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ヤマブキ

 私はエスパーとしては世界でもトップクラスの実力があると自負しているのだけれど、ある程度実力が付いてくると他のエスパーの力を感じることが出来るようになるのさ。

 つまりね、当然だけれど私の家に襲い掛かってきた頭の軽いエスパーが過去に何人もいたのさ。

 全員殺すか、記憶を消してリリースしているのだけれど、家を出るきっかけになったのも襲い掛かってきたエスパーだったよ。


 先に言うとね、もう私の家はないのさ。山ごと燃えてしまってね。

 元々チョンカ君の言う、悪いエスパーを倒して世間の誤解を解いて回る旅をするつもりではいたのだけど、家がなくなって仕方がなく旅に出たのさ。


 あれはチョンカ君が私の家で修行を始めて十二年程経った頃だったね。

 丁度朝食を終えて山で食料になるものを探しに行こうとしているところだったよ。



「西京先生、誰か山に入った感じがする」


「ふむ、チョンカ君も感じたかい? やれやれ、ここ最近来訪者がなくて平和な日々だったのだけどね」


「え、どうしたの? チョンカちゃん」


「うん、なんかね、すごい力を感じたん。エスパーの人かな?」


「間違いなくエスパーだね。私の力を察知した輩がたまに来るのだよ。今回もその手の者かな」


「えええっ!僕、怖いよぅ……」



 ラブ公はあの十二年の間に軽く二千回は半殺しにしてきたのだけどね。

 喋る度に殺したくなってしまうね。

 ふふ、まぁ何度も苦しんだわけだけど結果的に死ななくて良かったじゃないか。



「大丈夫じゃよ、ラブ公。西京先生もおるし、うちも守ってあげるけんね」



 私はお前を守らないけれどね。



「まぁ待っていればその内くるんじゃないかな? 目的は分からないけれどエスパー同士、互いに位置関係が把握できているから突然襲ってきたりはしないだろうね」


「でも先生、多分この人すごく力のあるエスパーじゃよ?」


「ふむ、そのようだね」



 それから二十分後くらいだったかな。扉をノックする音が響いたのさ。



「おはようございます。私、ここより北方にありますアークレイリ王国から参りました宮廷エスパーをしております、ヤマブキと申す者です。少しお話を伺いたいのですがドアを開けていただけませんか?」



 その声は男とも女ともつかないような不思議な声でね。少し霊的な感じがして、それでいて透き通った声だったよ。



「先生、開ける?」


「そんなに警戒しなくても大丈夫さ。開けてあげなさい」



 チョンカ君は初めての来客に緊張しつつ、恐る恐るドアを開けたのさ。



「ありがとうございます」


「えっ……」



 ヤマブキの姿に全員絶句してしまってね。私も理解が追いつかなかったのだよ。

 なにせ、顔面が『ヤマブキ』だったからね。

 何を言っているか分からないだろう?

 ヤマブキの花があるだろう? 顔面がヤマブキの花で埋め尽くされていたのだよ。

 宮廷エスパーに相応しいマントを纏いフードを被っていたのだけど、杖を持つ手は茎と葉で形作られ、顔に相当する部分であるフードからは鮮やかな黄色いヤマブキが咲き乱れていたのさ。



「驚かせてしまい申し訳ございません。初対面の方は皆様、必ずと言っていい程驚かれるのですよ」


「その姿、顔から花を生やしているわけではなく、もしかして花そのものなのかい? ……サイコポゼッションかな?」


「……!! これは驚きました! 一目で私の正体を見破ったのは貴方がはじめてです。 感服いたしました」


「先生、サイコポゼッションって何?」


「ああ、チョンカ君には教えていなかったね。サイコポゼッションというのは簡単に言えば対象の生物に魂を乗り移らせる能力さ。しかし……植物に使った事例は知らないね」


「互いに感じていたでしょうが、やはり貴方も相当の使い手のようですね」



 顔が花だらけだから表情が読めない、本当に異様な奴だったね。

 この世界には色々な種族がいるけれど、喋る植物は後にも先にもヤマブキだけだよ。



「私の名は西京、そちらの彼女はチョンカ君だよ。それで、ヤマブキ君は何を聞きにこんな山の頂上まで来たんだい?」


「えっ……僕は……?」



 カスの紹介などするはずがないね。



「これはご丁寧にありがとうございます。西京様はずっとこの家にお住まいなのですか?」


「そうだね。ここに住んでもう随分経つね」


「ほう……でしたら当然十五年前に、一夜にしてダール国が滅んだこともご存知ですよね?」



 ダールというのは私たちが住んでいた国の名前さ。もちろん滅ぼしたのは私さ。

 滅ぼしてしばらく後にダールから西に位置するブレイズダルに侵略されてしまってね。下の人間達のほとんどはダールが滅んでいたことも知らなかったようで、特に抵抗も出来ずにあっという間に占領されてしまったのさ。



