ニヤリと笑いながら、全身が粉砕される様な衝撃を受ける。
歯を食いしばる、体に罅が入った。
ダメージは想定以上、だがそれでも。
この確証のない行動をしなければならない程に、黒狼は追い詰められていた。
「『強靭な骨』!!」
叫ぶ様にスキルを発動させる、復讐法典のカウンターはまだ発動していない。
起動はしているのに発動していない、故に未だ怪鳥は暴れ回っている。
つまり、
「くそったれが!! 『深淵』!!」
直後、体に刻印が入る。
深淵の扉が開かれた、だが復讐法典は発動しない。
やはり無理があった、土壇場での覚醒など無いのだ。
再度攻撃が、怪鳥が暴れる。
体がバラバラになるほどの衝撃を受け、上空を舞う。
それでもまだ、発動しない。
必勝の一手となり得ない、だがそれでも。
「ここで死ぬわけには、行かねぇんだよ!!」
三度目の攻撃、死を伴う衝撃が黒狼を襲う。
耐性反転によって受けた攻撃なら、10秒後に復活できる。
だが、コレはその攻撃に該当するのか? 否、する筈がない。
歯を食いしばる、意地と気合を込める。
死にたく無い? いいや違う、何も成せないままここで脱落するわけには行かないだけだ。
膨大な熱を、絶大な衝撃を感じながら自分のインベントリを見る。
渡された武器の数々、その中で使えるものはないか。
運命の悪戯に頼ろうとし、辞めた。
「違うだろ、俺!!」
思わず叱咤の声が出る。
奇跡に縋るなど三流以下だ。
なんであろうと、どれであろうと。
生きているのならば、戦っているのであれば。
常に
迫り来る
レオトールならば? 笑わせるな。
この場では
インベントリを操作し、一瞬で槍剣杖を取り出す。
即座に剣を引き抜く、未来など見えない。
結果などわからない、だがこの場においてコレこそが最善と疑わず剣を振る。
スキルなど使えない、使わない。
既に、賽は神の手から
全ては偶然、されど必然に違いない。
コンマ一瞬、跳ね飛ばされ不安定な姿勢から放たれた一撃が暴れ回った末に行われた一撃と交差する。
瞬間、待機状態のスキルが発動した。
そう、
運命の女神は、黒狼に微笑んだ。
必死の運命から逃れようとする黒狼に。
「さぁ、意気地無し!! 出番は用意してやったぞ!! 『屍従属』!!」
*ーーー*
事態は動き出した、それを認識したレオトールは戦闘中にも関わらず泥中に倒れ込んだ。
もう体が限界なのだ、ポーションを飲み込んでいるが完治には程遠い。
そもそも、戦える状況ではないのである。
コレだけの損害を被ったのなら大人しく逃げ隠れするべきなのだ。
ここまで無茶をすれば確実に今後に響くだろう。
だが、それでも掛けてみる価値があると彼らに感じた。
レオトールにとって無茶をする理由はそれで十分なのだ。
「後は任せたぞ、ゾンビ一号。願わくば、私よりあの鳥を優先してもらいたいものだがな……。」
そう呟き、上半身を起こす。
ダメージは未だ体に根を張っており、剣を握るなどできるはずがない。
さっきの一撃も、無茶に無理を重ねたものだ。
だが、その甲斐あったというもの。
常に
それだけで、死に掛ける価値があったと確信を得た。
「まぁ、どうにかできぬ事はないのだが……。」
そう苦笑しながら、首当ての中に仕込んでいる首飾りを取り出す。
並々と入った毒々しい液体、それを封じるように幾つかの宝石があしらわれている。
其れを手で弄りながら嘆息する。
もし、黒狼が鑑定スキルを使っていれば殆どの情報が見れないソレに驚愕するだろう。
何せ、効果が効果なのだから。
「ヒュドラの猛毒、それも純液となれば話は別らしい。かなり高度な封印があしらわれているな。」
苦笑いしながら、インベントリにしまう。
ヒュドラの試練、それを終えた時に得たアイテムだ。
それを一滴でも浴びれば、生物ならば即死するだろう。
いや、生物でなくとも。
それこそ、ゾンビ一号や黒狼に浴びせても即死させる事は容易い。
故に、宝箱から現れた時即座にそれを隠したのだが。
「全く、ヒュドラの純液を見るのは生涯で一度と思っていたが……。」
そう苦笑しながら、体を清潔にする魔術を使用する。
下半身は未だ泥に浸かっているため汚いままだが、上半身は十分に綺麗になった。
そして、インベントリを開くとすっかり減った武器を確認する。
すっかり減ったとはいえど、戦い方を定めたその時から溜め続けた武器武装は並大抵の物ではない。
未だ100を超える武器武装が保管されている。
今回の戦いだけでその損害は計り知れない、傭兵団の団長を仮にでも務めていたレオトールはその損害を確認して空を仰ぐ。
もし、計簿を任せている者たちにその損害を告げれば……。
ああ、想像にも恐ろしい剣幕で説教を行うだろう。
そんな、二度と帰ってこない日常を思い返す。
もう、言うまでもないだろうが敢えて言おう。
彼の名は、レオトール。
レオトール・リーコス
南方最強と噂される傭兵団『伯牙』を率いていた
それでいながら『伯牙』から追放され洞窟まで逃げ延びその末に
「さて、そろそろ終わりか?」
かの怪鳥に、止めを刺そうとするゾンビ一号をみてそう告げる。
終わるのならば盛大に出迎えてやらなくてはならないな、と思いながら外傷は消えた体で立ち上がる。
内傷が治るのには幾分時間が掛かるだろうが……、傭兵稼業で手に入れた高品質のポーションを使えば大した時間が掛かるものではない。
そんな考えを巡らし、自分に呆れたように苦笑する。
血も涙もない、殺戮と鏖殺の限りを尽くしたなどと言われている自分が随分とあの2人に肩入れしていることに気付いたのだ。
「全く、他者の噂は当てにならんな。」
やれやれと縁起臭く、自分でも信じていない内容を嘯きながら立ち上がり再度体を清潔にする魔術を行使する。
魔術の才がないとはいえ、高レベルに達した彼はMPの総量が割と多い。
この程度の無駄は問題ないと認識しながら剣を納刀する。
直後、暴風と共に泥水が巻き上がり彼の体を汚した。
どうやらトドメの一撃は壮大な魔術らしい。
それもかなり正統派の。
「やれやれ、さっきの魔術を行使したのは失敗だったか?」
そう言と、再度魔術をかけ直した。