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決着

「ま、まさか私の流体金属をこれほどまでに容易く……数字のマジックですか!?」


「ふぅんだ、西京先生に勝てるエスパーなんておるわけないじゃろ、観念しぃや! ラブ公!」


「うん! チョンカちゃん!」



 ラブ公が必死にチョンカのことを考える。助けたい、力になりたい、どうしてもチョンカを死なせたくない。優しいチョンカ、一緒に遊んだこと、たまに喧嘩したこと。ラブ公は心をチョンカでいっぱいにしていた。

 チョンカは自分の体の周囲から見えない何かに包まれているような、そしてそれが体の中に入り自分の力になるような感覚を覚えていた。きっとそれはラブ公の気持ちなのだろうなと思う。

 ワカメシティでの戦闘ではラブ公は離れていたが今は背中に背負っている。チョンカもはっきりと感じていたのだが、ラブ公が近いほど力が出るのだ。つまり背負っている今のほうが力が湧いてきていた。

 もしかしたら、チョンカもラブ公も何となくそのことを感覚で分かっていたのかもしれない。


 チョンカの背中の虹色の輪が高速回転を始める。チョンカはガリに向かい両手のひらをかざし力を溜め始めた。



「何をするかは知りませんが、無駄です。アニマガードに加え私には古代の──」



 ガリが喋っている間にもチョンカの両手の先に集められている光が次第に大きくなっている。そして見る見るうちにその大きさは直径2メートルほどとなり、ガリのほうからはもうチョンカの姿が光に隠れて見えないほどになっていた。



「チョ、チョンカ!!」



 シャルロットがチョンカに集中しているエネルギーの波動に押され近づこうにも近づけず、そして集まる光のあまりの眩しさに堪らず手でひさしを作りながらチョンカのいる方向へ声をかけた。

 集中するチョンカとラブ公にはその声は届かなかった。



「にににぃ……こ、これでも喰らいぃや! 死なん程度に手加減はしてあげるけぇね!! フォトンビームキャノン!!」



 背中の輪がチョンカをくぐらせチョンカの手のひらの先へと移動し、七色の光を放ちながら高速回転を止めた。光の輪が急速に輪の中心に向かって小さくなる。それと同時に、音もなく特大のフォトンビームキャノンがガリへ向けて放たれた。光の輪の同心円状に発射の威力による衝撃波が広がり、空気が振動を起こした。

 チョンカのフォトンビームキャノンはサイコフォトンを収束させて放つ大技であるが、サイコフォトンにしても、サイコレイにしても、そして今回のフォトンビームキャノンにしても、その場の思いつきで放っている技であった。

 西京の指導の下、会得していた能力はサイコスパークであった。それを「こんな風に使えたらかっこええんじゃけど」と思っていたものがラブ公の協力で形になったのだ。思うだけで使えるようになったというところが、西京の言う、チョンカの才能の恐ろしさであった。


 チョンカが放った渾身のフォトンビームキャノンは、うんこカトラ山の頂上表面を削り取り、山はその地形を変化させられていた。そして遥か水平線の向こうへ光は消えていったのだ。

 もちろん、山へ光が到達する前にガリを飲み込んでいる。


 ガリはチョンカの言った手加減のおかげなのか、ボロボロな姿になりながら空中に浮かんでいた。まさに満身創痍と言った感じであった。白衣のほとんどは破れ、所持していた古代兵器類は消し飛び、毛は燃え肌が焼け焦げていた。そして破れた白衣の下からは荒縄が見えていた。



「はぁ、はぁ、はぁ、も、もう降参しぃや! ミーティアちゃんは絶対に、渡さんけぇね!!」


「うっぅぅぅ……ま、まさかここまでとは……このままでは私の勝率は……あっひ! ん、ん、んひーーーーーぃぃぃぃぃ!! 1.323%!? ひ、低い!!」


「あなたの負けみたいね、教授」



 光を集め大きくすることに集中していたチョンカは気付かなかったが、シャルロットが背後にいたのだ。急いでついてきたのであろう。



「シャ、シャルロット……あなた、自分が何をしているのか分かっているのですか……教団を裏切るとは……」


「裏切るも何も雇われていただけよ……ちょっと考え方があたしにはついていけそうにないから、辞めさせて頂くわ」


「ところで、お前、なんで自分を縛っとるん……?」



 ガリの体は今やチョンカのフォトンビームキャノンのせいで、丸裸も同然の状態であったが(うさぎであるため、チョンカも恥ずかしがらずに直視できている)ガリの体に複雑に張り巡らされている荒縄だけは燃えずにガリを縛っていたのだ。