「西京先生は襲われたダール城からうちを助け出してくれたんよ」


「……ほう、あの現場にいらっしゃったのですか!」



 ここでチョンカ君の失言が炸裂したのさ。

 聞いた途端にヤマブキの目の色が変わったかのような反応を示したのだよ。

 もちろん、奴に目なんてないのだけれど。



「襲われていた城で生存者の救出をしていたのさ。それで、それが何か関係あるのかい?」


「失礼いたしました。私、ダールが滅んだ原因を調査しているのです。まさに滅びる瞬間に立ち会われた西京様は何かご存じないでしょうか?」


「滅びる瞬間ではなく、滅びた瞬間さ。私がついた頃には城の人間はほとんど殺されていてね。チョンカ君一人救うのがやっとだったのさ。わざわざこんな山奥を訪ねてくれたわけだけど、力になれなくて申し訳ないね」


「いえいえ、そのようなこと。滅相もございません。ただ、西京様程の力の持ち主は世界に数人もいないでしょう。何かご存知かと思い伺った次第でございます」



 この言い方は滅ぼしたのは私以外に考えられないと思っている言い方だったね。

 ふふ……正解だよ。



「それでアークレイリの宮廷エスパーとやらがなぜ一人でこんな山に来て、十五年前の他国の出来事を嗅ぎ回っているんだい? それこそ十五年前に調査はしなかったのかい?」


「部下のものは戦闘になった場合を考え、森で待機させております。万が一戦闘ともなりますと足手まといとなりますので」



 自分が強いと言っているようなものだね。本当にヤマブキというのは回りくどい言い方しかしない喋ると疲れる奴なのさ。

 しかも顔が花だからね。表情も何もあったものじゃないから余計に疲れるというわけさ。

 もしチョンカ君がいなければ確実にこの時に殺していたね。自慢じゃないけれど私は沸点が低いのさ。



「そもそも、そんな話は現在この地を統べているブレイズダルに聞くべきではないのかい? 以上の理由から君が宮廷エスパーだというのも疑わしいと判断せざるを得ないね。目的が何かは知らないけれど情報を得たいのであればもう少しまともな嘘をつくことを勧めるね。」



 そしていよいよさ。



「全くもって、西京様のご指摘の通りでございます。とはいえ私が宮廷エスパーであることは事実なのですが、確かに立場上隠していることはございます。そうですね、ご教示を賜りましたお返しにお教えいたしましょう。西京様はそれで全てを理解されるかと存じます。古い文献が見つかりまして……我々はアニムスの鍵を探しております」


「アニムスの鍵……」



 そう、ここでアニムスの鍵の話が出てくるのさ。

 ……楽しそうだね。



「ブレイズダルには聞くことはございません。それに滅びのときに城にいらっしゃった西京様を見つけたのです。ふふ……今日のところはこれで失礼いたします。また近いうちにお会いすることになるでしょう」



 そう、ヤマブキは私がアニムスの鍵を持っていると思い込んでしまったわけだね。

 もちろんこの時は何を言っているのかと思っていたけれどね。



「せ、先生……」


「ん? どうしたんだい? チョンカ君」


「今のヤマブキとかいう奴、ぶちヤバそうなんじゃけど……大丈夫なん?」


「ふふ、大丈夫さ。と、言っても今度は襲い掛かってくるだろうけどね」


「えぇぇぇ! ぼ、ぼ、ぼ、僕、怖いよぅ!」


「先生、うちも戦う」


 チョンカ君はもう子供の頃のように怯えているだけのチョンカ君ではなくなっていたのさ。

 そう、今のチョンカ君と同じように戦うことを選んだのさ。



「ふむ、そうだね、今のチョンカ君ならもう大丈夫だろう。分かったよ、一緒に戦おうじゃないか」


「うん! それで先生、アニムスの鍵ってなんなん?」


「ふむ……古代文明の遺産……とされていてね、実物を見た者はいないのだけれど、その鍵を持つ者は無限の力を得ることが出来るといわれていてね。はっきり言うとあるだろうとされているだけで神話の類と似たような話だと思っていたのだけれど」


「ヤマブキはそれを探してるって言うとったね」


「そうだね。ヤマブキの言うことが全て本当だとするならばの話だけれど、アニムスの鍵は実在していて、それはダール城に存在した可能性があった。そして城を滅ぼした者が持ち出した可能性がある。といったところか。信じるのもどうかと思うけれどね。ただ、どうやらヤマブキは私が城を襲ったと見ているようだし、完全に私が所持していると思っているだろうね」


「あ……先生ごめんなさい……うち余計なこと言っちゃったんじゃね」


「ふふ、いいさチョンカ君。どうせ最初からある程度疑ってここに来たのだろうからね」



 考古学に興味があるわけではないのだけれどね。ただアニムスの鍵を探していると言われて、本当に実在するのかと納得するほど御伽噺にも興味はないのさ。いつものように身に降りかかる火の粉を払うだけさ。

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