「お譲ちゃん、休んでる暇はないぜ!」
チョンカ君の正面と後ろから複数の卵が襲い掛かったのだけど、スピードはそれまでとは桁違いに早くなっていたよ。
「先生! うち初めての戦いじゃけ、ガードすることばっかり考えとった!」
そう、チョンカ君がサイコガードを使うことは珍しいことだろう?
今でも彼女の戦闘はテレポーテーションが主体だからね。
卵がヒットする瞬間、チョンカ君の体が消え一歩後ろの場所へ移動していたのさ。
「もうガードはせん! いつも通り戦う!」
「ほう、本気を出すという意味か? だったら俺も見せてやるぜ? L寸産卵玉をよぅ……戻れ!」
方々に散らばっていた卵が再びマーシーの尻に吸い込まれていったのさ。
「今じゃ! サイコキネシスッ!」
チョンカ君のかざした手の先の地面がゴボッと抉れて土のと地中の石が宙に浮かんだのさ。そしてそれらはいくつもの塊に分けられそれぞれがマーシーを目指して高速で撃ち出されたのだよ。
今でもチョンカ君が好んで使う技だね。地味だけれど有効な技だと思うよ。
そしてマーシーは卵と同時に土や石を尻に叩き込まれる形になったのさ。
「おおぅふ!! ああぁぁぁあああああああああ!! こ、こ、こ、これは! あふぅ!!」
次々と尻に投げ込まれる土砂にマーシーは目を白黒させていたね。気持ち悪かったね。
「も、もうやめ……あぁぁああぁぁああ! こわれ、壊れちゃうぅぅううぅぅぅ!!」
「ならこっちも壊してやるけんね」
テレポーテーションでマーシーの背後に瞬間移動したチョンカ君が囁くように言い放ったのさ。
右手はチョンカ君の精神エネルギーが凝縮された光を纏って輝いていたよ。
そう、チョンカ君の一番の得意技さ。
纏った光で右手がかなり強化されているのだよ。
当たったら痛いどころでは済まないだろうね。
「これでも喰らいーや! サイコルークス!」
ゴボッという音をたてながらチョンカ君の手刀がマーシーの甲羅に突き刺さり、甲羅が真っ二つに割れたのさ。
そのままマーシーは気を失って地面にひれ伏したのだよ。
さすがはチョンカ君だね。
でもマーシーの卵を背中にまともに受けてしまっていたからね。その場にひざをついたチョンカ君も満身創痍だったのだよ。
「うぅ、先生……亀オヤジは倒したけん……ね。あとはお願いするね……」
「チョンカちゃん!」
チョンカ君はそのまま倒れ気絶してしまったのだよ。
「チョンカちゃん! しっかりしてぇ!」
「マーシー! なんと……くっ、仕方が無い! 兵士たちよ、そこの少女を拘束しなさい!」
マーシーを倒されるとは思わなかったのだろうね。
ヤマブキが家を取り囲んでいた兵士達に気絶して無防備なチョンカ君を捕らえるように命令を下したのさ。
もちろんそんなことはさせないよ。
私はいつものように、私が一番得意としているその技を使ったのだよ。
鳥かごにサイコシールドが張ってあっても私には関係ないさ。
「ヤ、ヤマブキ様! 誰かが周囲の森に火を放ったようです!!」
「な、なんだこの炎! 迫ってくるぞ!」
私のパイロキネシスでこの家を囲む森全てに火を放ったのさ。
一般人と言えど兵士なのだ。逃がすわけが無いだろう?
