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また会おうね!

「チョンカ君、目が覚めたかい?」



 気が付くとチョンカは、見知った部屋に寝かされていた。

 ランプ邸の二階、チョンカ達がワカメシティに滞在する間にランプに借りた部屋だった。



「先……生……」


「チョンカちゃーーん!! よか、よか、よかっだぁぁぁあぁ! 僕心配で心配で……」


「ラブ公……」



 覗き込む西京と、泣きながらしがみ付いてくるラブ公。

 随分と心配をかけてしまったようだ。

 体が思うように動かないことにチョンカは気が付いた。



「君は一週間ずっと寝ていたのだよ? すぐに起き上がることはできないだろう。何も心配は要らないからもう少し寝ていなさい」


「先生、ラブ公……二人が無事で……よかった」



 西京に頭を撫でられ、ラブ公のぬくもりを感じながらチョンカは再び微睡みだした。

 一連の事件がやっと終わったのだ。

 二人の温かさはそれを告げていた。





 次の日、目覚めたチョンカは起き上がり窓の外を確認しようとベッドから降りた。

 降りた際に隣で寝ていたラブ公がベッドから落ちた。


 かなりふらつくが体調は悪くはなかった。西京が側で看病をしてくれていたせいだろうかと考えていた。


 窓の外はやっぱり、今にも落ちてきそうな色の雲が町を覆っていた。



「えへへ、やっぱりワカメシティはこの空が一番ええよね」


「チョンカちゃん!」


「あ、ラブ公! おはよう。心配かけてごめんね?」


「うううぅぅぅチョンカちゃん!! あの時死んじゃったかと思って僕、僕!」



 また泣き出したラブ公がしがみついて甘えてくる。



「ごめんね、でも助けてくれたのはラブ公じゃよ?」


「え……僕?」



 そのとき、部屋の扉が開き、朝食を持ってきた西京が部屋に入ってきた。



「おや、チョンカ君。もう大丈夫そうだね?」


「先生! 先生も無事だったんじゃね!! 本当によかった」


「ふむ、エスパーウニ……フェアリーといったかな? 奴のアニマシールドという技で動きを封じられてしまってね。チョンカ君にはすまないことをしたね」


「アニマ……そういえばそんな技使こうとった!」


「多分……だが、奴のアニマシールドという能力は完全ではないのだろうね。チョンカ君に対して使ったことで私のほうにかけられていたアニマシールドが解けたのではないのかな?」



 そう言いながら西京は、窓際のテーブルにチョンカのための朝食を置いた。

 ラブ公に促されてチョンカは席に着いた。



「この世の中にはやっぱり私も知らないことがたくさんあるね。ますますラピスティ教団をほろぼ……追いかける理由が出来たね」


「うん、あいつら危ない奴らなんじゃろ? うちもフェアリー見とって思った。同じエスパーとして放っておけんわ!」



 ロールパンを二つ、口に詰め込み、ミルクを飲みながらチョンカは忙しそうに空腹を満たしていく。



「それはそうとチョンカ君、どうやってアニマシールドを破ったんだい?」


「うん、うちももう死んじゃうかと思いよったんじゃけどね、ラブ公が力を貸してくれたん。そしたら急にばぁーーって力が沸いてきて、それでね、それで──」


「ほう……ラブ公が?」



 二人の視線がラブ公へ注がれる。

 ラブ公は突然話を振られて恥ずかしそうな、どうしていいか分からないといった表情でオロオロしはじめる。



「え、えっと、僕、何もした覚えがないんだけど……?」


「えー? そうなんじゃ? じゃあなんだったんじゃろう??」


「……アニムスの鍵……」



 今度はチョンカとラブ公の視線が西京へ向けられる。

 思いもよらない単語が飛び出したからだ。



「その鍵を持つ者は無限の力を得ることが出来る……前にそう言ったね? もしかしたらヤマブキの言うように、チョンカ君はアニムスの鍵を知らぬ間に所持しているのかもしれないね」


