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初めての戦い

 まぁアニムスの鍵の話はどうでもいいのさ。

 そんなに怒らないでくれないかい? 実際当時の私たちには全く関係の無い話だったし、それどころか知識も無ければ存在すら信じていなかったからね。無理も無いだろう?

 そうだね、頭のおかしい奴に「アニムスの鍵」を所持していると勘違いされて襲われている。

 単純にそういう認識だったよ。



「さて、ではチョンカ君」


「はい! 西京先生!」


「ヤマブキが来てから四日経ったわけだけど、多分そろそろ来るんじゃないかと思うのだよ。アークレイリから戦力が揃うのを待って準備万端で襲ってくるとすれば、今夜辺りじゃないかな」


「ふぇ……ふぇぇぇぇ! じゃ、じゃあ逃げなきゃぁ!!」


「大丈夫じゃよ、ラブ公! うちも強くなったんじゃもん! 多分、その辺のエスパーになんか負けんよ!」


「ふふ、そうだね。チョンカ君は実戦経験はないけれど、強力な技もたくさん覚えたからね。きっと大丈夫さ。ただし、エスパーに関してはまぁ言うことはないのだけれど、一般人に関しては感知できないからね。能力に依存しすぎるとそういう落とし穴もあるから気をつけるようにね」


「はい!!」


 同じエスパーの気配を察知するというのは、この前も話をした通りある程度力が付けば出来るようなることなのだけれどね、これは常に発動しているような能力ではなくてね。耳を澄ますのと同じ要領でね、意図して発動しないと出来ないのさ。

 それに対して私の山全体に張り巡らしてあったものは侵入者を察知するためのものでね。見えない網を張っているようなものさ。

 力のあるエスパーは自分の住処周辺には大抵やっていることさ。

 ただこれも、エスパーではない一般人は感知することはできなくてね。

 チョンカ君に言っている注意というのは、暗殺の注意さ。



「さて、では我々はのんびりと相手の襲撃を待とうじゃないか」



 それから半日以上過ぎ、日が暮れて、家の周りは月明かりが照らしていたよ。

 山の頂上の家は侵入者対策の為に周辺の木は全て伐採しているからね。昼でも夜でも誰かがいれば丸裸さ。

 どうせ丸裸だから関係ないと言わんばかりに家の周辺を囲むように兵士が陣取っていたよ。



「むふ、ヤマブキも含めてエスパーは三人か。仕方が無いね。チョンカ君サイコシールドは張っているね? 出るよ」


「はい! 先生!」



 ん? サイコシールドかい?


 ふむ、説明ばかりで話が進まないけれど聞きたいのかい?

 エスパー同士の戦いではね、何よりも一番気を付けなければいけないのは相手の精神干渉なのさ。

 ヤマブキが使っているサイコポゼッションもそうだし、私がラブ公に使うクレアエンパシーもそうさ。

 他にもサイコキネシスで身動きを封じられたりも危ないね。そういった精神干渉を防ぐのがサイコシールドなのさ。ただしこれはあくまでも精神の干渉を防ぐのであって物理的干渉は防げない。物理的干渉はサイコガードを使うのだけれど、同時に使うとなるとどちらも防御力が落ちてしまうね。

 テレポーテーションやテレパシーも、シールドやガードの使用中は著しく能力が落ちてしまうところが欠点さ。しかし、使わなければ戦闘開始直後に相手の内臓をいじくり倒して瞬殺だとか、精神汚染して操り人形になんてことにもなりかねないのさ。