こうやって追い詰めておいてから皆殺しだよ。
チョンカ君に危害を加えた罪は魂で贖ってもらうよ。
「な、なんですか……一体何がどうなっているのです……」
逃げ惑う兵士たちは最早チョンカ君どころではなく、燃え盛る炎に弄ばれ、空へ巻き上げられていたのさ。阿鼻叫喚とともに、辺りは魂が燃えることによる炎色反応でエメラルドグリーンに照らされていてとても幻想的だと言えるかも知れないね。
ヤマブキにとってはその光景は恐怖だったかもしれないけれどね。
「ま、まさか、西京様の仕業なのですか!? 我等の鳥かごに捕らえられながらこれほどの能力を発揮できるのですか!? 信じがたい……」
「う、嘘じゃ! ワシの自慢の鳥かごがこのような野良エスパーごときに……し、しかし、ヤマブキ様! こやつはここから出ることは出来ぬはずです! マーシーはもう助かりません。今の内にお逃げください! そして体勢を立て直し、なんとしてもアニムスの鍵を!」
「私がこの鳥かごとやらから出られないと、いつ言ったのだい?」
初めに言っただろう? 長きに渡る修練の末に手に入れたあまりに強大すぎる力を持て余していたって。
ずっと抑えていたのだよ? 15年間。
それもこれも全てチョンカ君のためさ。
私が鳥かごに触れて、力を流すと鳥かごに纏わりついていた植物が枯れ、金属部分にひびが入ったのだよ。
「な……なんじゃ……こいつは……化け物か……」
「西京様……やはりあなたは素晴らしい……仕方がありませんね。西京様、今回は引きます。しかしアニムスの鍵を諦めたわけではございません。私は西京様のお力を高く評価しておりましたが、その私の想像を遥かに凌駕しておりました。次は今回のような結果にはさせません。西京様、覚悟をしておいてください」
「私は持っていないと何度言えば分かるのかな。いい加減にしつこいからもうお仕舞いにしよう。特別に私がお前たちの魂を浄化してあげるからこっちへおいで」
鳥かご全体にひびが入り、光と共にはじけ飛んだのさ。あの程度の檻で私が捕らえられるはずがないだろう?
私の体から伸びた黒い影が、ハヤミとかいうモグラの爺の体を包んでいってね。
サイコシールド?
そんなもの。さっきも言ったが私の前では無意味さ。
圧倒的な力の差があれば、シールドを張ったところで……
「な、なんじゃ……こ、これは! 馬鹿な!」
「ああ、チョンカ君が気絶していて良かったよ。こんな邪悪な技をチョンカ君に見せるわけにいかないだろう? さて、私の影がお前を飲みつくすまでがお前に与えられた最後の時間さ。お前が現世に留まる事の出来る時間だよ」
「ヤ、ヤマブキ様! 今の内です! 早くお逃げください!」
「すまない、ハヤミ……分かりました!」
そう言うとヤマブキはテレポーテーションで早々と逃げてしまったのさ。
え? 逃がしてよかったのかって? うーん、そうだね。
勿論あのときに殺すことは出来たのだけれどね。まぁ、ヤマブキごとき雑魚はいつでも殺すことは出来るし、チョンカ君の修行に丁度いい力量の相手だろうし、それに私はあの時色々考え事をしていて忙しかったのさ。
何をって、勿論初めにも言ったとおり、このどさくさにまぎれてラブ公を殺すことを考えていたのさ。
ふと視線をやると、気絶しているチョンカ君の上でワンワン泣きながら揺さぶって起こそうとしていたね。
あの慌て様は周りの炎が私の能力だとは思っていないようだったね。本当に滑稽な奴さ。
「あ……あがぁ……に、し……きょ……」
影がハヤミを飲みつくした。そして影は消え、その場には何も無くなったのさ。
「さて、亀にとどめをさしたらラブ公を燃やそうかな」
そのときはあまり気にしていなかったのだけれど、実は私の放ったパイロキネシスは周囲に燃え広がっていて、あの時点で手遅れなほどに山全体に火の手が広がっていたのさ。
私の家にも燃え移っていてね。あたり一面火の海だったのさ。
うん? そうさ。私の家を燃やしたのは私自身さ。
とにかくチョンカ君の無事は感知で確認できていたからね。あの時は急いでラブ公を始末することを考えていたよ。
まぁ、結局チョンカ君が目覚めていたから始末することが出来なかったのだけれどね……