一筋の極光、松明を100本束ねたようなその輝きは細く短く。
されど、的確に狂馬の胸を貫いた。
「あっぶねぇ……。」
「咄嗟にダークシールドを展開して助かりましたね……、で何の文字を追加したんですか?」
「ん? ああ、なんか良くわかんないやつ。」
「……、ああ。あの二つのうちの片方ですか、面白い反応が起きましたね。」
「殺ったか? 黒狼、ゾンビ一号。」
「オイオイ、死んだわ俺。」
「死体ですからね、というかポリゴン片に変わってないというのならアレは生きているのでは?」
そう言いながら、剣を構えるゾンビ一号。
続いて黒狼が槍剣杖をインベントリにしまう。
レオトールは、ジッと狂馬を見るのみ。
「……、動きませんね。」
「黒狼、何もしていないだろうな?」
「何もしてねーよ、というか扉は現れてんな。」
「……ホント、何が起きてるんでしょうか?」
ゾンビ一号がそう言った途端、狂馬は立ったままポリゴン片となる。
その様子を見て眉を顰める3人、理解できない事象であり黒狼はゲームのバグを疑う始末だ。
「ま、なんでもいいか。とりあえず、次に行こうぜ? 次。」
「元凶が何か言ってますね……。」
「オレ、ワルイガイコツジャナイヨ!!」
「何処がですか!? 他人が用意した魔法陣に魔術理論一切わからないくせに手を加えてわけのわからない魔術に仕立て上げた人間が!!」
「反省も後悔もしてないから許して?」
「許す理由がありませんね、ギルティ。」
「夫婦漫才は程々にしておけ、夫婦喧嘩は犬も食わんぞ?」
「「夫婦
そう言いながら、武器を再度構える。
扉を潜ったら奇襲など常道中の常道なのだ。
2000年周辺のゲームではボス部屋に入った直後には攻撃しないというお約束がよくあるがこのゲームには少なくともそんな親切設計はない。
気を抜けば入った直後に鏖殺される。
故に警戒は怠らない。
三者三様の武器を構えながら、扉を潜った。
*ーーー*
扉に入る。
真っ白な空間、一瞬の違和感。
それらを乗り越えた先、新たな大地を踏み締めた瞬間。
10名は超えるであろう
「『
「『スラッシュ』ッ!!」
「えっ? ちょ、マジかよ!?」
視認した瞬間、即座に攻撃に移る二人とは異なり黒狼は一瞬の躊躇いを覚える。
否、躊躇いというよりは戸惑いだろう。
プレイヤーならば兎も角、NPC。
それも完全な人間を躊躇なく殺すのには、流石の黒狼でも躊躇いが生まれる。
「コロセ!! コロセ!! コロセ!!」
「シネ!! シネ!! シネ!!」
だが、その躊躇いは迷うことなく鏖殺したレオトールの姿によって振り払われた。
その戸惑いは、全力で迎撃しているゾンビ一号の姿によって消え去った。
「『ダークバレット』、とりあえずレオトール!! 頼んだ!!」
「馬鹿!! 警戒しろ!! 視認できていない場所にあと20は居る!! 遠隔で狙っているのを含めればその総数はわからんぞ!! ゾンビ一号!!」
「了解しました!! 『騎士の誇り』、私が惹きつけます!!」
「となれば、『ダークシールド』!! 一応物理防御が上がってるはずだ。不意打ちに効くかはわかんないけどな。」
「『
直後、矢が数本叩き込まれる。
レオトールは当然の如く全てを剣で叩き落とし、ゾンビ一号と黒狼は展開していた魔法でソレを防いだ。
だが、その攻撃で黒狼のダークシールドは剥がされた。
「マジかよ!? 『ダークシールド』!! 遠距離攻撃のくせに火力高ェ!!」
「それ以上に驚愕すべきはその精度ですよ!! どこから放たれたのか分かりません!! 蛮族などと侮っていたら致命傷を受けますよ!!」
「迎撃は私がする!! お前らは徹底的に身を守れ!!」
「了k……、ゲェェェェエエエエ!!!? また破られたし!? 『ダークシールド』!! このペースだと俺の魔力が保たねぇぞ!!」
黒狼とゾンビ一号は木を縫って売ってくる矢にのみ集中するが、その攻撃速度その攻撃力その技術力の前に打ちのめされる。
視認どころか認識するより先に矢が到達しているのだ、この場においてソレを往なせるのはレオトールしかいない。
だが、そのレオトールも森林という立地に苦戦している。
周囲の木を根こそぎ切り倒しながら、さながら暴風のようにゲリラを仕掛けてくるアマゾネスと戦っているのだ。
しかも背後の二人に気を配りながら。
「(伏兵は5人、目の前に立ち替わり入れ替わり戦っているのが10人と言ったところか。さらに気配だけなら未だ増えている……。チッ、困ったな。)」
目を細め、スキルを発動する。
ここで本来の戦い方、インベントリから数多の武器を取り出し仕舞い戦う戦い方は適切ではない。
森林という
魔道具を使用し、周囲を焼き尽くすという案も考えたがその場合副次作用が問題となる。
科学的にいうならば一酸化炭素、それによる中毒だ。
閉鎖空間でなくとも、周囲一帯を焼き払うほどの炎を放出すれば中毒になるのはほぼ確実だろう。
また、黒狼が光に弱いということを考えたらこの手は絶対に使えない。
だがしかし、他の手を取ろうとすれば全て有効打に欠ける。
最もソレは、あくまで効率的なという文言を前提に付ければの話だが。
「『伯牙』『部位強化:腕』」
万策尽きている、ならば力で蹂躙すれば良い。
その判断を一瞬で下すと、身体を強化する。
そして、剣を放り投げた。
インベントリを開く、現れる武器を掴む。
その間0.2秒。
目の前から、未だ襲いかかってくるアマゾネス。
その顔は焦りに満ちている、一瞬の武器の切り替えでその狙いが判明したからだ。
さて、ここでDWOでの小ネタを話そう。
DWOでは近接系スキルの中で一番強いスキルは何かと聞かれた際に三つの答えがある。
対個人及び対個人かつ特殊地形の場合は剣系スキル、対団体の場合は槍系スキル。
そして、今回重要となる対団体かつ特殊地形の場合。
その場合は、斧系スキルが最も有効打になる。
理由はいくつもあるが、前述した二つのスキルには単純な破壊力がない。
だが、斧系スキルは他二つと違い莫大な破壊力を有する。
ソレを自己強化を行い全力を出したレオトールが発動すればどうなるか。
「『
結果は半径10メートルが一瞬にして禿げた。
純粋な破壊力によって、敵もろとも森林が破壊されたのだ。
言葉通り強さのケタが違う、戦いの位相が異なる。
だが、これでも撃破できたアマゾネスはたったの3人だけだった。
「『
だからこそ、次の手だ。
横薙ぎの一閃、周囲を壊した破壊の一撃。
その威力をそのまま、斜めに地面に叩きつける。
今度は初撃の比にならないほどの衝撃が発生した。
言葉通り、大地が盛り上がり崩壊する。
さながらその様子は地震のよう。
本来ならばこの一撃で勝負が決しても仕方ない。
だが、未だその勝負は始まったばかりだ。