条件は整った。
それを認識した黒狼は即座に、火を吹く牡牛の対処法を考える。
幾ら頭部を水で覆えど、蒸発しては意味がない。
それどころか、熱湯になればダメージが発生するかもしれない。
故に、まずは火を止めなければならずそのための手段を模索する必要がある。
「ッチ、見通しが甘かった。」
ボソリと呟き、自身に反省を促す。
水と動きを止められればどうにかできる、そう甘く見積もっていおり火を吹く事を忘れていた。
いや水によって火は自然消滅すると思っており熱湯になる可能性を考慮していなかった、まさに致命的。
だが、まだ多少の時間は残されている。
どうにかする方法は、どこかにあるはず……。
「黒狼!!」
「なんだ!!」
「そろそろ動き出すぞ!! 早く対処をせねばな!!」
(それぐらい見たら分かる!!)
内心で焦りながら、努めて冷静に対処法を考える。
水を展開しているゾンビ一号は、MPの関係上長くは保たせられないだろう。
レオトールは論外、できるのならばもう既にしている。
打開策は自分に残された、対処法は……。
(
「『ダークボール』『ウォーターボール』」
二種の魔法を即座に発生させ、混ぜ合わせる。
片や物質では無い概念、片や不定形の液体。
魔法という前提を考えても尚、混ぜ合わせるのは非常に容易い事だ。
だが、それでも不確定要素が大きいのは否めない。
故に、ここでこういう事が得意なスキルを発動する。
「『錬金術』!!」
一か八かの賭け。
そう思いながら発動したスキルだったが事、合成錬成などの行動はお手の物だったらしい。
あっさりと、気が抜けるほどあっさりと合成されたそれは黒狼の意志に従い牡牛の鼻面を覆う。
「炎は光と熱で構成されているのは常識、だよなァ!! じゃあ、問題だ!! 闇で光を水で熱を奪えばどうなるか、結果は目に見えてるだろ!!」
骨の癖に器用に笑いながら、声高らかにそう告げる。
一瞬で高温になり蒸発するダークウォーターボール (仮)、ただそれだけで十分熱は奪えた。
再度、炎を噴射しようとするが蒸気によって炎が燃焼するのに必要な温度まで達しない。
条件は完璧、ならばあとは指示を出すだけ。
「やっちまえ、ゾンビ一号!!」
「当然、です!!」
彼女が操作する水が牡牛の頭部を覆う、より一層足掻く牛だがその行動により体内に溜め込まれている酸素が吐き出される。
こうなって仕舞えば膨大な力は仇にしかならない、筋肉は酸素を大量に消費するものなのだ。
となればあとは袋のネズミ、窒息まで水に浸けていればいいだけ。
だが、コレで気を抜くのは三流だ。
「おいレオトール、分かってんな?」
「『ファントムペイン』」
「言いたいことはその通りだけど、行動まで早すぎないか? 『
2人同時に攻撃力を持たない攻撃で殴りだす、勿論意味がない行動では無い。
いや、実質意味がない行動だが意味が皆無なわけではない。
痛みを牛に与えることで気絶までの時間を短縮するのだ、同時に弱らせる意図もある。
同じことを二度しろと言われても絶対にしたくない、面倒臭いし何よりゾンビ一号のMPが足りない。
そうなれば捕獲の難易度は大きく跳ね上がるだろう、不可能とは言わないが普通に地獄だ。
具体的に言えばどこぞの聖遺物周回ぐらいに地獄だ、終わりが見えないという意味で。
故に2人は殴りまくり、グッタリした牛をレオトールの鎖で縛る。
「お、予想通り扉が出てきたな。」
「ああ……、今後もこういう類の試練があるとキツイのだが……。」
「ですね、二度とやりたく有りません。ついでに黒狼、軟膏をください。」
「ほらよ、骨印の回復軟膏だ有り難く使え。と言うか、レオトールはまだいいだろ。単独でもどうにかできるんじゃねーの?」
「まさか。私1人なら捕獲という発想が出てこず、あの鹿を永遠と鏖殺しているところだったぞ?」
「冗談めかしてますけど、私が何も言わなかったら多分ずっと殺してましたよこの人……。あ、レオトールさんは要ります?」
「マジで? お前って脳筋なんだな。あとゾンビ一号、背中にも傷があるから塗っといてやるよ。」
「有り難く受け取ろう、幾つか蹄に傷付けられた跡があるのでな。それと黒狼、聞き捨てならない事を言ったな?」
「気のせいじゃね? と言うか嫌がるなよゾンビ一号!! ガラスのハートが粉々になっちまうゾ⭐︎」
「どの口で……、まぁいいです。と言うか、言われたくなければ手をワキワキさせないでください!! 私は純愛志向の乙女なんです!!」
「草」
とまぁ、仲良く会話しながら寛ぐ。
怪鳥戦の傷も癒えずに戦っていたのだ、このぐらいの休憩は妥当と言ったところだろう。
それに倒した二体の牡牛の肉もあるのだ、ここで休憩しないのは絶対にナイ判断だ。
さらに後押しするならば、腹時計的にも今は昼時。
ここまで条件が揃っていたら休憩しない方が運命に悪い。
「と言うわけで、焼肉パーティーだぜ!! イヤッフォー!!」
「なんか騒いでますね、あのバカ。」
「バカは雰囲気で酔えるからな。」
「ソコ!! 俺の悪口を言わない!! 聞こえてんだよ!!」
「「聞こえるように言ってるだけ
「……うぅ……。」
膝を抱えてのの字を書き出した黒狼、やはりバカはバカなn……。
「あ、こう言うことか。気づいたら簡単じゃねーか、魔法陣の描き方。」
「「は!?」」
何がどうなってこうなったのか一切不明だが、どうやら彼は魔力による空間への魔法陣の書き方を理解したらしい。
いや、理屈としては至って分かりやすい話なのだ。
そもそも魔力、すなわちMPとはイメージをある程度の理屈を介して現象に変換するためのエネルギーである。
その性質上、現実に干渉しない魔術は理屈も理論も不要なのだ。
簡潔にまとめると、現象化しない魔術はイメージさえあれば成立してしまう。
それこそ例えばのの字に魔力があればいいなー、と言う思考でも成立してしまうのだ。
だって、魔力という仮想エネルギーがどんな形を取ろうが誰も気にしないのだから。
そこに気づけば案外、空中に魔法陣を展開する魔術はあっさりと作る事ができる。
ピコン♪
ワンテンポ遅れて通知音がなる。
語るまでもないが、魔法陣スキルの取得の通知だ。
そうして唖然としている二人に向けて黒狼は言い放つ。
「どうした? 焼肉作ろうぜ?」
「「いやいやいやいや!!」」
すかさずツッコミが入り、驚愕と驚きでゾンビ一号が詰めよる。
レオトールもその異端さ、異常さは理解しており呆れと共にため息を吐く。
と言うか、のの字をなんで魔力で浮かび上がらせようとした?
「なんで貴方はそんなおかしいんですか!? 私の記憶でも座学で色々学んでようやくでしたよ!?」
「いや、できたんだから仕方ないだろ!! 俺だって意識してやったわけじゃねーし!!」
「そう言う問題じゃないんですって!! と言うか、意識すればするほどできないものなんですが!! 嘘だ、絶対嘘だ!! 一回ここで書いてみてください。」
「ほら、出来てるだろ?」
「マジで出来てるじゃないですかこの骨!!」
「お? 意見か?」
「文句です!!」
「グエフゥッ!?」
そう言いながらゾンビ一号は思いっきり黒狼を殴り付け、それを受けた黒狼は致命傷を負ったとさ。