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産卵

「西京様にはそのままおとなしくしていていただきましょう!」



 突然私とチョンカ君の間を阻むように、地面から植物の茎と蔦で出来た壁が現れたのさ。



「ヤマブキ……!」


「チョンカ様のことはマーシーに任せます。それで西京様、今度こそ思い出していただけましたでしょうか?」


「知らないものは何度聞かれても知らないさ」


「そうですか……ではこのままチョンカ様が死にゆく様子をここでご覧になっていていただきましょうか。ハヤミ!」



 ヤマブキの呼びかけに地中からサングラスをかけたモグラが飛び出してきたのさ。



「お任せあれ!」



 そして一瞬で私の周りの土が隆起し、鳥かごを形作ったのだよ。そのまわりを御丁寧にヤマブキの植物が覆って簡易的な牢屋の完成さ。



「ワシはハヤミ。捕縛専門のエスパーじゃよ。西京とやら、お前さんがどれほどの使い手かは知らんが、ワシとヤマブキ様の鳥かごは破れぬよ」



 ふむ、確かにそこそこ硬かいしサイコシールドも張ってあって並みのエスパーなら出ることは出来ないだろうね。だがあんなもので私を抑えることなど不可能さ。

 しかしね、捕らえられたことで少し冷静になれてね。チョンカ君がピンチのときは思わず飛び出しそうになったけれど、チョンカ君は「世の中の悪いエスパーを倒したい」と言った。これから先、戦うことはたくさんあるだろう。私は捕らえられている振りをしてチョンカ君の戦いを見ることにしたのさ。



「……仕方がないね。ではここでチョンカ君の戦いを観戦しているとしようか」


「……西京様、余裕なのですね。愛弟子が死にますよ?」


「チョンカ君は確かに戦うことは初めてだけれどそんなに弱くはないのだよ。見てご覧」



 背中から襲い掛かってきた産卵銃とやらを辛うじてではあったがかわしきったチョンカ君とマーシーがにらみ合っていたよ。



「俺の産弾をかわしたのは褒めてやるよ、お譲ちゃん」


「キ、キモイわ……エスパーってほんまキモイやつしかおらんのじゃろうか」



 戻ってきた卵は全てマーシーの尻に収まっていたのさ。私がヤマブキと会話をしているときにマーシーの大きな喘ぎ声が聞こえていてね。チョンカ君も青ざめながらもしっかりと対峙しているあたり、大人になったんだね。



「うぅっ……次はもっと産んでもっと気持ちいい思いをしてやろう。ヒック! 1個産んで気持ちいいならば十個産めば気持ちよさは十倍だぜ! ふぇぇ」


「その発想がキモイわ! しかも泣きながら言わんでくれん!?」



 再びマーシーの銃口がチョンカ君に向けられ、よく分からない粘液と共に高速で卵が撃ち出されたのさ。

 しかし今度の卵は最初の卵よりも数が多く、大きいものだったよ。



「ぐっ、こんなもん、うちのガードで……あぐぅ!」


「チョンカ君!」



 次々と襲い掛かる卵の嵐にとうとうチョンカ君のサイコガードが剥がされてしまって、そのまま弾かれ倒れてしまったんだ。

 ……そうだね、さすがにちょっと肝が冷えたさ。

 もう我慢できずに出て行こうとしたそのときだったね。



「チョンカちゃ~ん!」



 家にいたはずのラブ公がチョンカ君のもとへ走っていったのさ。

 実は後で戦いのどさくさに紛れて家ごと吹き飛ばそうと思っていたのだけれどね。



「うぐっ……ラ、ラブ公、だめじゃよ、おうちに隠れてて」


「でも、でも! チョンカちゃん!」


「うちなら大丈夫。あんな奴に負けたりせんよ!」


「チョンカちゃん、僕ね、チョンカちゃんが危ない目にあってるのに、自分だけ家の中なんてやだよ!」


「ラブ公……」


「僕は弱っちいし、戦えないけど、チョンカちゃんのそばにいたいよ!」


「……わかった。じゃあラブ公はここでうちのこと見てて。ラブ公はうちが絶対守るけんね」


「お譲ちゃんお話は終わったのかな? わざわざ待ってやったんだぜ」


「ふん、亀オヤジ、今度は倒されんけんね。覚悟しぃや」


「じゃあいくぜ!」



 マーシーの産卵銃という技は、自分の産んだ硬化した卵をサイコキネシスで高速で打ち出し、避けられても戻ってきて背後から不意打ちができる。そしてまた自分の体内に戻し、弾を消費することは無い。そういう技さ。

 ……技とは呼びたくない品の無い発想だけれどね。

 そういうわけでチョンカ君は戻ってくる産弾を警戒しマーシーに背を向けたのだよ。



「産弾がそれだけだと誰が言ったんだ?」



 まさかのマーシーからの産卵にチョンカ君は焦った表情で振り返って構えなおしたのさ。でも……



「あぐぅっ!! がはっ!」



 チョンカ君の背中に卵が2つ、めり込むようにヒットしていたのだよ。

 マーシーから放たれた卵はガードできていたのだけれどね。

 自分から卵を放ちつつ、チョンカ君の後ろに転がっていた卵も同時に操っていたというわけさ。



「チョンカちゃん!」



 ラブ公と被ってしまって気分が悪かったがもうそんなことは言っていられない状況だったね。



「ふふ、西京様。そろそろ鍵のありかを……」






「黙れ」





「……っ!」





「殺すぞ」





「先生!」



 チョンカ君は相当ダメージを受けただろうに、でも倒れていなかった。立っているだけで精一杯だったけれど、それでも立っていたのさ。



「先生、まだ大丈夫じゃよ……それにうち、あいつの攻撃を受けとるだけでまだ何もしとらんもん。うちは先生の弟子じゃもん。この程度では倒れんもん!」


「チョンカ君……」


「じゃけ、先生はそこで見とって! 先生は大丈夫なんじゃろ?」


「ああ、私は大丈夫さ」


「ラブ公!」


「ぼ、ぼ、僕はチョンカちゃんを信じてるよ!」



 苦しいはずのチョンカ君は、口角をあげながらマーシーを睨んでこう言ったのさ。



「うちも二人を信じとる。絶対守るけんね」

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