「あー!! 死ぬかと思った!! マジふざけんなゾンビ一号!! 打撃攻撃だからクリティカルなんだぞこちとら!!」
「ふざけた行動でふざけたマジのスキルを取得してる黒狼が悪いんです!!」
「まあまあ、落ち着け二人とも。確かに黒狼が魔術を使えるようになったのは驚愕に値するが所詮はその程度だ。あくまできっかけがふざけているに過ぎん。」
「どちらにせよ、私が殴ったのは悪く無い!!」
「死にかけてるから悪いに決まってんだろ!!」
また取っ組み合いをしようとする二人をレオトールが引き剥がすと、彼は肉をインベントリにしまう。
一目で見てわかるほどに引き締まった肉だ、おそらく旨くはない。
そう言うわけで、肉は後で獣どもの餌にしようなどと思いながらレオトールは扉を見る。
「一度ここで休息を取るか? 未だ体は傷だらけだしな。」
「一気に進めるのも手だと思うぞ、個人的にはあまりお勧めしないが。」
「お勧めしないのになんで紹介したんですかねぇ? かく言う私も、保身的な意見ですが。まだ時間はあるのでしょう?」
「んー、まぁ。というか、個々の難易度も総合的な難易度もここまで高いとは思ってなかった。純粋なパワーを問われると言うよりかはトンチを効かせろって感じでもあるしな。」
「頭を働かせようが、物量で物押せばどうにかなるモノがほとんどだったがな。それに、純粋なパワーも必要となる場面は多くあったぞ?」
「さっきの牛は頭を使いながらパワーも必要って感じでしたしねー。」
「ま、そう言うわけだしここで休む必要があるってオレは思うワケ。」
「満場一致、と言うことだな。長くは休まんが体の傷は癒せ、またあの怪鳥のような化け物が出てきては堪ったモノではない。」
そう言うと、ドスンと地面に座り込み剣をインベントリから出した布で拭く。
殺した生物がポリゴン片と化すのはこの
例外化させる場合、特定のスキルによってその肉体を留めるかスキルや環境の変化を常に起こし続けているモノであるかの場合だ。
故に、刀剣類を拭う行為は剣の切れ味を鈍らせない為のものではない。
別の意図が存在する。
「ふむ、こんなものか。」
そう告げ、刀身を光に反射させるレオトール。
相変わらずその姿に美しさはカケラもなく、華やかさは微塵も見えない。
やはり人としてどこか欠落している、人間としてではなく人として人である為の。
言い換えれば、その精神性に何かが欠けているのだ。
「へぇ、布で何を拭き取ってるかと思えばそうじゃねぇな?」
「ん? ああ、この事か? 安心しろ、従来の剣には必要のない行動だ。」
「だろうな、不変性はともかく耐久値が大幅に削れない限り碌な傷が付かねぇ得物どもにそんな上等な手入れは普通必要ない。」
「態々難しく言い換えなくとも、はっきり告げればいいさ。不可解な行動の説明をさせろ、とな?」
「多少の長口上ぐらいさせろっての。ま、端的に言えばそう言うことだ。答えをいえ、答えをな。」
「ふん、この剣は突き詰めると一種の生命体や魔力結晶、魔石などに類する物だからだ。」
「……どう言うことですか? 私の記憶では確か魔力結晶の精製は現在の技術では不可能なはず、消耗品に費やせるほど貴方は裕福なのですか?」
「まさか、お前の知識は正しいゾンビ一号。だからこそ小まめに手入れせねば本来の性能を発揮できない。」
「待て待て待て、じゃあ一種の生命体っていう部分も説明しろっての。」
「ああ、それは単純だ。この剣は何代にも継承され幾重に魔力を編まれたことにより変質し、勝手に成長しているのだ。自己判断能力、つまり感情や思考などはないがな?」
「……、ソレ魔術的にかなり価値がありますよね? 貴族家の家宝並みなんじゃないですか?」
「そんじょそこらの貴族では話にもならない、それこそ王家ならば並び立てるほどの品があるのではないか? まぁ、かく言う私も一応貴族の末端ではあるのだがな。」
「えぇ!? マジかよレオトール!? お前貴族だったの!?」
「フッ、行動の所作から滲み出るだろう? 貴族らしさがな。」
「「いや全く。」」
微妙な顔をするレオトール、そのまま剣を納刀するとインベントリに布をなおす。
同時に黒狼に向けて手を伸ばした。
伸ばされた手にお手をする黒狼、当然の如く払われる。
「剣を貸せ馬鹿、何故手を乗せた?」
「定番のギャグだよ、俺たちの間じゃ常識だぜ? 知らんけど。」
「知らないんですか!!」
「ナイスツッコミサンキュー、っと剣だな? ホイ、どうぞ。」
「ふむ、私の剣を参考にしたのか? にしては全体的に金属量が一定でこれでは剣というより鈍器だが……。」
「ウルセェ!! こっちも素人同然なんだよ、特に武器作りとかに関してはなぁ!!」
「逆にソレで良く剣の形状まで整形できましたね?」
「あ、いいお手本が目の前にあったのと錬金術スキルの補正。ぶっちゃけ、スキルの補正が便利すぎた。」
「万能過ぎやしませんか? 錬金術。」
「あたり前田のクラッカー、ってな。スキルっていうものは基本的に与えられたギフト、つまり自分の力じゃないわけだ。なら全部便利に決まってんだろ、タダで手に入る無印良品と同じ枠なんだから。」
「無料ほど怖いものはない、金銭と言う重さで確実に交換するべき。そう思うのは私だけかな?」
「私はどちらも賛成ですが……、となんですソレ?」
喋りながらインベントリを開き着々とさまざまなアイテムを出していたレオトールがその中でも一際異色を放つアイテムを取り出す。
見た目はただの水晶だ、それ以上それ以下ではない。
だからこそ、異彩を放っていた。
ただの雰囲気だ、ただの所感だ。
それ以上それ以下でもない、ただの水晶。
「いや、私の持ちうる最上の素材だ。これを使えばどれほど弱き存在であろうと万物を凌駕する力が手に入るだろう。」
「……、そのデメリットは?」
「最低でも絶死と言ったところだ、とはいえお前の関与する所ではない。」
それだけ言い放つと、その水晶を仕舞う。
睨むように、何度も鑑定を掛けていた黒狼だったが仕舞われたことによりソレは強制的に不可能となった。
だからこそ、直接質問する。
「なんだアレ、鑑定スキルのレベルが一気に上がったぞ?」
「……、長く出し過ぎたな。」
「安心しろ、名称も正体も不明なままだ。逆を言えば、それだけの経験値リソースとなる程には上等な代物ってわけだが。」
「では返そう。安心しろ、もう二度と日の目を浴びせたくもない代物だ。」
「実態を教えて欲しい、って言ったら?」
「断る、先駆者の言伝だがアレに関わると碌な死に方ができんぞ。」
「死体だがな?」
「モノの言いようだ。だが、事実ではある。」
そう言うと、黒狼に剣を返す。
受け取った黒狼は多少重心が変化した剣を受け取り戸惑いながらも納刀した。
戸惑う、とは言ったがそれは悪い意味での戸惑いではなくいい意味での。
つまり、余りの握りやすさや使いやすさに戸惑ったと言い換えられる部分だ。
「準備は終わったな? ならば向かうとするか。」
「どこに? って聞かなくてもいいか。」
「私もHPはフルで回復しましたし、早速向かいましょう!!」
3人は扉を潜った、新たな試練を前にして。
残る試練はあと僅かだ。