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怨念渦巻く人喰い馬

 扉を潜り光景を視認した瞬間、3人は地に満ちたそれに己が無力を自覚する。


「なるほど、廃墟の街がイチジクのタルトみたいだな。」

「表現が不適切ですよ、黒狼。しっかりと廃墟の街が死体に埋もれてるって言ってください。」

「なんとも悪趣味なことだ、記憶から漂白したくなる。」

「これなら悪霊が背後に立っててもおかしくねぇ、上手く天国に行ってくれてると助かるが。」

「私はオレンジ色の髪をした死神が立っている姿を幻視しました!! わかります?」

「笑わせるな、襲いかかってきているのは馬だぞ。と言うわけで、散開!!」


 冗談を言いながら、3人を目の前にして大きく騒ぐ馬から逃れる。

 その体毛は血液がこびりつき、赤黒く変色していた。

 また、歯は大きく肥大し体の筋肉が異常発達しているのも窺える。


「ふむ、なるほど。コレが人を食ったようだ、さっさと地獄へ送ってやらねばな。」

「とても気高い黄金の精神を持っているんですね、レオトールは。もちろん、どこぞの骨とは違って。」

「おいおい、悲しいことを言ってくれるじゃねーか。とはいえ、否定できねぇが。俺が持ってるのはどちらかといえば漆黒の精神だからなぁ!! 『インパクト』!!」


 そう言うが早いか、黒狼は槍剣杖で馬を刺す。

 剣はまだ抜かない、いや抜けない。

 ぶっちゃけバランスを崩されたから手元の調子が狂っている。

 いくら手に合うバランスになったとはいえ、緊急時の対応をしようとしたら元々の感覚で使ってしまうのだ。


 槍スキルから繰り出されるアクティブスキル、それを直に浴びた馬は一瞬怯む。

 その先にゾンビ一号が、骨剣を振るった。

 表皮、その薄皮を軽く切る。

 刺さらない、それどころか碌なダメージにもなっていない。


「レオトールさん!!」

「『黄金ゴールドラッシュ』、かなりの斬撃耐性を持っているようだな!!」

「ゾンビ一号は受けろ、レオトールは遊撃!! 俺は逃げる!!」

「「逃げるな馬鹿野郎!!」」


 同時に、黒狼が剣を抜く。

 レオトールは剣を抜かず打撃で応戦、黄金のエフェクトが乱舞し星屑スターダストのように残存する。

 何故か、それは殴りながらレオトール自身も前に進み殴りを繰り返しているからだ。


 つまり殴られ吹っ飛ばされた馬を自身が前に進むことでさらに殴っていると言うことだ、訳がわからない。


「ふむ、そうくるか。『パリィ』」


 何が『ふむ』なのかわからないが、『黄金ラッシュ』が切れた瞬間レオトールは剣を抜刀するとカウンター技を繰り出す。

 直後、喰らいつくように大口を開けていた狂馬に剣が振るわれる。

 完璧なカウンターが成立した、同時に襲いかかってくる口を受け流しながら切断する。


「『ウォーターボール』ってな?」


 同時に黒狼が水玉を生成し、投げつける。

 魔法的理解が及んだ現在、態々魔法を手に取り投げるなどと言う馬鹿げたことはしない。

 と言うか、骨相手に練習している時に卒業した。


「黒狼!! 水じゃ有効打になりません!! 何故魔法陣を展開しないんですか!?」

「できるか馬鹿野郎!! 覚えたてで使えるほど器用じゃねぇ!!」

「口論するならば手を動かせ!! 弱いが強いぞ!!」

「どっちなんだよ!! っと!!」


 インベントリを開くと黒狼は即座にレオトールが怪鳥戦で落とした槍を投げる。

 投擲スキルの補正か、はたまた槍スキルの補正か。

 どちらにせよ、それはうまく馬に命中した。


「どんどんいくぜー!!」

「それレオトールのやつですよね!?」

「先に返せ馬鹿野郎!! ちっ、足場が不安定だ。」

「後で返す!! 多分、きっと、おそらく!!」


 そう言いながら何かしらのマジックアイテムを無差別に投げていく。

 おそらくそのアイテム群は全てあればひと財産になるほどだろう。

 無知故の暴虐、ゾンビ一号は冷や汗をかきながらレオトールの様子を伺う。

 レオトールは苦笑いしながら飛んでくる武器を掴んでは馬を切り裂き、突き刺し、叩き殴る。


「手応えはあるのに、中々倒れんな。」

