西京が老婆に説明したのだが、さすがの老婆も村を救ったチョンカ達のささやかな願いくらいは黙って聞いてくれたのであった。

 そして、やっと部屋で落ち着いて、ラブ公がミーティアに話しかけた途端に、ミーティアが怒声をあげたのであった。



「眠ってしまったチョンカ君も起きてしまうかもしれないね」


「ミ、ミーティアちゃん、ご、ごめんなさい!!」



 まるで土下座をするようにラブ公はミーティアに謝り倒している。

 それでもミーティアの怒りは静まらないのか、ぷいっとラブ公とは反対の方向を向いてしまう。



「ミーティア、ラブ公君はミーティアを守るために必死になって戦ってくれたんでしょう? あたしは間近で見ていたけど、すごかったわよ? 彼もチョンカも」


「…………」


「ミーティアちゃん、ごめんね? ぼ、僕どうしてもミーティアちゃんを苛めるあいつがゆるせなかったんだ……」



 ぴくりと、机の上でラブ公に背中を向けるミーティアの耳が反応した。しかしまだラブ公の方へ振り向いてはくれない。



「ミーティアちゃんが傷付けられて、僕どうしてもミーティアちゃんの笑顔を取り戻したかったんだ。心配かけて本当にごめんね?」



 ぴくぴくぴくっと、ミーティアの耳がまた反応する。俯きながら震えている。



「ミ、ミーティアちゃん、また泣いてるの?」



 はぁ、と溜めに溜め込んだような大きなため息がラブ公の頭上から聞こえた。ため息の主はシャルロット。彼女は上からミーティアの顔を覗き込んでいた。



「ラブ公君……ミーティアなら心配なさそうよ……」


「ちょ、え!? チャ、チャルロットちゃん!! ひ、ひどいわ!!」



 真っ赤な顔のミーティアが振り返りシャルロットへ抗議の声を上げた。そしてミーティアがしまったと思ったときにはもう遅かった。心配そうな顔のラブ公と目が合ってしまったのだ。



「ミーティアちゃん……笑って?」



 ラブ公の優しい笑顔を見て、ミーティアの顔がとうとう沸騰し今にも湯気が出てきそうなほどに赤さを増した。そしてそっけない態度を取り続けることを諦めたように。ラブ公のほうへゆっくりと歩み寄り、そのままラブ公の顔へ、ぴっとりと体をひっつけてしまった。



「あらあら、ミーティアったら……ラブ公君はミーティアの騎士なのね」


「え、え、ぼ、僕が騎士!?」


「チッ……もういいかい?」



 もう見るに耐えないといった様子で西京がラブ公の背後から声をかけた。



「それで、シャルロット君……君はこれからどうするのだい?」



 シャルロットは西京に問われ俯いた。

 教団を裏切ってしまった。それはその場の勢いというものもあったが、教団は唯一の友達であるミーティアを殺そうとしていたと知ったのだ。シャルロットは自分のしたことの是非については今更考えるまでもなく正しかった思っていたのだが、これからどうするかと問われると、その先までは考えてはいなかったのだ。



「…………分からないわ」


「チャルロットちゃんもいっちょに行こう? あたち、ラブ公ちゃん達とも離れたくないけどチャルロットちゃんとも離れたくないわ!」


「ミーティア……あたしは……」


「ふむ、言いにくいのかな? そうだね……シャルロット君、後で私と話をしようか」


「え、ええ……」



 それだけ言って西京は部屋の隅へと歩き出した。そして西京の体を淡い光が包みだした。



「私は少し精神を集中させているからね。もしも何かあれば体を揺すって起こしてくれないかい?」


「え、西京? 何かするの?」


「ラブ公、君はチョンカ君の傍にいてあげなさい。しばらくは眠りから覚めないだろうからね。私が何をするかは気にする必要はないさ。シャルロット君、ミーティア君のことは頼むよ。そうだ、ラブ公にはもう一つ言っておくことが。お前は死ね」


