私がチョンカ君と初めて会ったのは、とある国を滅ぼそうと王城へ赴いた時だったね。
長きに渡る修練の末に手に入れたあまりに強大すぎる力を持て余してしまってね。
当時はストレス解消に、定期的に力を使っていたのだよ。
そうだね、おしっこが我慢できなくなるのと似ているね。
とにかくアポ無しでふらっと攻め入ったことがあったのさ。
城の連中を楽しく皆殺しにしつつ生き残りがいないか、かくれんぼの要領で探していたのさ。
いやぁ、我慢したおしっこは勢いも違うだろう?何事も我慢しすぎると色々と制御が大変さ。
少しはしゃぎ過ぎていたかもしれないね。
暴れてお腹がすいてね、厨房の中を物色しているとき、隣の部屋から誰かの泣き声が聞こえたのさ。入ってみるとそこは食料庫でね。奥で女の子が一人でうずくまって泣いていたのを見つけたのだよ。
それがチョンカ君さ。
一目見て分かったさ。
この子にはエスパーの才能がある。
そしてなにより……
「かわいい」
今では信じられないが、チョンカ君は怯えた瞳で私を見ていたのだよ。
「やぁこんにちは、かわいいお嬢さん」
「……ひっ……」
その時にはもう、城内皆殺しはやめにしてチョンカ君を連れて行こうと思っていたのさ。怯えるチョンカ君に私は出来る限り優しく声をかけたよ。
「大丈夫。私は西京という者だよ。お嬢さん、今このお城は悪いエスパーに攻め込まれているのさ。私もエスパーで、助けに来たのだけれど、他の人はどうしたんだい?」
「う……うち以外の人は、みんな殺された……と思う」
そうか、そういえば厨房のほうから団体さんが走って私のほうへやってきたから反射的に皆殺しにしたんだったね。
「そうかそうか、君は逃げないのかい?」
「うちも逃げよう思ったんじゃけど、みんなに押されて転んでしもうて……そしたら先に逃げたみんなの悲鳴が外から聞こえよって……それで……」
チョンカ君は運良く逃げ遅れたわけだね。
「そういえば君はまだ子供だと思うけれど、その歳でお城勤めかい?御両親はどうされているのかな?」
「うちはずっと一人じゃよ……トガさんに連れてきてもらってここで働いたらご飯をあげる言われたん」
奴隷……? しかし奴隷の子供が城に出入り出来るものか? そんな疑問を持ちながらも子供からこれ以上は聞き出せないと思い別の質問をしたのさ。
「そのトガさんとやらはどこにいるんだい?」
「……多分さっきみんなと一緒に……」
チョンカ君を連れ出す条件は揃った。そう思ったんだ。
「君のお名前は?」
「……チョンカ」
「チョンカ君、君の話を聞く限りでは、君に身寄りはなく、ここから逃げられたとしてもこの先一人で生きていかなければいけない。それで間違いはないね?」
「うん……」
「では今日から私のことを『西京先生』と呼びたまえ。君は私と共に行動し、そして私のエスパー技能の全てを君に授けよう」
「にしきょー……せんせー……?」
「チョンカ君、君にはエスパーの才能がある。君はエスパーの事をどれだけ知っているかな?」
「エスパー・・・悪い人?」
「そうだね。能力を持った人間達のほとんどは自分のことしか考えていない。理不尽に周りを苦しめている者ばかりさ。どこかの国に雇われて正しいことに力を使っている者は数えるほどしかいないのさ」
「……?」
「ふふ、ちょっと難しかったね。チョンカ君の言うとおりさ。エスパーは悪い人が多いんだよ。でも正義のエスパーというのもいるのさ」
「正義の……エスパー……」
「どんなエスパーになるかはチョンカ君次第さ。さぁ、どうする?私と一緒に行くかい?」
正義のエスパーという単語を聞いた途端、チョンカ君の目が輝きだしたのさ。
このあたり、今も変わらないね。チョンカ君らしいね。
悪いエスパーというのはそのままの意味さ。しかし、私のことを指してそう呼ぶものはいないよ。数人を除いて私の記憶は誰も残っていなかったからね。そんな顔をされても、それが事実さ。ふふ……
「行く! うち、せんせーと一緒に行く! 正義のエスパーになる!」
「ふふふ、じゃあ決まりだね。そうと決まればこんなお城はさっさと抜け出ようじゃないか。私が来るのが遅くてね。もう生きてる人間は誰もいないからね」
こうしてチョンカ君に内緒で撃ち込んだとどめの一撃で燃え盛り崩れ落ちる城を背景に私はチョンカ君を連れて旅に出たのさ。今はもうない、私の住処を目指してね。
これが私達の出会いさ。