「……はっ! み、見ましたね!?」


「……あん? 見られたら困るようなもんじゃったん……?」


「チョ、チョンカ、あれはあまり見ないほうがいいわ……気持ち悪いから」


「我が亀甲縛り……見られてしまうとは……仕方がない、ここは一旦退くとしましょう!! 覚えましたよ……そして報告しますからね! エスパーチョンカ……そしてエスパー西京!! シャルロットもぉ!!」


「ふん、望むところじゃわ、いつでも来ぃや! いーーーだっ!!」



 西京はそのやり取りを地上から眺めていた。

 本当はこの場で殺してしまったほうがいいと考えていたのだが、そうしない理由が二つあったのだ。

 一つはラピスティ教団の教団員が向こうから襲い掛かってくることを歓迎しているからである。

 西京としてはこの旅の、今のところの第一目標をラピスティ教団を滅ぼすことにしている。その教団員が向こうから襲い掛かってきてくれるのだ。手間が省けてよろしい。

 こうやって教団員との接触を繰り返せば遅かれ早かれ誰かに報告されるのだ。ガリを帰らせたほうがいいと判断したのだ。


 そしてもう一つの理由は、西京にアニマガード、アニマシールドを破る術がないのだ。現状の西京は戦って負けることはないだろうが相手のガードやシールドが抜けない限り勝つことも出来ないのだ。

 シャルロットの話から分かるように教団員のほぼ全員がアニマガードとアニマシールドを持っていると見て間違いはないはずであった。なぜなら雇われの身のシャルロットですら能力を会得させられているのだ。正規の教団員ならば会得していないはずがなかった。


 西京にとってアニマの昇華というものが急務となっていた。



(アニマ……魂の昇華……魂……己の魂か……そうなると鍵はクレアエンパシー……か? 一度落ち着いて試してみる必要があるね……)



 見上げていた上空からガリの姿が消えた。どうやらガリはテレポーテーションで帰って行ったようだった。



「ラ、ラブ公ちゃん……大丈夫だったのかな……」


「ああ、大丈夫だったようだね。誰も傷ついてはいないようだよ」



 その言葉を聴いてミーティアは緊張していた体から力が抜けていくのを感じた。

 そしてそれは、周囲にいた老婆をはじめとする村民たちも同じであった。脅威が去っていくのをその目で確認できて、誰もが安堵のため息を吐いていた。








「チョンカ、さっきの技……見たこともないし、とんでもない威力だったわね。……西京の弟子っていうのも分かるわ……」



 チョンカはワカメシティでの戦いで反省していたことがあった。そしてシャルロットに一つお願いをすることにしたのだ。



「シャルロットさん、ごめん、ちょっとうちのお願い、聞いてくれん?」


「ど、どうしたの!? 急に」


「チョ、チョンカちゃん? もしかして……」


「え、えへへ、そうみたい……あのね、シャルロットさん、今からうち……気を失……う……けぇ──」



 チョンカは糸が切れた操り人形のように、ラブ公を肩に乗せたまま気絶し地上へ向かって落下し始める。



「わ、わぁぁああぁぁ!! チョンカちゃーーーーん!!」


「え!? う、嘘!? ちょっと!!」



 シャルロットは突然落ち始めたチョンカに慌ててサイコキネシスをかけた。



「ご、ごめんねぇ、シャルロットさん。ありがとう……チョンカちゃんね、前にもこの力を使ったときに一週間くらい目が覚めなかったんだ……」


「い、一週間も!? そ、そう……凄い力だったけど、リスクがあるのね」



 チョンカは寝息を立てていた。そんなチョンカの寝顔を見ながらラブ公は、もしも自分が力をチョンカへ渡し続けることが出来たなら、早く目覚めるのだろうかとぼんやり考えていた。


 力を使ったチョンカは眠り、力を渡したとされているラブ公は疲れも感じていない。

 その違和感に気付いていたのは西京だけであった。

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