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エスパーの境遇

 基本的なエスパー技に『サイコキネシス』というものがある。物体を自由に動かす力のことでね、最も汎用性の高い技さ。このくらいのことは知っているだろう?

 チョンカ君に最初に教えたのもこの技でね。今のチョンカ君を見ていても分かるように、チョンカ君はサイコキネシスが得意でね。

 でもこの頃のチョンカ君は幼くて中々思うようにいかず自分自身にサイコキネシスをかけるのが精一杯だったのさ。


 ふふ、そうだろう?

 今でも自分にサイコキネシスをかけて戦っているのはこの頃からのものなのさ。でもね、実は自分にサイコキネシスをかけるのは他の物体にかけるよりも余程高度な技なのさ。



「わ、わ、わ、体が……浮いた!」


「ふふ、やはりチョンカ君は才能があるね」



 普通は意思のあるものに容易く力を通すことはかなり難しいものなのだけどね。いきなり自分自身にサイコキネシスをかけるとはさすがの私も思わなかったよ。



「あとはコントロール出来るようになれば上出来だね。チョンカ君、今日の訓練はこの辺で切り上げようか。この近辺に村があったはずだよ。そこで休むとしようじゃないか」


「うん!せんせーありがとう!」


「どういたしましてさ」



 かわいいだろう? 昔から彼女は疑うことを知らないからね。いや? 別に騙そうなんて思っていないよ。君も知っての通りさ。私はかわいい彼女を側に置いて娘のように愛でていたいだけさ。

 チョンカ君に関しては本当にそれだけだよ。何せ自分の後継者となる子だからね。

 今でもそうだろう? 私は彼女の願いや生き方に口を出したことは一度もないよ。この頃から私は保護者兼教師として彼女について行くだけになったのさ。

 それまでとても退屈だったからね。私自身そういう生き方をしてみたかったのかもしれないね。

 まぁ、信じるも信じないも君次第さ。



 私のことはいいだろう?君にとっては重要なことかもしれないけどね。

 問題は村に入ろうとしたときに起こったのさ。



「そこのあなた! 止まりなさい!」


「……私のこと……だね」


「せ、せんせー?」



 村の住民であろう猫型の女性に行く手を阻まれたのさ。

 今と同じだよ。当然だろう? エスパーは警戒されているからね。

 え? 私のせいだって? いや、さっきも言ったとおり、私に関する記憶を保持できているのは数人しかいなかったからね。私のせいではないさ。エスパーは色々世間に迷惑をかけている存在だからね。大多数が悪人だろう?

 警戒されているのは私のせいではなく、各地で悪事を働く中途半端な技量のエスパー達のせいさ。それと、そんなエスパーを力で取り締まりきれない、この世界のせいさ。私の知るところではないね。

 それよりも、そんな現実に直面したチョンカ君さ。



「そのマフラー……あなた、エスパーね?」


「いかにも私はエスパーさ。どうだろうか、今晩だけでいいから私たちを村に滞在させてはもらえないだろうか?」


「お断りよ! 村にエスパーを入れるだなんて、そんなこと誰も許さないわ!」


「口ぶりからすると君はこの村の責任者なのかな? 確かにエスパーだが私たちはただの旅人さ。悪いエスパーではないよ」


「悪くても悪くなくても、エスパーはお断りよ!」



 うーん、村ごとジェノサイドかな? と思ったそのときだったよ。



「せんせーは悪くない!」



 チョンカ君が真っ赤な顔で大きな声をあげたんだ。



「せんせーは、せんせーは……うちを助けてくれた! 悪いエスパーとちゃうんじゃもん!」


「……でも……」



 ふふ、さすがに幼い子供に大声を出されると普通の大人はたじろぐだろうね。チョンカ君に感謝するがいいさ。村の滅びの時までの猶予期間が伸びたのだから。



「ふー! ふー!」


「まぁまぁ、チョンカ君。どうかな? 私がその悪いエスパーだとして、わざわざ村の正面からやってくると思うかい?」


「それは……」


「それにだ、私が悪いエスパーなら悠長に会話などせず問答無用で村に攻撃をしかけてもおかしくはないだろう? 今こうして会話していることが悪いエスパーではない何よりの証拠さ」


「……はぁ……分かったわ。小さなお子さんもいるようだし……お父さん……村長に掛け合ってくるから少しそこで待っててもらえるかしら?」


「ああ、申し訳ないね。お願いできるかな?」



 大きなため息をつきながら、猫型の女性はそう言うと村の奥へ去っていったのさ。戻ってきたのはそれから三十分程経った頃だったかな。かなり揉めたのだろうね。今度は村長とやらも一緒だったよ。実際に会ってみるといった流れになったのかな?



「君がエスパーだね?」


「いかにも。あなたは村長……かな?」



 うん? そうだね。その通りさ。エスパーは皆、長いマフラーをしているのさ。力の通りが良くなるというのが一番の理由なんだけれどね。

 マフラーがないと力が半減する人もいるからね。エスパーの必須アイテムさ。

 力を使うというのは精神的な面が大きく左右するものだよ。

 イメージの力は大事なのだよ。だから一般人から見れば、不自然に長いマフラーをするものは皆エスパーに見えるし大体その通りさ。



「話は娘に聞いている。村に滞在したいようだが?」


「旅の途中でね。申し訳ないが一晩でいい、宿を提供してもらえないだろうか? もちろんタダとは言わないさ。いかがかな? もし断るようなら・・・」



 村長と、後ろにいた娘の顔に緊張が走ったね。ちょっと意地が悪い言い方だったかな?



「……今夜は野宿でもしようと思っていたのだけれど?」



 もちろん嘘だよ。断ればチョンカ君にばれない様に村を消滅させて明日の日の出を迎える前に村人全員で仲良く昇天さ。



「……ふぅ」



 ふふ、野宿と聞いて敵意がないと安堵のため息をついたね。私の耳は特別だよ。内緒話もつつぬけさ。



「分かった。娘の言うとおり、悪い人物ではなさそうだ。今晩だけ特別に滞在を許そう。ついてきたまえ」



 私はね、こういうものの言い方が非常に嫌いなんだよ。『特別に』とか、『~たまえ』とか、何様なのだろうね。ただ私も大人だからね。チョンカ君もいるから衝動的な行動は控えるよう努力していたのさ。

 いなかったら? それを聞くのかい? それは野暮と言うものさ。



「せんせー、よかったね!」


「ああ、今晩はちゃんとした寝床にありつけそうだね」



 村長に言われるがままのお金を渡して通されたのは小さな小屋だったね。中にはワラや家畜の世話のための道具が置いてあったっけ。まぁ旅人がわざわざ訪れるようなこともない小さな村だからね。あんなものさ。



「さぁ、チョンカ君。今日はここで休ませて貰おうか。ベッドはないけれど、野宿よりはマシだね」


「うん!! せんせー、ウチお腹すいた!」


「おっと、そう言えば何も食べていなかったね。ウッカリしていたよ。そうだね、村人にお金を払って何か分けてもらうとするか。チョンカ君は慣れない旅で疲れただろう、ここで待っているといい。寝てしまっても構わないよ?」


「……うん、うち、ここで待ってるね!」



 大きなあくびをしたチョンカ君はそのままワラに横たわって寝息をたててしまったのさ。


 村を滅ぼすのは明日でもいいとして、まずはチョンカ君に何か食べさせないと、そう思った私は再度外へ出掛けたのさ。

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