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取り返したい

「ラブ公ちゃん! ラブ公ちゃん!!」


「ミーティアちゃん……ごめんね、ま、守ってくれたんだね。僕が守るって言ったのに……ごめんね」



 ラブ公はチョンカによって救い出され、ガリから離れたところで寝かされていた。ラブ公の下へ駆け寄ってきていたミーティアが泣きながらラブ公にしがみついていた。



「ちょ、ちょんなことない! あたち、ラブ公ちゃんが怒ってくれてうれちかった!! ちょれだけで十分なの!!」


「な、泣かないで、ミーティアちゃん」



 そう言いながらラブ公は起き上がろうとしていた。

 しかしそれはいつものように、ミーティアの頭を撫でてやるためではなかった。



「ラブ公ちゃん……? お、起きちゃだめよ!」


「まだ、取り返してないんだ」


「……とり、かえちゅ……??」



 ラブ公は立ち上がり、戦闘中のチョンカとガリの方へ視線をやった。そして走り出すために体全体に力を込めなおす。



「に、西京! ミーティアちゃんをお願い! 僕チョンカちゃんと戦うんだ!」


「ああ、構わないよ。ここで見ていてあげよう。ラブ公はチョンカ君に力を貸してあげなさい」



 力を貸す──

 チョンカも以前同じことを言っていた。他人に力を分け与える。自分にそんな力があるのかラブ公には分からなかった。しかしそういった感覚はあった。何かが自分の体を通り抜けていくような、そんな感覚をラブ公は感じていたのだ。そして、西京の言葉にラブ公は頷いた。



「ラブ公ちゃん、だめよ! こ、殺されちゃうわ!!」


「ミーティアちゃん……僕、まだ取り返してないんだ」


「だ、だから、何を取られちゃったの!? そんな傷付いた体でラブ公ちゃん無理したら、あたち……」


「ミーティアちゃんの、笑顔」


「…………あっ」



 ラブ公は優しく微笑みながらミーティアにそう言った。

 ミーティアはラブ公が先程も同じことを言ってガリに向かっていたことを思い出した。

 そんな風に優しく言われてしまい、ミーティアは反論することが出来ず言葉に詰まってしまう。気付けばミーティアの顔はその両目と同じ、夕日のように赤くなっていた。

 チンチラの体は汗をかくことはない。大きな耳から排熱するのだ。ミーティアは体が壊れてしまいそうなほどの動悸と、やけどしそうなほど熱くなった耳のせいで、もう動くことが出来なくなっていた。



「じゃあ、行ってくるね。ちゃんと取り返してくるから!」


「あ……ラブ公ちゃ……」



 そうしてラブ公は再びガリの方へ向かって走り出した。

 ミーティアはそんな後姿を真っ赤な顔と潤んだ瞳で見守っていた。





 チョンカはガリと数回の攻防を経て睨みあっていた。そしてチョンカの横に遅れて飛び出してきたシャルロットが並んだ。チョンカは突然自分の隣に並ばれて、警戒しつつシャルロットから距離をとった。



「教団員でもないエスパーが私のアニマガードを貫くとは……これは稀有な事例です。あっひ! うひ、はぁっ! れ、0.0135%の確率のようです。……あ? 100人に1人? ふぅむ、意外と多いですね」


「10,000人に1人でしょう……馬鹿ね」


「な……馬鹿とはなんですか!! シャルロット! あなたはどちらの味方ですか!」


「あなた……チョンカだったわね。気を付けて。教授は馬鹿だけどさっきのナイフのような古代兵器を白衣の下に隠し持っているわ」


 チョンカは敵対していたはずのシャルロットに話しかけられ、キョトンとしてしまう。ガリの言うように誰の味方なのかという疑問が浮かんだからだ。



「え、えっと、シャルロット……さん? うちの味方をしてくれるのん?」


「ふん、あたしはミーティアの味方よ。別にあなたの味方ではないわ!!」


「チョンカちゃん!」



 そこへラブ公が駆け寄ってきた。ラブ公はそのままチョンカの背中に飛び乗る。



「ラブ公! ……またうちに力を貸してくれん? 多分ラブ公とうちなら、この前みたいに出来る気がするん!」


「チョンカちゃん、僕……よく分からない。そんなこと出来るなんて分からなかった……分からなかったけど僕も今チョンカちゃんと同じ気持ちだよ!」


「チョンカ! 危ないからその子は下がらせたほうがいい……えっ!?」



 シャルロットが忠告をしながらチョンカへ視線をやったそのとき、チョンカとラブ公の体を赤い光りが包んでいく。そしてチョンカの右目が虹色に輝きだす。



「あ、あなた……その姿は……?」


「行くよ! ラブ公!! しっかり掴まっといて!!」


「うん! チョンカちゃん!!」



 その言葉と舞い上がる土埃を残し、二人はシャルロットの前から姿を消した。二人は勿論ガリへ突撃したのだがシャルロットの目には追いきれず、本当に目の前から消えたように見えたのだ。



「え……な、なに!?」



 先程まで自分たちと向かい合っていたガリが何かに弾き飛ばされたのか空中を舞っていた。その更に上空で赤い光を纏ったチョンカ達がガリに向けて手をかざしていた。チョンカの周囲を囲むようにサイコスパークの光球が次々と生み出されていた。