「ハイ、鑑定成功!! お疲れ様でしたァ!! コイツHP多いタイプだ、クソゲーじゃねぇか!! と言うか、ステータスに表記されてる数値色々増えてるしッ!?」

「なるほど、ならば高出力をだすしかあるまい!!」

「いんや、レオトール!! 俺が倒す、と言うかそろそろレベルを上げたい。出てきたデータ的に次のレベルまで高そうだし?」

「ならば譲るぞ、ただし確実に殺せ!!」

「合点承知の助だ、ゾンビ一号!!」


 そういうと、即座にアクティブスキルを一時的に止める。

 退避を完了させたゾンビ一号はそのことを不思議に思いながらも、防御の姿勢をとった。

 直後、暴馬がゾンビ一号に突撃する。


「魔法陣、展開!! って、やっぱり遅いな。ゾンビ一号、時間を稼げ!!」

「なんでバフ切ったんですか!?」

「お前を弱くしていい餌に仕立て上げるためだよ!!」

「人の心!!」

「生憎骨だぜ? 俺ってやつはなぁ!!」


 そう言いながら杖を構え、魔法陣を展開する。

 外から中へ、描かれていく魔法陣。

 その魔法は、指南書に書かれていた攻撃魔術の一つ。

 記されている名は『ブラスト』、魔術の効果としては微細な砂を風で敵に叩きつけるモノだ。


「さぁ、とりあえずコレでダメージを受けやがれ!! HPが多い馬さんよ!!」


 深夜テンションが混じったノリで魔術を叩きつける。

 当然この魔術は火力は高くない、だが火力は求めていない。

 放たれた砂、ソレで敵を拘束する。

 つまりは時間稼ぎと言う訳だ。


「さて、ゾンビ一号。あの魔術の魔法陣を描いてくれ!!」

「はぁ!? 『絡み絡み離れ崩れ、四大を以て一極を織り成す。ここに極線を成せ』!! どうするんですか!?」

「所有権を、奪う!!」

「はぁ!? そんな馬鹿な真似……、いえたしかに不可能ではない!!」


 魔術の根本とは、魔法陣だ。

 そして、魔術を発動させるのに必要な要素は何か? 答えは魔法陣とそれを発動させるだけの魔力。

 本来ならば魔力によって描く魔法陣は他者では使えない、理由は複数あるが最大の理由は描いた人間と魔力の質が異なるからだ。

 だが、それはあくまで別個の他人の場合。

 2人の場合、片や被造物片や作成者。

 魔力の質はほぼ同一と言ってもいい。

 わかりやすく例えると、拳銃だ。

 機構は魔法陣であり、弾丸は魔力。

 打ち出す弾丸がほぼ同じ規格ならば、別に他社の弾丸を使用しても構わない。

 当然、多少の不具合は生じるかもしれないがそれは誤差として切り捨てられる範囲でしかないモノだ。

 ゾンビ一号はそこを理解し、無知な黒狼の補助に努める。


「魔力を流すぞ!!」

「いつでもどうぞ!!」


 直後、無遠慮に膨大な魔力をゾンビ一号が展開している魔法陣に流す。

 魔法陣は完成されているため、その蜂起を行えばいいだけの話だ。


 だが、それでは華がない。

 と言うか、ゾンビ一号だけが強いのはムカつく。

 そんな童心が現れた為、少し小細工を弄する。


「あ、ヤベ」

「はぁぁぁぁあああああ!? 何してるんですか!?」

「ミスっちゃった♡」


 どんな小細工をしたのか、答えは属性を一つ追加したのだ。

 主要10文字、そこに含まれた不明とされる一文字を。


 魔法陣が、質量を持たないはずの魔法陣が酷く輝く。

 一瞬遅れて、『ダークシールド』を展開する黒狼。

 だがその耐久値がゴリゴリと削られていく。

 牡牛の炎の比ではないほどに。


「何を!? 訳わからない属性が追加されてる!? これってミスじゃないですよね!? 意図的ですよね!? 魔力供給やめてください、それ以上すると何が起こるか……!!」

「供給してねぇよ!! クッソ少ないMPでこの現象が発生してんだわ!! 何が起こってんだよ、マジで訳がわからん!!」

「はぁぁぁぁあああああ!? 魔術理論が破綻してるんですが!? 無から魔力が生まれてるんですか!? と言うか目の前から馬が迫ってるんですが!?」

「とりあえず発射ぁ!!」

「このクソボケ黒狼がぁぁぁぁぁああああ!!」


 直後、一筋の細い極光が馬を貫いた。

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