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旅立ち

「もーえろよ、もーえろーよー」



 私は四方を炎に囲まれて機嫌が良かったのさ。

 炎が渦巻き、火の粉が舞い上がり、敵を全て飲み込んでもなお燃え移り大きなうねりを見せていたよ。

 やっぱり炎はいいね。美しいよ。このまま全てを燃やすがいいさと思ったよ。


 ああ、もちろん私が出していた炎だからね。私たちに襲い掛かることなんてないさ。

 それよりも、チョンカ君のところへ行く前に、亀を見つけてね。

 亀は甲羅を真横に割られていて、痙攣していてたのさ。チョンカ君は殺すつもりはないと言っていたけれど、もう助かりそうにない様子だったね。

 亀にとって甲羅とは、骨の一部のようなものだと聞いたことがあるからね。

 しかし、わざわざチョンカ君の手を汚すのも後味が悪そうだから、息のあるうちに私がとどめをさしておいたのさ。

 とどめを刺したとき、チョンカ君のほうからラブ公の声が聞こえたのだよ。



「チョ、チョンカちゃん! 目が覚めた?」


「ラブ公……そっか、うち亀オヤジを倒して寝てしもーたんじゃね」



 ……………………チッ。

 本当に運のいい奴さ。単純に運だけではなかったのだろうけれどね。



「せ、先生」


「よくやったね、チョンカ君。さぁ、じっとしていなさい。今体を治してあげようね」



 サイコヒールでチョンカ君の背中を治してあげていると、チョンカ君が震えていたのだよ。

 私はチョンカ君の後ろにいたから表情までは見えなかったのだけれどね。泣いていたのさ。



「先生、おうち守れんでごめんね……森も全部燃えてしもうて……」


「チョンカ君、この炎は私の炎さ。その証拠に私たちの周りには燃え移らないだろう? 家に燃え移ったのは、体の燃えた兵士たちが家に縋りついて燃え移ってしまったのではないかと思うよ。チョンカ君が気にすることなど何もないさ。家も燃えてもいいと思って火を放っているからね」


「でも、先生! うちらの帰るところが」


「何度も言うけど、チョンカ君のせいではないさ。それにチョンカ君、君は私に言ったね? この世の悪いエスパーを倒して、世の中の誤解を解いて回ると。悪いエスパーばかりではないことを証明すると。私はね、どちらにしろ、そろそろチョンカ君を連れて旅に出るつもりだったのさ。家と山が燃えて丁度いいと思っているくらいさ。今度の旅は本当に長旅だよ? なにせ世界中さ。テレポーテーションを使っても届かない距離を旅するのさ。チョンカ君はどうするのかな?」


「……先生っ! そのお話、覚えてくれとったん?」


「おや? チョンカ君は私が忘れていたと思っていたのかい? もちろん覚えているさ。だから君に修行を付けていたのだよ?」


「うぅっ……せんせー……うち……」


「ヤマブキを逃がしてしまっていてね。それ以外は全て倒したのだけれどね。ヤマブキはまた襲い掛かってくるよ。持ってもいないアニムスの鍵を狙ってね。危険な旅になるかもしれないね。チョンカ君、落ち込んでる暇はないよ?」


「うぅ……は、はいっ!」



 涙をぼろぼろ零しながら私のマフラーを掴んで必死にうなずくチョンカ君。ああ、大人になっても君は子供のままなのだね。そう思ったよ。本当に親の気持ちさ。



「悔しいのは分かるさ。だから旅を続けながらもっと力をつけなさい。大丈夫、私がずっとそばにいてあげるから」


「僕もいるよ! チョンカちゃん!」



 ああ、殺したい。



「先生、ラブ公! ありがとう! うち、もっと頑張るけんね! 今度は絶対守るけん!」



 パイロキネシスの炎を消したら、夜が明けていたことに気がついたよ。

 私達は、主に私のせいで家を失ってしまったわけだけど、そのまま旅に出ることにしたのさ。



「さあチョンカ君。君は君の夢を叶えるんだ。出発の号令は君の役目だと思うよ?」


「チョンカちゃん!」


「う、うん! じゃあ二人とも! 行くよ! うちについてきてや!!」



 拳を空に向けて突き上げながら、元気になったチョンカ君が先頭を歩き出したのさ。

 これから今に至るまで、ずっと旅を続けることになるわけだね。





 さぁ、私からの話はこれでおしまいさ。

 道中の話はチョンカ君にでも聞いておくれよ。

 しかし、私たちの出会いなんて、本当に必要な話だったのかい? 君がそう言うから全て正直に話をしたわけだけれどね。しかし私の視点から見た話はチョンカ君に内緒の部分が多いからね、彼女にはやはり内緒にしておいてもらえるとありがたいかな。まぁ、話をしたところでチョンカ君は信じようとはしないだろうけどね。



 ところで、そろそろ私の質問にも答えてくれないかい?

 チョンカ君はあのままでいいかもしれないけれど、せめて私くらいは把握しておいたほうがいいと思うからね。


 アニムスゲートとは結局何なのだい? 君は以前、アニムスを取り入れるといっていたね。アニムスが何なのか未だに説明が無いから分からないけれど、ゲートの先に別の世界があるという認識でいいのかい?


 私もね、あまり人に質問するのは好きではないのだよ。知りたいことがあったら自分で調べるタイプなのさ。だから君に対してもあまり質問を重ねたくないのだけれど、仕方が無いだろう。君しか知らないのだから。

 だからさらに質問を重ねさせてもらうよ。今の内に聞いておかないといつ聞けるかも分からないからね。


 ゲネシスとは何だい? 君はこの前出会った監視者と名乗った奴をそう呼んでいたね? 監視者と聞いて私が思い浮かんだのは、この前見た映像で言っていた『アンドロメダの監視』という言葉なのだが。アンドロメダとは何だい? 何か組織の名前かい?

 え? 銀河? ……ますます分からないな。


 仕方が無い。今から私がたくさん質問すると思うが、一つ一つ丁寧に答えてくれないかい? 君にはクレアエンパシーも効かないしこうして会話をすることでしか聞きたいことも聞けないからね。

 時間がかかっても私もこうして今までの出来事をちゃんと説明したじゃないか。

 君もそれに見合うだけの時間をとる必要はあると思うが?



 さあ! 知ってることを全て教えてくれないか!

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