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 チョンカ一行は波打ち際マンのポエムを聞いてそれぞれが違う反応を見せていた。



「僕決めた! 大きくなったら僕も詩を作る人になりたい!」



 波打ち際マンのポエムに感動し共感を覚え、憧れと尊敬の念を抱くラブ公。



「えーえーえー! ほんまに分からん、ねぇねぇ、なんで海がお母さんなん??」



 いまいち理解が出来ず、それを歯がゆく思うチョンカ。



「────────────ペッ」



 言葉の意味は理解は出来るものの全く共感を覚えないどころか何故か不快に感じている西京。

 まさに三者三様であった。



「うっ……海は全ての生命の源なのさ。生命は皆……海から生まれたのだよ……つまり母というわけさ……うっ」


「へぇーそうなんじゃ? みんな普通はお母さんから産まれるんじゃないん? 先生知っとった?」


「いや、初耳だよ? 言ってる意味もよく分からないね。頭が──」


「えー、とっても素敵な考え方だと思うよぉー!? よぉーし、僕も挑戦してみるよ! 聞いて聞いて!」



 そう宣言したラブ公は、波打ち際マンの隣に座り、波打ち際マンと同じく両足を開き海を眺める姿勢をとった。





「海。海はとってもきれいだよ。僕はきれいな海がだいすきだよ。お魚がかわいくて嬉しかったし、はじめてがたくさんあって楽しかったよ。海は僕の宝石だよ。海さんありがとうね」





 ほぅ……と一息ついたラブ公が座ったままの姿勢でチョンカ達へ向きなおった。



「どお!? どお!? 僕の初めての詩だよ! 宝石ってところ、工夫したんだぁ!」


「ん……うん? ラブ公、海ではしゃいどったもんね。楽しかったんじゃね」


「反吐が出るね」



 ラブ公は二人の感想を聞いて肩を落とした。ショックであると同時に自分の気持ちを伝えられないことが残念で仕方がなかった。



「そ、そんなぁ……いいと思ったのにぃ……」


「ラブ公君……」



 ラブ公は呼ばれて振り返ると、なんと波打ち際マンは海を見つめながら涙を流していた。



「君のハートは……うっ、僕に届いた……なんて素直な気持ちを表現するんだい? さらに最後は感謝を伝えるために敢えて海を擬人化させているわけだね……素晴らしい……今の君に足りないのは技術だけさ……」


