強烈な快感と空気の摩擦熱により絶命したダンゴ虫のトシオを、やっと顔をあげたチョンカ君が汚物を見るような視線を送っていたよ。まぁ無理もないね。
でもこれで村人を守ることができたわけだから当初の目的は果たしたね。
「うち、縛られてる人を助けてくる!」
「……ああ、そうだね」
縛り上げられて寝かされている村人を解放しようとチョンカ君が走り出したそのときだったよ。
「やはりお前達の仕業だったか!」
遠くで村長が叫んでいたのさ。恐ろしくてそれ以上は近づけなかったのだろうね。
「お前達が手引きしたのだろう? お前達が村に来てすぐに襲われた。あまりにもタイミングが良すぎる!」
「……違うと言っても無駄なようだね……」
「え? え? にしきょーせんせー……?」
「チョンカ君、覚えておくと良いよ。これがエスパーに対する普通の反応なんだよ。こうなる程にエスパー達は世界中で悪さをし、エスパーではない人間達は誰もがエスパーに対していい感情を持っていないのさ」
私は現状把握が出来ていないチョンカ君の頭を撫でてあげながらなるべく優しく言い聞かせたのさ。突然のことで少しパニックになっていたようだったからね。
「村人達が最初にこの村に入れてくれたことが珍しいくらいさ。村長の言うように今回は少しタイミングが悪かったようだね。勘違いをしても仕方ないだろうね」
「で、でも、せんせー」
「うん、チョンカ君の気持ちも分かるさ。でも救うという目的は果たせたじゃないか。確かに濡れ衣を着せられて少々腹立たしくはあるけれどもね」
「何をコソコソと喋っている! 早くこの村から立ち去れ!」
「ふふ、そんな遠くから威張られてもね。分かっているさ。私たちはすぐに出て行くよ。さあ、チョンカ君、行こうか。疲れているだろうからね。少し歩いたらすぐに野宿にしようか」
「う……うん!」
チョンカ君は気を取り直してくれたようで私の手を握ってくれたのさ。
その時だったよ。
「出て行け! この悪人め!」
「二度と来るな!」
こつ、こつ、と私の帽子に何かが当たったのさ。
家の二階から村人達が石を投げてきたのだよ。睨むと姿を隠すのさ。これにはチョンカ君も驚いてしまってね。
「せ、せんせー!」
「村長の言うことに従って大人しく帰るそぶりを見せたから調子に乗っているのだろうね。こういうのもエスパーにとってはいつものことさ。でもチョンカ君に当たってしまってはいけない。早く立ち去ろうか」
そうして私たちは村を出たのさ。
村を出てしばらくしてもチョンカ君は下を向いて無言だったね。余程ショックが大きかったのかなと思って声をかけたのさ。
「チョンカ君、やはりエスパーになるのはやめておくかい?」
「…………」
落ち込んだ様子だったのだけどね。顔を上げて私を見るその顔を決意を固めた顔だったよ。
「せんせー、うちね、やっぱりエスパーになるけぇね。せんせーみたいなエスパーになって悪いエスパーをやっつけるん。それでみんなの誤解をとく!!」
「チョンカ君・・・」
そう、チョンカ君は正義感の塊みたいな娘だろう? 小さな頃からだったのさ。
「そうか、分かったよチョンカ君。もうあと数日歩けば私の家がある。そこでたくさん修行をしよう。そして一人前になったら君のその夢を叶えればいいさ。」
「せんせー!」
「私はチョンカ君の側にずっといよう。教師として保護者として、その気持ちに答えるとしよう。」
「せんせー! ありがとう!」
こうして私たちは再び家へ向けて旅を始めたのさ。
辺りはもう薄暗くなっていたけれど、村の方角の空がうっすら赤く、明るくなっていたよ。火事でもあったのだろうね。ふふ……