「え! し、死!? え? え? に、西京!?」



 そして西京はそのまま、目を開けたまま精神統一をしはじめてしまった。



「ラブ公ちゃん、何をちゃわいでるの?」


「ラブ公君、西京さんに何か言われたの?」


「え!? ふ、二人とも……聞こえてない……の? ぼ、僕たまに何か人には聞こえないようなことが聞こえたりすることがあるんだけど……え、え、僕、どっかおかしいのかな……」


「ラブ公ちゃん、ちゅかれちゃってるのね……夕方までおやちゅみちたほうがいいかも……」


「チョンカも西京さんも寝てしまったものね。いいわ、あたしが見ていてあげるから休みなさい」



 二人に促され、ラブ公は腑に落ちない気持ちを抱えてベッドのほうへ歩き出した。



「や、やっぱり僕どっかおかしいのかなぁ……」





 その時であった。





 轟音。





 まるで大きな雷が目の前で落ちたような。


 耳をつんざくような轟音が世界を割った。


 床が、いや、家が縦に揺れた。備え付けてある花瓶やベッドが一瞬宙に舞ったのをラブ公は見た。



 舞っていたのは家具だけではない、自分たちも同じように宙に浮き、全員がそのままの勢いで床に投げ出される。


 世界を割った轟音と共にやってきた縦揺れの後に、今度は振り払うような横揺れがやってきた。

 地中からおどろおどろしく伝わる不気味な音と振動がラブ公たちを襲う。




「あ、あああ!! ミ、ミーティアちゃ、あああああぁぁ!!」


「こ、これは、何!? きょ、教団!?」


「いやああぁぁぁ、ラ、ラブ、ラブ公ちゃ!!!」



 立ち上がることなどできず、床に這うような体勢になりながら全員が声にならないような悲鳴をあげた。



「こ、これは地震!? いけない! シャルロット君! 空中へ!!」



 突然の振動で瞑想から目を覚ました西京が叫んだ。

 空中へ。それはテレポーテーションを使えという端的な指示であった。


 シャルロットはその端的な指示を瞬時に理解し、ラブ公とミーティアと眠っているチョンカをサイコキネシスで引き寄せテレポーテーションを使用した────






 上空でヴィーク村を見下ろすシャルロット達は見た。

 白煙を上げ倒壊した家屋。鳥達が自分と同じ空を慌てふためくように乱れ飛び、中には空中で衝突し合うものもいた。



 カトラ山から濛々と黒煙が上がっている。



 それはまるで世界の終わりを告げる不吉な狼煙のようにシャルロットの目には映っていた。


 気付けばシャルロットの更に上空に、村人全員と共に西京がいた。どうやら西京は全員をテレポートで避難させていたようだった。

 誰しもが自分たちの村の一瞬の崩壊に唖然としていた。



「に、西京……これ……エ、エスパーの人の仕業なの……?」



 ラブ公が絞り出したような声で西京に問いかけた。



「……いや、これは恐らく地震だ……この前のものとは比べ物にならない程にとてつもなく大きな……」


「じ……地震……? これが……? こんなにすごいものなの……?」


「お、お山が煙をだちてる……」


「プ……プップラ!!」



 困惑する村民達の中からすすり泣く声を押し退け老婆の声が響いた。ヴィーク村の家屋は全て倒壊してしまったのだ。恐らくカトラ山にあるプップラの山小屋も無事で済むはずがない。



「ご老体、気持ちは分かるが山小屋は後回しだよ。辛いだろうが今は落ち着きなさい。山小屋には後で必ず私が向かおう。とりあえず揺れは収まったようだからね。皆、一旦地上に降りよう」



 叫ぶ老婆を宥め、西京は村民全員を地上へと降ろした。煙が舞い破壊しつくされ、まるで熱を持っているかのような地面に──

 シャルロットは無言で西京の後に続く。

 ラブ公も、ミーティアも、それからしばらく誰も口をきくことはなかった。

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