絶望し、悲観に暮れるゾンビ一号。
例えこの世界が、黒狼にとってゲームであっても彼女らは間違いなくこの世界を現実として認識している。
リスポーンなどない、掛け替えの無い命がある世界として。
故に、死に対する恐怖は黒狼よりも強い、死ねば二度と生き返られ無いのだから。
故に、心が折れたその絶望感は誰よりも遥かに重い。
「避けろ、ゾンビ一号!!」
だからこそ、その言葉は届いても行動が起こるまでには至らなかった。
膝から崩れ落ちたゾンビ一号は、一歩も動かない。
動けない、その心は折れているから。
怪鳥は痛みを誤魔化す様に、痛みから逃れる様に恐怖と共に自分の側に居る
前方にいる
「不味い……!!」
視覚がある程度戻ってきたレオトールは、怪鳥の進行方向に存在するゾンビ一号を見ながら剣を引き抜く。
常に腰に携えていた、己の愛剣を。
裂傷によって万全と言えない体を無理に動かす。
ここで失うわけには行かない、ここで殺させるわけには行かない。
彼女の損失を取り戻すことは無理なのだから。
黒狼死亡から3秒経過。
盤面は大きく動き出す。
*ーーー*
「不味い……!!」
(私はここで死ぬのか……。)
絶望した様に、安らぎを得た様に。
彼女は心の中で呟く。
死体になってまで動いたのだ、働いたのだ。
もう永遠に休んでもいいのでは無いか? そんな弱気な思考が渦巻く。
目の前から来る
もう休めると思って。
「『誇り高き牙を以て』ッ!!」
だからこそ、その言葉を聞いたときに鼓動が高鳴った。
体をボロボロにしながらも、歯を食い縛り痛みを堪えながらも。
それでも尚、大敵に挑む彼の姿が嫌でも目に焼きついた。
『なるほど、ソレが貴様の実力か。【銀剣】』
『卑怯とは言うまいな? 【飾弓】』
『【穿槍】、噂に違わぬ実力だな。最も、我らを打倒するには至らないが。』
『そこを引け、【鳴花】。今ならば見逃してやる。』
『【征服王】の名の下に、貴様らを蹂躙する。』
『名乗りか、北方の流儀に合わせてやろう。傭兵団【伯牙】その盟主である
幾人もの、継ぎ接ぎの魂に刻まれた走馬灯がそのスキルを発動した時に脳内に流れた。
10は超える走馬灯、その中でも実力者たちがなす術なく目の前の存在に敗れる走馬灯が走る。
「……、は?」
困惑、そして焦燥。
この記憶は、一体何か。
この記録に、意味はあるのか。
それを考えるより先に、体が震える。
この魂は、この体は。
目の前の死を纏った存在に恐怖する、なぜ彼を信頼できるなどと考えていたのか。
その思考の意味が分からない。
目の前で、レオトールはゾンビ一号を救うために剣を振るっている。
だが、その意味は分からない。
分からない、分からない、分からない。
ピコン♪
「……、ああああああああああああああ!!! 嫌だ、嫌だ、死にたく無い!! 死にたく無いよ!! 助けて!! 助けて黒狼!! 助けて!!!!!」
精神が壊れた、幼児退行する。
彼女は、彼女らは。
なす術なく、絶望をその身で受けながらレオトールに殺された怨念の集合体。
黒狼という親に依存する、餓鬼そのものなのだから。
「逃げろ、ゾンビ一号!! お前がいては邪魔だ!!」
「ひっ……!!」
今度は別方面で恐怖を感じる。
首を刎ね、胸を裂き、心の臓を貫かれ、四肢を切り落とされ。
あらゆる死の記憶が再度フラッシュバックした。
幼児の様に、全身を動かしながら無様に泥塗れになりながら。
継ぎ接ぎの魂から生まれた継ぎ接ぎの精神がどうしようもなく彼を恐れる。
「不味ッ……!? 『威圧』!!」
怪鳥がより一層暴れ出した。
レオトールから逃れようと前方に進む。
その先にはゾンビ一号がいる。
彼女が死んでしまっては、どう足掻いても勝ち目はない。
これ以上の損耗は許容できない。
だからこそ、怪スキルを使い惹きつけようとするが……。
不発に終わる、恐怖の方が勝っているのだ。
「ッチ、仕方あるまい。」
もう既にバフは切れている、技量による大技を使えば再度腕にヒビが入るだろう。
もしかすれば、より酷い怪我を負うかもしれない。
だが、それはポーションで回復できる損害だ。
覚悟を決める、これで倒し切れる筈はない。
ここで倒し切れる事などあり得ない。
本来ならば温存するのが正しいだろう、だが使わねばここで終わる。
この戦いで、個人の戦いでそれを使うのは流儀に反する。
それでも今後のことを考えれば……!!
そう思い、剣を上段に構えた時にその声が聞こえた。
「俺、ふっかーつ!!」
大声を上げながら馬鹿が現れた、もう10秒は経過していたのだ。
馬鹿野郎、と心の中で吐き捨てながら状況を確認する黒狼を見る。
もう、レオトールの体はまともに動かない。
力を抜けば地面に倒れ込むかもしれない、だがそれでも問題はないだろう。
目の前に頼れる仲間がいるのだから。
「レオトール!! どいう状況だ!!」
「見たままだ!!」
「そりゃそうよ!!」
そう言いながら、双剣に魔力を流し空を飛翔する。
天高く、怪鳥が飛んでいた空から怪鳥を見下す。
「『ダークバレッド』」
魔法を使う、碌なダメージにならない牽制を行う。
最も恐怖によってレオトールから逃げている怪鳥にはその攻撃は気にするに値しないものだったが。
「……、レオトール!! ゾンビ一号を抱えて逃げられるか!?」
「無理だ!!」
一言で会話を終わらす、距離的にも身体的にも彼女を抱えて逃げるのは不可能だ。
ならば、と。
黒狼は、双剣を手放した。
重力に沿って地面に落ちる。
態々魔力を消費してまで飛び上がった有利を潰す。
「こいよ、化け物。」
自分から怪鳥に突っ込む。
新たに得た経験を注ぎ込んで、呪術を執行する。
白骨の流星が落ちる。
体が空気の抵抗により、解離しようとする。
本来ならば、これは喜ぶべきことではない。
だが、この一瞬においては話は別だ。
「掛かってこいや!! 喧嘩上等!!」
叫びながら怪鳥の眉間に黒狼は突っ込んだ。
直後、その反応に対し潰そうと攻撃を行う。
レオトールが、それを見て目を見開く。
相変わらずゾンビ一号は、ガキの様に逃げているだけだ。
そして、黒狼は。
「『
スキルを発動させた。
復讐、報復を関する教典。
その名を冠したスキルを発動させる。
体が半ばバラバラになりながら受けた状態を、ダメージを返す呪術を発動させたのだ。
「さぁ、地獄を見ろ。」
悪魔の様な笑みを浮かべた。