「こんばんは、西京様」


「やあ、ヤマブキ君。これはまた大勢でどうしたのかな? うちは狭いからね。こんなには入れないのだが?」


「アニムスの鍵の在り処は思い出していただけましたでしょうか?」


「さぁ、知らないね。私は見かけていないし、まして所持なんてしていないよ」


「そうですか。それは残念です……」



 それを聞いて、ヤマブキの側に控えていた亀がのっそりと前へ出てきたよ。



「ヤマブキ様、ここは俺にお任せください」


「マーシーか。いいでしょう」



 マーシーと呼ばれた亀がサイコキネシスでフワフワとこちらへゆっくり飛んできたのさ。マフラーが逆立っていたけれど、あれは力の無駄遣いじゃないのかな……



「おまえが西京か?」


「いかにもそうだが」


「おまえのような野良エスパーごときがアニムスの鍵を持つ資格はない。早急にヤマブキ様へ渡せ!」


「そうは言われても持っていないものは持っていないのだが」


「では仕方が無いな。少々痛い目を見てもらおうか!」



 マーシーはそう言い放つと淡く光りだしてね、臨戦態勢に入ったようだったね。亀のくせに。



「ちょっと待ちーや!」



 光を帯びた右手を前に、エスパーの証である長いマフラーをたなびかせ、私とマーシーの間に割って入るチョンカ君は、まさに正義のエスパーそのものだったね。



「うちらはそんな鍵知らんっていいよるんじゃけど、それが分からんの!?」


「ふっ……人間のお譲ちゃんか。怪我をしない内に大人しく引っ込んでろよ」


「チョ、チョンカちゃん……」


「ラブ公、大丈夫じゃよ。ラブ公は心配せんでええけぇおうちの中で隠れててや。この馬鹿オヤジはすぐに倒すけぇね」


「おっとお譲ちゃん、今のは聞き捨てならないなぁ、俺は馬鹿でもなけりゃオヤジでもないぜ」


「亀の歳なんて分からんわ! もうえぇけぇ、鍵を持ってないって分からんのなら早よかかってきぃや! うちが倒しちゃる!」


「ウミガメを舐めてもらっちゃ困るぜ!」



 そう言うとマーシーの体がより一層光りだしたのさ。そして空中で方向転換してをチョンカ君の方へ向けていたのさ。



「あぁ……うううぅっ」


「え……あの亀、泣いとるんじゃけど!」


「ううっく……ひぃぃ……ひっく」


「き、きもい……」


「チョンカ君! 油断してはいけないよ! 来るよ!」



 ウミガメの産卵……というやつだったよ。

 ……私の記憶が確かならば、もっと幻想的な場面ではなかったかな。



「あああああああああああ! 喰らえ! 産卵銃!」



 ドパン! ドパン! という何とも粘着質な音と共にサイコキネシスで加速された卵が、それこそ弾丸のような速度でチョンカ君に襲い掛かったのさ。



「きもい! こんなもん触れとうない! サイコガード!」



 しかしさすがはチョンカ君、しっかりガードが出来ていたね。



「き……気持ち……いい……」



 マーシーは産卵疲れ(?)で自身にかけていたサイコキネシスが解けて地面に落ちたのさ。

 一発屋なのかな? とちょっと思ってしまったよ。



「マーシーとかいいよったね、これで終わりなん? そしたらうちの勝ちじゃね」


「はぁ……はぁ……お譲ちゃん」


「殺しはせんけど、気絶はしてもらうけんね。覚悟しぃや」


「お譲ちゃん、分かるか? 卵が出るときってのは滅茶苦茶気持ちいいんだぜ……恍惚の表情を浮かべる俺を見ろ」


「きもいわ! 変態オヤジ! 見とうないわ! はよ気絶しぃや!」



 チョンカ君の強化された手刀がマーシーに振り下ろされる瞬間だったよ。



「出るときに気持ちいいってことはよ……入るときも気持ちいいってことなんだぜ!!」


「チョンカ君! 危ない! 後ろだ!」



 チョンカ君のガードに弾かれた卵たちが、今度はマーシーの尻、いや、その直線状にいたチョンカ君に再び襲い掛かったのさ。



「チョンカ君、私も助太刀するよ!」



 あのときは私もかなり慌てたさ。

 いや、いくらチョンカ君に才能があるとは言っても対人戦闘は初めてだろう? もちろん修行はしたさ。

 ……ふむ、そうさ。私が子離れできていなかっただけかもしれないね……見ていられなかったのだよ。

 しかしまぁ……結局助けに入れなかったのだけれどね。

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