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エスパートシオ

 食料を分けてもらおうと外へ出た途端、悲鳴と共に爆音が聞こえたんだ。



「う、うわああぁぁぁぁ! エスパーだぁぁぁ!!」



 いやぁ私は何もしていないよ? 本当さ。とにかく、あの時はチョンカ君の空腹を満たすほうが先だったから声とは反対方向へ行こうとしたのさ。面倒だからね。



「せ、せんせー、今の声は?」


「おや、チョンカ君、聞こえてしまったかい? どうやらこの村もエスパーに襲われているようだね」


「ええ! ど、どうしよう・・・」


「ふふ、心配はいらないさ。チョンカ君には私がついているからね」


「ううん、うちじゃなくて、村の人たち!」


「………………」



 さすがチョンカ君だろう?

 私にとってこの村は私とチョンカ君への不敬罪として滅ぼすことが決まっていたのでね、助けるなんて考えはなかったよ。だからチョンカ君の気持ちに触れたとき、絶句してしまったのさ。

 あのときのチョンカ君の「救いたい」という顔は今でも忘れられないね。そして思ったのさ。チョンカ君を弟子にしたときに決めたようにこの子の思うままにやらせてみようと。そして師たる私は、この子に最大限の助力をしようとね。



「せんせー、うち、みんなを助けたい……せんせーは正義のエスパーじゃろ……? うちも頑張るけー、せんせーの力を貸してくれん……?」


「………………」



 やっぱりチョンカ君はかわいいねぇ。

 私を素直に先生と慕い、お願いまでしてくるその姿はもはや天使さ。ふふ、あんな顔でお願いされたら生き方も揺らいでしまいそうさ。



「分かったよ、チョンカ君。君が望むなら私はそれを叶えよう。さあ、では行こうか」


「せ、せんせー! ありがとう!」



 逃げ惑う村人達。その村人達が走る方向とは逆の方向へ、私たちは走ったのさ。



「せんせー、あれ!」



 チョンカ君が指差す方向、村人の家の屋根。そこにダンゴ虫型の小汚いのがタバコを吸っていたのさ。あたりの地面はえぐれ、捉えられた村人が縛られて寝かされていたね。



「ふむ、マフラーをしているね。エスパーだね」


「せ、せんせー……」


「ふふ、怖がることはないよ、チョンカ君。といっても先日あんなことがあったばかりだ。無理もないさ。チョンカ君は私から離れてはいけないよ?」


「うん!」



 嬉しそうににっこり笑顔のチョンカ君。さて……



「そこの君、この惨状は君の仕業かな?」


「なんだオメェ? あ? オメェもエスパーか?」


「そうさ、私は君と同じエスパーの西京というものだがここで何をしているんだい?」


「はっ! 知れたことよ! 俺様はなぁ、襲った村で逃げ惑うアホ共を屋根に上って見下ろすのが好きなんだよ! そうして誰もいなくなった村で転がってやるのさ! すると背中が地面に擦れて気持ちいいんだ! 転がる前は清めの儀式としてウネウネするんだぜ! 気分も高まっていい感じになったところで誰もいない村で汗だくになって転がるのさ! ハァッ!」


「うーん、そこまでは聞いていないのだけれど。予想以上に気持ちの悪い奴だね」


「おえぇぇ……」



 後ろでチョンカ君が鳥肌をさすっていたね。気持ちは分かるさ。



「それよりもよぉ! オメェ、俺の同類だろ?? 頼みがあんだよ!」


「ほう、頼み? 何かな?」


「そこに井戸があんべ? その穴と俺が球状になったときの大きさが多分ジャストフィットしそうな予感がバリバリなんだよ! オメェよ、俺が今から転がるからよ、そこに入れてくれや! ぜってー気持ちいいからよ!」