「うーん? そうなんじゃろか? でも先生、アニムスってなんとなく何のことか分かった気がする!」


「ふむ、そうなのかい?」


「うん! えっとね…えっと、あれ? なんか上手く言葉にできん……なんかこう、うわーって体に入ってくるような感じ?」



 身振り手振りで必死に伝えようとするチョンカを見て、西京は心が和らいでいくのを感じた。



「ふふ、まぁそれはラピスティ教団にでも聞いてみればいいさ。ただ、あの力をいつでも引き出せるようにしたいところではあるけどね」


「うん! うち頑張るっ!」


「僕も頑張るっ!」



 二人でキャイキャイとじゃれ合っている様子を西京は見ていた。正確には見ていたのはラブ公だったが。



(無限の力を与える鍵……ダールが滅んだ後に現れた謎の生物……それがチョンカ君に力を与えた……か)



「チョンカちゃん!!」



 扉のほうから呼ばれ、三人が振り返るとそこにはスジ子をはじめとしたランプ一家が勢ぞろいしていた。



「スジ子ちゃん!!」



 椅子から立ち上がりスジ子の元へ駆け寄ろうとして部屋の中央でふらついてしまったチョンカをスジ子が優しく抱きとめる。



「チョンカ……ちゃん! ごめん、ごめんね! 町の為にこんなになってまで必死で……!」



 スジ子は大粒の涙を零していた。

 心配をかけたことを謝ろうと思っていたのだ。それがまさか涙ながらに謝罪されるとは思ってもみないことだった。

 ランプがスジ子の肩に優しく手を置き、涙ながらにチョンカの顔を見る。



「チョンカちゃん、本当に、本当にありがとう。あの時チョンカちゃんが助けてくれなければ、今頃スジ太郎と私は……」


「ラ、ランプさん、やめてぇや、うち……あ、あのね! うち、二人が仲直りできて良かったと思っとるよ!」


「チョンカ!」



 いつになく真面目な面持ちでチョンカの名を呼んだスジ太郎は、真剣な話をしたいのであろう、乳首をつねって放乳するのを我慢し内股になりつつ真っ赤な顔をしていた。



「ひっ! な、なに? お前……もうキモイ以外の言葉が浮かばんわ……ごめん」


「お、俺……俺……チョンカのこと、好きだ!!」



 赤い顔の理由は我慢だけではなかった。

 突然のスジ太郎の告白に室内の時が止まった。

 そして沈黙を破ったのは突然響いた鈍い音と共に倒れるスジ太郎と、その後ろで血のついた麺棒を片手に「ホホホ」と笑うヒレ美であった。



「あらぁもうこの子ったら何を言い出すのかしらねぇ? チョンカちゃん寝起きにごめんなさいね? 聞かなかったことにしてあげてね?」



「ヒ、ヒレ美さん……あ、あはは、ありがとうね……」



 ヒレ美の圧力にランプ一家もチョンカ達も誰も口出しできずに、乳を出しながら倒れているスジ太郎を見ていた。

 そして空気を変えるためにランプが西京に切り出した。



「西京さん、考えたのですが私たち一家は近い内に引っ越そうかと思ってます」


「ほう、どうしたのかな?」


「我々はこの町がワカメシティとなるまでは一家で乳業を営んでおりました」


「ふむ、そうらしいね。スジ太郎君が昔言っていたね」


「ヒレ美の乳は止まったままですが、また再開しようと思いましてね。町の外になってしまいますが、ワカメボーイ様の許可を得て日当たりのいい場所に行こうかと思うのです」



 そう言うとランプは床に寝転がっているスジ太郎の方を見た。



「ふむ? ん? まさかランプ君……君は……」


「あーいえいえ、スジ子は今乳の出がピークなのですよ。あ、いや本当ですよ? なあスジ子?」


「と、父ちゃん!! やめてよ!!」


「ま、まぁそういうことならいいのではないかな? 家族四人で幸せに暮らせるのなら応援しているよ」


「ありがとうございます! チョンカちゃんの体調が戻るまでは是非ここに滞在してください。そして次にワカメシティへお越しの際は我々の乳を是非飲んでください!」



(……ふむ、枯れることを知らないスジ太郎君の乳で儲けるわけだね。引越しも住民にスジ太郎君の乳絞りが見られない為だね。ランプ君も意外と抜け目がないね。もし頂いたら飲んだ振りだけして即座に滅することにしよう………………ん? チョンカ君が先程口にしたミルク……いや、やめておこうか)



