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 後半戦、開始。


 怪鳥が地面に落ちてくる、ソレを視認しながら黒狼は的確に指示を出す。


「ゾンビ一号、レオトールを回収しろ。その間に俺はあの化け物に致命傷を与えてくる。」

「待ってください!! 回収しろと言われても大きさ故にどこにいるのか……。」

「内臓が露出しているところ周辺、具体的に言えば右翼周辺だ。」


 そう言うと、目を細める。

 バフはかけ終わっており後は攻撃に移るだけ。

 レオトールも利用した風が発生する双剣を手に持ち、今作った秘密兵器である金属板を咥える。

 剣に魔力を込める、魔法陣が蜂起し風が渦巻く。

 一瞬の後、黒狼は空を舞った。


 何故、レオトールがダメージ発生覚悟で発動しなければならなかった双剣を黒狼は安易に発動できるのか? 答えは簡単でありそもそも重量が違う。

 80kgはあるレオトールが空に浮かぶのに必要なエネルギーは莫大であり、ソレは制御し切れるものでは無いない。

 だが、10kgと少しの黒狼は発生させるエネルギーは微量であり制御するのは容易いのだ。

 故に黒狼は、空を舞う。

 空を舞いながら超加速をしつつ、前進する。

 高速で飛んでいる以上、体がバラバラになりそうな負荷がかかるが……。

 ソレは、強化系スキルの発動で誤魔化す。

 レオトールの猿真似ながらレオトール以上の成果を出しつつ、超高速で接近した。


 怪鳥が目下に迫る、同時にレオトールの姿も確認できた。

 全身が傷だらけであり、返り血を全身に浴びているらしいがソレでも気絶はせず意識を保っているらしい。

 墜落する怪鳥を掴みつつ、その双眼は力強く黒狼を視認していた。


「レオトール!! 大丈夫か!?」

「………。」


 爆音故に互いの言葉は聞こえない、だがその様子から言っている内容はわかる。

 自分は大丈夫だと、一切大丈夫そうに見えない体でそう告げている。

 だが、彼の事だ。

 見栄や意地でそんな事は言わないだろう、ソレを短いながらも深い付き合いで理解している黒狼は視線をレオトールから外すと怪鳥を再び見る。

 自分の攻撃がまともに通用するのか、疑問が脳内を駆け巡り答えは出ない。


「いや、通用させる。」


 通用するのか、と言う弱気な発言では絶対に通用しない。

 通用させなければここから先に進めない、ならば通用させる。

 考えるのはそれだけでいい。


 今まで改造、作成してきた魔法陣の中で最もシンプルな魔法陣を刻んだ金属板。

 ソレに魔力を流す。

 刻まれている魔術言語は、火、熱、収束、爆発。

 つまり魔力を熱に変換し、圧縮して爆発させると言うシンプルな魔法陣。

 消費魔力がモノを言う魔法陣に魔力を込める。


「『暴走』『蛇呪』ッ!! ついでに『深淵』も掛けるぜ!!」


 魔法陣が異常なほど光り輝き、変質を始める。

 どんどん見た目は呪術に近くなっている、魔法陣が本来の機能を逸脱し暴走を始めた。

 制御が効かない、ただ最初に刻まれた内容通りに熱を圧縮している。

 HPが目減りする、魔力は変換された片っ端から全部突っ込む。


「まだまだァ!!」


 明らかに異常な状態になっている魔法陣を見ながら黒狼は笑う。

 異常事態がこの上なく楽しい、自分の想定ができない何かが出来上がっているのが非常に面白い。

 目の前の光景にノイズが一瞬入る、視覚が狂う。

 深淵スキルが何かやらかしているのだろうが何をやらかしているのかは全く分からない。

 使用者が蝕まれ、視覚異常が発生しているのか。

 はたまた空間が実際に変化しこのような状態になっているのか。


 どちらでも構わない、これが有効打となるのならば。


「死に晒せ、クソ鳥がァ!!」


 魔術、いや呪術が出力され圧縮された熱の塊が。

 ガラス玉のようなモノが発生する。

 たったそれだけだ、出力されたものは。

 失敗したのか? 否、そんなわけがない。

 そもそも失敗しているのならば、何故

 何故ここまで恐怖で足が竦むのか。


 ゆっくりと出力された魔術が、呪術が鳥に落ちる。

 もう既にMP切れによって空中に滞空する事はできない、針で突けば今の黒狼は死ぬだろう。


 徐々に、徐々に。

 体感時間が酷く遅い中、圧縮された熱が怪鳥に触れる。


 熱い。


 暑い、


 あついあついあついあつい


 あついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあつい、あつい。


 真紅が、世界を包み込む。

 極光が、太陽がそこに顕現する。

 光輝きながら黒狼の体を蹂躙し、即座に死に戻らさせる。

 降臨した極小の太陽は怪鳥にも牙を剥く。

 莫大なエネルギーが、全方面の世界を焼き付ける。


 これですら込められた魔力は、MPはたった500程度。

 あまりにもシンプルで、それ故にロスがほとんど発生せず。

 深淵を開いたことにより得た未知からの協力で、それ故に神々が行う攻撃に等しいモノが現れ。

 それらを暴走させると言うシステム的なバフを入れたおかげで、理屈や単純な計算式では完成しない愚かなまでに単純な魔術が、呪術が発生した。


 周辺にある全てが炭化しゆく、レオトールは即座に離脱。

 それと共にインベントリから取り出したポーションを全身に掛け、スクロールから氷の魔術を展開し膨大な熱を防ぐ。

 ゾンビ一号は発動の瞬間を八、九十メートル遠くから見ていることしかできなかったがソレでも熱気が伝わる。

 目が潰れるほどに眩い光が降臨したのを確認した。


「巫山戯てます……!?」


 驚愕に顔を歪め、ゾンビ一号は告げる。

 距離は離れているがレオトールも同じ感想だ。


 何が巫山戯ているのか、黒狼の攻撃か?


 いいや違う。


KyuuuuuuuruuururuurrurrrrrrrrrrrraaaaaaaaAAAAAA!!!!!


 あの極光をその身の上で受けてなお、生き残り絶叫をあげる怪鳥に対してだ。

 ゾンビ一号は幻聴する。

 絶望が、足音を立てて走りくると言う幻聴が。

 あの一撃が致命傷に至らないと言う絶望が、迫り来る足音を。


 勝てるのか、本当に。

 こんな敵に?


 動いていたはずの脚は止まっていた、あの大技が決まり勝ちを確信したはずの勇気は無くなっていた。


「……、あ。」


 ゾンビ一号は膝から崩れ落ちる。

 力が入らない、視線が下を向く。


 果たして、自分はここから生き残れるのか? その疑問の答えは一瞬後に現れた。

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