「ぎ、技術?」


「そう、呼吸や表現方法も大切ということさ……うっ、君の素敵なポエムをお借りしてもいいかい? ……うっ」


「え? う、うん」



 相変わらず海を眺めたままの波打ち際マンは静かに息を吐ききった後、ひゅっと吸い込んで続ける。









「        ──海──






     僕のハートを揺さぶる貴女を


      決して許しはしない──


      僕を魅了する美しさは罪


      全てを包み込む悠然さは罪


     貴女を彩る回遊魚でさえも罪


    いつも違った表情を見せる貴女は


       存在そのものが罪──



      今日も貴女に会いに行くよ


    貴女は数々の罪の宝石を所持した罰で


     いつか僕に逮捕されるのさ──


         僕は貴女を


      決して許しはしない──」







 波の音が辺りに響いた。

 そして突然、波の音を掻き消すように何かが噴出す音が響いた。



「ラ、ラブ公!! 血! 血が出とるっ!!」



 ラブ公が虚ろな表情のまま鼻らしき場所から大量に出血をしていた。



「しゅ、しゅ、しゅ、しゅごしゅぎりゅ……僕の言いたかったこりょ……じぇんぶ……」


「ラブ公! しっかりしぃや! ラブ公!!」


「ふ……ラブ公君に今の詩を……プレゼンツしよう……うっ」


「は……はひぃ……美しさは罪ぃ……」



 ラブ公はチョンカに抱かれ頬をはたかれてやっと目の焦点が合う。



「ラブ公! ラブ公って!!」


「はっはひぃ! チョンカちゃん? あ、あれ? 僕?」


「僕? じゃないわー! こんなことで心配かけんでや! 何がそんな良かったん? うち分からんかったわ」


「えーーーーーーーー! チョンカちゃん分かんないの!?」



 言われてムッとしたチョンカはプイっと顔を背けてしまう。



「う、うちかって意味くらいは分かりよるけど……その、よー分からんもん!」


「に、西京は?」


「海に罪はないさ。私の気分を害する言葉を吐く罪があったとしてもね」


「うっ……ふ、ラブ公君……感覚の鋭い者こそ……辿り付ける境地さ……批判を気にすることはない……うっ」



 波打ち際マンの言葉に落ち込んでいたラブ公は再び目を輝かせる。



「せ、先生! 波打ち際マン先生って呼んでもいい!?」


「うっ……構わないよ……共にポエムを読みあって……感覚の頂を……目指そうじゃないか……うっ」


「は、は、はいぃぃ!!」



 チョンカはラブ公と出会ってからこんな真面目で元気な返事を聞いたことはなかった。

 理解したいと思いながらも理解が出来ずに歯がゆい気持ちであったが、ラブ公の姿を見てそんな気持ちも少し冷めてきたチョンカであった。



「うっ……また思いついたよ……ラブ公君、聞くかい……うっ」


「えっ、えっ、えっ! もち、もち、もちろん聞くよ!!」


「ま、まだあるん!?」


「もうやめにしないかい? そろそろ死人が出るかもしれないよ?」











「       二人の砂浜






      いつも二人で歩いたね


       楽しい話をする時も


      二人の将来を語る時も


       喧嘩する時だって


   いつも決まってここを歩くときだった




     君が海に還ってしまって


       もう随分経つね




      僕は今も歩いているよ


      海に抱かれている君と


       一緒に歩いているよ



       二人の砂浜を──」








「ぶっ……ぶっは!! ……キュンキュンキュンキュン!!」


「ラ、ラブ公!?」



 ラブ公はまたしても鼻血を噴きながら後ろへ倒れてしまいキュンキュンと言いながら痙攣しだした。



「う、うわぁ……ラブ公……」


「うっ……ふ、ラブ公君にはまだ早すぎた……かな? うっ」


「しょ……しょんなこと……ないよ……悲しい恋のお話……キューン!!」



 そんなラブ公を見て、チョンカは頭を掻きながら少し難しい顔をしていた。



「うーーん……今のラブ公……うーーーーん、2くらいじゃろか?」


「チョンカちゃん、2ってなぁに?」


「うちが決めた変態度数じゃよ! 10点満点中じゃよ」


「えーーーーー!! ぼ、僕は2なの!?」


「んー、普段は0じゃけど、今のキュンキュンゆうとるラブ公は何となく2くらいじゃったね。先生もそう思うじゃろ?」


「うーん? そうだね、今の私に近寄らないほうがいいと思うよ。何だかもう誰でもいいって気持ちだからね」



 ラブ公は愕然としていた。

 ラブ公は元々チョンカよりも感受性が豊かであった。(感情の波立つことがあまりない西京は除外する)

 波打ち際マンの凄いかどうかも良く分からない詩であっても、その強い感受性をもって誰よりも感動を得ていたのだ。ただ、その分人一倍傷付きやすい面もあり、チョンカに変態度数が2と言われ、今までの感動などどこかへ飛んだかのように落ち込んでしまうのであった。



「そんな……僕が2……僕が2……僕が……はっ! チョ、チョンカちゃん! スジ太郎君は? いくつなの!?」



 ラブ公はチョンカに縋りながら尋ねた。

 チョンカは自身の失言にしまったなといった顔をしていた。そしてそんな二人を後ろで西京が、表情はいつもと変わらないが何となく嬉しそうに見ていた。



「ス、スジ太郎は8じゃね。い、一応……うちのこと……あの、その、す、す、す……(好きって)ゆうてくれよったけん、ほんまは10なんじゃけど……は、はちぃ!」


「ワカメボーイさんは?」


「ワカメボーイさんは4くらいじゃろうか? ミルキーウェイがキモイけんそのときは5じゃけど、変態かって言われると……うーん、とにかくワカメ好きなんが理解できん」



 チョンカの判断基準を聞き、ラブ公は少しずつ気持ちを立て直していった。



「うっ……Ms.チョンカ、ラブ公君も……変態とは……何か一つでもいい……他人に理解されなくてもいい……自分が好きなもの……それを他人が理解の出来ない程に……昇華させた人間を言うのさ……うっ」



 チョンカとラブ公の話に、相変わらず海から視線がぶれない波打ち際マンが会話に参加してきた。



「んー? ちょっとうちには分からんかも? 波打ち際マンさんのゆうとることってなんか難しい……そう言えば、ずっと気になっとったんじゃけど、波打ち際マンさん」


「うっ……何かな? うっ」


「その、うーうー言いよるのって何なん? もしかしてどっか痛いん?」



 波が三回、寄せて返した。

 波打ち際マンはチョンカ達が初めて見たときと姿勢は変わっていない。

 波打ち際に腰を下ろし、両羽を支えに後ろに少しもたれかかりながら海を眺めているのだ。

 もう少し正確に言うなら両足を開いて波の中に投げ出していた。



「うっ……気持ちいいのさ……波が……うっ」


「……………………はぁ??」



 チョンカには波打ち際マンの言っていることが先程の詩以上に分からなかった。



「な、波打ち際マン先生! 何が気持ちいいの?」


「うっ……股間さ……」



 サァーーーーっとチョンカの顔の血の気が引いていく。



「そ、そ、そ、そう言えばこいつ、鳥じゃけんあんま気にしとらんかったけど、下半身に何もはいとらん!!」



 チョンカの指摘の通りであった。波打ち際マンは上半身にはちゃんとした服を身に纏っていたが、波に曝されている下半身は無防備なままの姿であった。



「うっ……勘違いはいけないよ……Ms.チョンカ……うっ」


「ひぃいっ!! か、勘違いって何!? なんか話を聞いて改めて波に打たれとる姿を見るとサブイボが出てきよったわ……うぅ」


「波は……当たったときが気持ちいいのでは……ない……うっ……引くときこそ気持ち……いいのだっ……うっ」


「…………じゅっ…………」



 ラブ公が膝をついた。

 そしてチョンカが波打ち際マンを指差しながら叫んだのだ。



「じゅーーーーーーーーーーーーーーー!!!!! 10! 10!! お前、キモ過ぎじゃわ!!

じゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!! うぅ……ぞわぞわぁ」

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