『呪血』が成功したことを確認した黒狼は、即座に『呪屍』を発動させる。
このようなチャンスは二度と巡ってこない、故に手早く済ませる。
「ふぅ、一件落着ってところかな?」
死屍累々、そう言わんばかりに転がっている2人。
それを見た黒狼は一安心しながらも、現れた宝箱を先に開けようと進む。
「一件落着、とは行かんと思うぞ?」
不意に聞こえたレオトールの言葉。
まさか自分の独り言に言い返されるとは思わず衝撃を受ける。
同時に、その言葉の意味を探るように周囲を見渡した。
「言い方が悪いと思いませんか? レオトール。」
「まさか、仲間内での関係悪化は共有するべきだろう? それもここまで狭いコミュニティだとな。」
「先に宝箱開けてきて良い?」
「「どうぞ」」
そう言うわけで、当初の予定通り宝箱を開けに黒狼は歩く。
別に遠くはないが、二人の余りに険悪な様子に急いで宝箱を開ける。
中身は羽がついた首飾り。
それとともに、ブーツが入っていた。
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鑑定結果:空飛びのネックレス
・魔力を込めることで空を飛ぶことが可能なネックレス。
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鑑定結果:浮足のブーツ
・足場が不安定な場所でも安定して動ける。
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「うーん、先に寄越せ。」
感想は一言、文句を交えたソレを告げると体を反転させ二人の元に戻る。
二人の様子はなんとも表現し難くゾンビ一号が猛犬のようにレオトールを睨んでおり、レオトールはいつのまにか綺麗になっており剣の手入れをしていた。
「ドウドウ、ゾンビ一号。慌てんな、まずは詳しく事情を聞かせろ。」
「で、ですが!! 彼は凶悪な人間でッ!!」
その言葉を聞いた瞬間、黒狼の表情が目紛しく変わる。
表情筋がないその顔からは明確な感情は読み取れない。
だが、一つ明確にわかったのは最後に現れた表情はいつも通りの何を考えているかわからない顔だということだ。
「レオトール、一応話を聞かせろ。」
「私にも分からん。」
「だろうな。」
溜息を吐き、それだけ告げると現れている扉に向かおうとする。
態度から分かる通り、黒狼にとってゾンビ一号の警戒などどうでも良いのだ。
彼にとって必要とする事実はただ一つ。
「ゾンビ一号、過分な警戒はするな。俺はこいつの事をダチとしても仲間としても好きだが、別に無警戒と言うわけではないぞ?」
「にしては些か、私に頼る場面が多いと思うがな?」
「痛い所を突いてくれるな……、ハハ。」
そう苦笑いすると未だ倒れているゾンビ二号を一瞥する。
流石の巨体だ、あの小さな扉を抜けるのは不可能だろう。
その判断をすると、折角得た新戦力なのに……と呟きながら黒狼は扉の前まで行く。
「……、どういう事ですか!?」
「どうもこうもあるまい、今見た全てが真実だ。」
扉に進む黒狼とは対照的に、ゾンビ一号はレオトールに詰め寄る。
ゾンビ一号はかなり消耗しており万全な戦いは出来ないだろう、だがそれでもゾンビ一号は自分の死を覚悟して彼に詰め寄った。
対するレオトールは、剣に手を掛ける様子もなくゾンビ一号の殺気を飄々と受け流している。
消耗度合いだけで言えばレオトールの方が上であろうに、今この場において気圧されているのはゾンビ一号の方だ。
「私の知っている伯牙は冷血無情の凶牙です、その貴方が何故彼に助力する!! 理由を言え、伯牙!! 何故我々を殺した!!」
「貴様のいう我々の意味が分からん、言いたいことがあればハッキリと口にしろ。」
「どの口でッ!!」
激情のままに、回収していた骨剣を抜こうとする。
同時に、レオトールの手が抜こうとする剣の柄を抑えていた。
「ッ!?」
「激情に駆られるのはいい、それを悪癖とは言わん。人間としてそれを欠如して仕舞えば、ただの動く骸だ。」
つまり、その怒りを発露しているうちは彼女が。
レオトールから見た彼女は人間だと言っているのだ。
彼は少なくともゾンビ一号を人間と認めているのだ、黒狼とは違って。
だが、頭に血が昇っているゾンビ一号はその言葉の意味に気づかない。
先入観が、色眼鏡がそれを邪魔する。
「おーい、遅いぞ2人とも。」
「彼女が私に何か言いたいらしい、しばらく時間を貰えるか?」
「私はッ!!」
「……、面倒臭せぇ。普通に剣で殴り合って決着は無理そうか?」
「私はかまわんぞ?」
「……、分かりました。ですが万が一、私が勝った場合は貴方の思惑と今後の行動それら全ての決定権をください。」
「構わん、負けるなど有り得んからな。」
「……、貴様ッ!!」
「ドウドウ、ゾンビ一号。勝利条件はどうする?」
「致命傷、もしくはそれに値する攻撃でどうだ?」
「悪くねぇ、じゃそれで。あと、ゾンビ一号はコレ飲んどけ。」
「なんですかそれ?」
「ポーション、ダンジョンの宝箱から出たやつ。」
「分かりました、有り難くもらいますね。」
そういうと、恭しく受け取り一気に飲み干す。
直後彼女の体が淡く輝き傷がゆっくりとだが治り始める。
同時に、彼女は不思議そうな顔をしながら自分の体をペタペタと触った。
「どうした?」
「いえ、何か妙な感覚が……。」
レオトールに視線を向けるが、彼は首を左右に振って知らない事をアピールする。
となればただのゲーム的な演出と認識した黒狼は気にしないことにした。
「別に異常はないんだろ? だったら早く始めようぜ?」
「おいおい、私の回復はないのか?」
「お前なら瀕死でも問題ないだろ。」
「クク、違いない。」
「……!!」
余裕綽々と笑うレオトールを全力で睨みつけるゾンビ一号。
彼女は後ろに飛ぶと、骨剣を抜く。
それを見たレオトールも長剣を抜いた。
「開始の合図は……、俺がやるか。ハイ、始め。」
気怠げにそう告げる、瞬時にゾンビ一号は無発声で魔術を展開した。
属性は風、形状は弾丸、数は数十。
一瞬で不可視の弾丸がレオトールに飛翔する。
「良い機会だ、指南をしてやろう。」
それに対して、僅かに体を動かすだけで全て回避するレオトール。
HPに余裕はないが、その動きは余裕しかない。
剣を抜いてはいるがあくまで抜いているだけなのだ、振るまでもないほどに2人の実力差は隔絶している。
「甘い、何があったか知らんが継ぎ接ぎの戦い方では悪癖が付く。」
ゾンビ一号が魔術を縫って剣戟を仕掛けようとしたその時、その言葉が告げられる。
確実に殺す気で挑んでいる、間違いなく急所を狙っている。
であるのにも関わらず、目の前の男は服が触れぬギリギリのところで回避していた。
「ああ、言い忘れていた。私個人としては、対モンスターより対人の方が得意でね。」
直後、彼の剣から手が抜け落ちる。
否、手だけではない。
体全てが重力に逆らわず落ちたのだ。
「まずは手加減しながら行こうか、ゾンビ一号。」
本来ならばあるはずの手応え、それが無くなったことによって起きた感覚の矛盾。
それらを無理矢理諌めると、彼女は背後に重心を傾ける。
だが、その行動は遅い。
「まずは想像しろ。相手がどう動くのか、そしてそれに対し最善の動きを。『
金色のエフェクト、それと共にわざと当たらないように調節されたスキルによる拳の連打が始まった。