 ちらっと背後に井戸があることを確認したよ。

 チョンカ君も一緒に見たけれど、何が気持ちいいのか彼の言うことは理解が追いつかない上に生理的に受け付けないといった顔つきだったね。



「じ、自分で入りーや! この変態オヤジ!」


「ヒュー! 分かってないねぇ~お譲ちゃん。まぁ子供には分からねぇさ……自分で入ったんじゃ意味がねぇのさ。他人に無責任に放り投げられて、いつどこに落ちるか分からないあの不安感……それは宛てもなく宇宙を漂うことと同じ感覚だぜ! 俺はどこへ辿り着くかも分からないその旅路の先で自分と同じサイズの穴へジャストフィットするのさ! ふぉ……ふおおおおぉぉぉぉ! 想像しただけでも……いやいや、我慢だぜ、俺! 我慢の子ーーー!」


「に、に、にしきょ……せんせー……」


「ふむ、チョンカ君はそこで見ていたまえ。」


「あらよっっっっとぉ!」



 ダンゴ虫は屋根から飛び降り、私達の前へ降り立ったのさ。



「ちょい待っててくんねぇか。俺は今から清めの儀式で地面の砂さん達と友達になっからよ!」


「い、い、い、意味がわからん! きもすぎじゃ!」



 ふふ、青ざめるチョンカ君もかわいいね。



「はぁっ! はぁっ!」



 掛け声と共にダンゴ虫がウネウネしだしたんだけどね。もうチョンカ君は私のマフラーに顔を埋めてしまって直視できない状態だったね。

 ダンゴ虫ボディーが上から下へ波打ち、視線はあさっての方向、そして汗だくになっていたよ。



「ほっ、ほっ、ほっ!」



 次第に激しくなっていくウネウネ。

 彼は本当に地面の砂とやらと友達になっていたのだろうかね?それは今でも分からず終いさ。



「いいよぉ~! いいよぉ~! 俺はトシオ、三十四歳。いい歳なんだけど最近哺乳瓶にはまっちまってよ。水もお茶も全部哺乳瓶で飲んでるぜ! ところでよ・・・」



 トシオの地面の砂への自己紹介だろうね。

 さすがに全部は覚えていないさ。……聞きたいのかい? ……だろう?



「い、今だぁ! 西京! 頼んだぜっっ!!」



 それまでぼんやり彼の自己紹介を見ていたんだけどね。何をやっているかは彼にしか分からないことなんだけど、やっと満足したのかその場でグリンと丸まったのさ。



「井戸に投げればいいのかい?」


「は、はやく! はやくぅぅぅ!」



 後ろでチョンカ君もガタガタ震えていたし、私も不快だったから文字通り投げやりにサイコキネシスでとりあえず上空10メートルほどの地点まで飛ばしてやったのさ。



「ふぁあああああーーーーーーーー!」


「ふむ、彼の話では不安定なのがいいらしいから、これから落とすとか言わないほうが良いんだろうね……」


「ああああ! この浮遊感! これ! まさにこれ! 極み! 極まって……あああああああああああああああ!」


「なんて不愉快な光景だろうね。さっさと落としてしまおう。そーれ」



 再びサイコキネシスを使い、井戸へ向かって高速で投げ入れたさ。

 井戸にピッタリはまるのが良いとのことだったのではまった瞬間に急停止させたのさ。そうしないとそのまま井戸の底までノンストップだったからね。



「AAAAAAAAAAAAAAAAAA!」



 井戸と彼が一体化したとき、彼の体が光輝いたのさ。

 あまりにも子供に見せられない風景だったのでチョンカ君には見せまいとしたけれど、彼女はずっと自身で私のマフラーを使って目隠ししていたよ。


 光も収まり、井戸を見るとトシオが体から煙を噴いていたね。私のサイコキネシスのせいで空気との摩擦で発熱したかな? 浮遊するのがいいと言っていたけれど……まぁいいだろう?



「き……きもすぎじゃ……せんせー……あのオヤジは……?」


「ふむ……生命反応がないね……死んだね。まぁ、本望だったんじゃないかな? 悪いエスパーの願い事を聞いてしまった形になったけどこれで村は救われたんじゃないかな?」



 あまりの気持ち良さに昇天したようだね。

 まぁ、きっとサイコキネシスの力が強すぎたせいだと思うけどね。チョンカ君にも言ったけれど、本望だったと思うよ。

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