「お前、うちらの友達のミーティアちゃんを苛めよったね? これで反省しぃや! サイコ──」



 チョンカがサイコスパークを発動させようとした瞬間、かざした手の先にガリの姿がないことに気が付いた。そしてガリの声はチョンカ達の更に上空から響いた。



「何をしたのかは知りませんが、その急激な変化、そこの小さい生き物はやはり研究価値があるようですね……どうしても持ち帰りたくなりましたよ」


「……意識が残っとったんじゃね。アニマガードも破ったと思ったんじゃけど?」


「はい、破れました。全体では87.68%の損傷を受け、あなたの打撃箇所はそのまま突き破り私の顎へ直撃しましたよ?」



 ガリの白衣の裾から、ゆっくりと黒煙が溢れてきた。黒煙は意思を持っているかのように濛々と渦巻きながら徐々に下降を始めていた。



「お、お前、その煙、自分の体が燃えとるんやないん?」


「御心配いただきましてどうも。これは──」


「チョンカ!!」



 地上からサイコキネシスで飛んできたシャルロットが再びチョンカの横に並んだ。その表情は険しく、すでにアニマガードを張っていた。



「あなたも早く、強めのアニマガードを張りなさい!! あれは古代の兵器、流体金属よ! 一呼吸でも吸ってしまえば体内で固体化されて取り返しが付かないことになるわ!」


「え? え? え? は、はい!!」



 シャルロットの忠告内容が全然理解できなかったチョンカであったが、言われた通りサイコガードを張った。



「あ、あなたそれ、ただのサイコガードじゃない!! だめよ! アニマガードを張りなさい!!」


「そ、そんなことゆうてもうち、サイコガードしか知らんもん!!」


「え!? あ、あなた本気で言ってるの!? ぁぁああ、もう!! あたしの後ろに来なさい!!」



 自分よりも明らかに年下なのに、偉そうに命令されてすごすごと言われたとおりにするチョンカであった。

 ガリから同心円状に横に広がりながら黒煙が降りてきた。シャルロットはアニマガードを展開し、自分も含めチョンカとラブ公を最大限の出力で覆う。



「あなた方はそれでいいかもしれませんが、地上にいる方々はどうされるのですか? はっ、はっ! んひぅ! うーーぃ。94%の確率で村は全滅しますが?」


「い、いけない! ミーティア!!」


「シャルロットさん、心配せんでも大丈夫じゃよ!! あいつを倒すことを考えよ!?」


「うん! そうだよぉ、だって地上には──」



 チョンカとラブ公の視線の先には村人たちの中心にいる西京がいた。

 しっかりとミーティアを抱えてチョンカ達に手を振っていた。



「おーい、チョンカ君。こっちは大丈夫だから早くそんなエスパーは倒してしまいなさい」



 西京が見ていてくれている。

 それも戦う自分を見て焦った様子もなく落ち着いて、安心して見てくれている。

 それがチョンカにとっては自身の成長の証のように思えて嬉しかった。



「さて、流体金属だったか? この気体が金属というわけなのかな? つまり冷やしてしまえば固体になってしまうわけだね。それ、サイコフリーズ」



 ガリから広がっていた流体金属はヴィーク村を覆うほどに広がり、まさに地上に降りかかろうとしていたその時、猛烈な勢いで地上側から発生部であるガリのほうへ向けて凍りだした。



「こ、これは!! まさかこれほどの!? し、仕方がありません!」



 ガリは流体金属の放出を中断し凍結が自身に届く直前に、更に上空へ逃れたのだった。

 そして固体化した流体金属は重力に任せヴィーク村へ落ちようとしていた。



「珍しい物のようだからね、食べてしまおうか。サイコシャドウ」



 西京から伸びた影が浮かび上がり、あっというまに流体金属全てを飲み込んでしまった。そして影が西京へと戻ったとき、まるで初めから何もなかったかのように流体金属は消え失せ、ヴィーク村の上空には青空が戻っていた。



「え……すご……に、西京って……何者なの!?」



 アニマシールドを張っていたとはいえ流体金属の中にいながら西京のサイコフリーズとサイコシャドウの影響は全くなかった。西京が操作していたのだ。それがどれほどの緻密な操作が必要であるか、シャルロットには分かっていた。

 口を開け驚きを隠せないシャルロットに、チョンカがにんまり笑いながら言った。



「にへへっ、西京先生はぁ、うちの先生! 行くよ、ラブ公!」


「うん! チョンカちゃん!!」



 チョンカの背中に虹色の輪が現れた。そしてチョンカ達はまたシャルロットの前から突然いなくなってしまったのだった。

 しかしシャルロットはチョンカ達を見てはいなかった。

 シャルロットの瞳に映っていたのは、地上にいる西京であった。



「西京……教団以外にこんなすごいエスパーがいるなんて……サイコシャドウ……か」



 もしかしたら、という言葉がシャルロットの頭を過ぎった。過ぎってしまってシャルロットは、まるでよくない考えを頭から振り落とすように首を大きく何度も横に振ったのだった。

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