「ああ、そのときは是非頂こう」



 ランプと西京は互いに握手を交わした。







 チョンカが目覚めて一ヶ月が過ぎた。

 今日はチョンカ達がワカメシティを旅立つ日であった。

 見送りに来た多くの住民達と、ランプ一家、それにワカメボーイの姿があった。



 この一ヶ月間、チョンカ達は町の復興を手伝っていた。

 ワカメボーイは西京のサイコヒールにより即座に復活したそうだ。

 目覚めた後、ワカメボーイと会った時は土下座をされて驚いた。






「チョンカ!! 無事だったんだな!! まずは──」



 そう言ったワカメボーイのワカメがなんだか低くなったように見えた。そしてそのまま前に倒れる。



「この通り、すまなかった!!」



 あ、土下座じゃ。とチョンカは思った。ワカメを着ているせいでここの住民たちは前か後ろかも含めて姿勢が分かりにくいのだ。



「ワ、ワカメボーイさんやめてや! うちは大丈夫じゃけ」


「いや、俺の気が済まねぇんだ! 本来この町を守るのもお前たちを守るのも俺の役目だったんだ。それを守ってもらった上に町の復興まで手伝ってもらうなんて……俺はっ、俺はっ!!」



「ああああ、もう恥ずかしいけぇもうそれくらいにしてやぁ!!」






 そんなやり取りがあった。

 復興作業を行っている間に町の住民達とも随分仲が良くなった。

 みんな「チョンカちゃん」「ラブ公ちゃん」なんていう風に呼んでくれるのだ。

 もっともランプ一家以外のワカメは未だに区別がつかないチョンカであったが。



「チョンカ、西京先生、ラブ公、三人とも本当に世話になったな。町の恩人だぜ。絶対にまた来てくれよ?」


「ワカメボーイさん! うん! 絶対また来るけぇね!」


「僕も絶対にまた来るよ!」



 スジ子が涙目でチョンカの元へ駆け寄ってくる。



「チョンカちゃん!」


「スジ子ちゃん!」


「チョンカちゃん……今度こそ本当にお別れなんだね」


「……うん、スジ子ちゃんほんまにありがとうね」


「私たち、ずっとずっと……ずーーーーーっと、お友達だよ?」



 その言葉を聴いて、チョンカの涙腺もとうとう緩んでしまった。



「スジ子ちゃぁー……あ、当たり前じゃよ! うちらずっとずっとずっとずぅぅぅーーーっと友達じゃよ!! 絶対また来るけぇね!!」



 抱き合う少女達。


 大切な人と出会った。

 怒ったこともあったし悲しいこともあった。


 それ以上に嬉しいことや心が温まることがたくさんあった。


 すごいなと素直に尊敬できる人達に出会った。


 自分の小ささも思い知った。




 でも、それでも守れたんだ。

 この町を、大好きな人を、笑顔でさようならが出来るくらいに。


 チョンカの心は誇らしい気持ちでいっぱいだった。



 ずっと難しい顔で黙り込んでいた西京が呟いた。



「さぁ、これでもうこの町でやらなければならないことは終わったよ。チョンカ君、次の町へ行こうか」


「先生? さっきから何かやっとったん?」


「ふふ、最後のお仕事さ。さぁ行こう、チョンカ君!」


「んー? うん! じゃあみんな元気でね!! また来るけぇねー!!」



 手を振るチョンカ達に町の人々が別れを惜しんで声を上げる。答えるようにワカメを振る。


 ワカメシティの空は本当に、本当に相変わらずの曇天模様だったが、チョンカはそんな天気も好きになっていた。

 チョンカの前には遠くの山のほうへ向かって海岸線が走っている。

 砂浜に下りて竹馬を駆るラブ公と駆けっこをしながら、チョンカは次の町へ旅立ったのだった。

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