「貴様があの程度で終わらせるような人間ではないことは判っている! 一体なにを企んでいるのだ!? ロベリア・クロウリー!」
酒場から離れ、裏路地を移動していたが女騎士クラウディアに追いつかれてしまった。
襟をガッシリと掴まれ、睨みつけられる。
「食事を取ろうとしていたところを、あの自己意識の高い冒険者どもに邪魔されただけだ」
本当のことを話したって信じてくれる人はいない。
どうせ悪者にされるのは俺だ。
『人の為、世の中の為に尽くしている俺か、悪名高い魔術師さん、どっちのせいにされるんだろうなぁ?』
相手が吹っ掛けてきた喧嘩だったとしても、クラウディアは俺に剣を向けていだろう。
「それに企むも何も、被害者は俺だ。と証言したところで貴様程度では理解できんだろうな」
「なっ……このっ!」
無性に腹が立ったので嘲笑うような表情を作ると、襟を掴んでくるクラウディアに押されて壁に叩きつけられてしまう。
「言い返すことができないから、暴力か……?」
その言葉で我に返ったクラウディアは襟を離してくれた。
ところが彼女の表情は、愚弄されたことへの怒りで溢れていた。
「そこまで俺を毛嫌いするようなら初めから関わるべきではなかったな。無駄働きご苦労」
うわぁ、なんてムカつくことを言っているんだ俺ぇ!
本気でクラウディアを怒らせたじゃないか、どうすんだよ俺ぇ!
「そのようだな」
クラウディアは肩を落とした。
「お前のような人間を野放しにした私たち英傑の騎士団の責任だ」
そう吐き捨て、俺の前から立ち去るのだった。
てっきり剣を抜かれるかと思ったが、かなり効いたらしい。
(この達者な口を、なんとかせねば……)
自分の頬を叩く。
何度も殴られたところだったので、普通に痛かった。
————
私は町で偶然、奴を見つけた。
人前にあまり姿を表さない人物だと聞いていたので、堂々と大衆に紛れる奴がまるで奴ではなかった。
しかし、そんな事はどうでも良かった。
ロベリアがこの町で何らかの問題ごとを起こすかもしれないという胸騒ぎがあったのだ。
私は密かに奴の後を追った。
いつでも対応できるよう剣の柄に手を添えながらだ。
何か起きるはずだと身構えたのだが、酒場でロベリアは腕の立つ冒険者どもに絡まれたのだ。
私の知っているロベリアならば躊躇いもなく殺していたところだろう。
ところが奴は、まるで二人を極力傷つけないよう手加減をして、気絶させたのだ。
何故、殺さなかったのか。
そんな疑問が脳裏に過ぎった。
その真相を確かめるべく裏路地へと逃げ込んだ奴に追いつき問い詰めたのだが、嘲笑われたのだ。
叩き切ろうかと考えたが、戦おうともしない相手を切るのは私のポリシーに反する。
ただ一つ、奴がロクな人間ではないことを再認識させられた。
言っていることは正しいが、とにかくあの態度が癪に障る。
存在そのものを全否定されているようだ。
もしも、また会うことがあれば敵として戦うかもしれない。
だが、今の私では奴には届かない。
私の故郷を支配する竜王を討てなければ、ロベリアにかすり傷すら付けられないだろう。
手始めに、目指すは竜王の討伐だ。
奴を倒せば私の剣は、ロベリアにさえ届くかもしれない。
———
翌日。
雨でも降るのではないかと思えてしまうほどの曇り空に憂鬱な気分になりながら、竜王の支配する領地へと一番近い森を経由する馬車に乗り込む。
(先客? ……って!?)
「………は?」
先客が、会いたくもない人物だったのだ。
あちら側もそうなのか実に不愉快そうな表情でこちらを見ていた。
「ろ、ろ、ロベリア・クロウリー!!?」