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大空覆う巨大鳥

 大空を舞う。

 いや、舞うなどと生易しい表現では表せない。

 大空を蹂躙しその空で嘲笑う怪鳥は、氷の槍で突き刺されたことにより絶叫をあげる。

 レオトールはソレを見ながら上に上にと跳び続ける、この敵はヒュドラとは違うのだ。

 ヒュドラはそこにいるだけで猛毒に蝕まれ確実に死亡することが確定していた、ステータスでは埋められない。

 ステータスでは埋まらない種族としての限界があった。

 だが、これは違う。


「ソラを飛んでいる鳥風情に、私が負けるとでも?」


 虚勢だ、一手間違えれば死ぬのはレオトールだ。

 だが、それでも。

 種族としての埋められない差はない。

 知恵と工夫とその技量で、その圧倒的な大敵を倒すことは可能だ。


(これほどの敵は、スカーレット・サンドワームぶりか。)


 倒せると言う前提の大敵としては、と付け加えながら思考を回す。

 かの大敵、難敵、強敵は猛暑の中、死を翳す熱を蓄えた砂の海に潜り込んでいた。

 あの敵には剣が効かなかった、分厚い皮膚と蓄えられた肉によって殆どの攻撃を無効化されたのだ。


「それと比べれば、幾分マシか……ッ!?」


 ポーションによって腕はすっかり治っている。

 さっきの攻撃でおおよその位置と耐久性は把握している、故に問題ないと想定していた。

 だが、その慨算は大きくズレる。


 空中で暴れ出したのだ、あの怪鳥が。


 無秩序に暴風が吹き荒れる、大の男が吹き飛ぶほどに強烈無比な風が吹く。

 接近していたレオトールはその影響をモロに喰らった。

 足に展開していた結界はその暴風で即座に解除される。

 早速、最善手から外れたのだ。


 予想外だ、足が地につかない空中でこの失態は大問題だ。

 焦りで一瞬、顔が歪む。

 視認距離が狂わされている以上、再度接近し同じような大技を使わなければ正確な距離を認識できない。

 目の前の怪鳥はそれほど大きく、厄介な性質を持っているのだ。

 レオトールはインベントリを開き、落ちてくる槍と剣をしまうと刀を取り出す。

 その間、2秒。

 迷いはあれど、それ以上ができない。


「『月歩』『抜刀術:雷月下』」


 抜刀術、レオトールが極東から来た剣士に教わった抜刀術を自分なりに改良したもの。

 オリジナルならば踏み締める地面が無ければ最大級の効果を発揮することはできない、だがこれは擬だ。

 魔力操作によってそれらは補える。


 抜刀

 体が空中を滑るとともに轟音がなる。

 レオトールの体が音速に近くなったのだ、たった一瞬ではあるが。

 一気に空に駆け上がる、体が何メートルも上がる。

 だが、怪鳥には届かない。

 それどころか、一瞬でも音速に等しい速度を出した負荷が掛かり全身の皮膚が引っ張られ裂傷が身体中に現れる。


「『自己回復』『兎月』」


 返しの刃でさらに空中に跳ぶ。

 一時的に出した刀はインベントリにしまう。

 クールタイムが一際長い抜刀術は元よりレオトールの好むものではない。

 一時的に使うことはできてもソレを元に技を組むのはレオトールはしていなかった。


「『伯牙』『部位強化:腕、脚、胴、頭』」


 全身の強化と、前提条件を整える。

 抜刀での勢いが消え、落下し始めた。

 ソレとともに怪鳥が暴れるのをやめ、レオトールに狙いを定め始めた。

 そろそろ対処し始めなければ何もできずに攻撃を喰らうだけだ。


 インベントリを再度開く。

 今度は双剣を取り出す、刻印された魔法陣に魔力を流し込むと風を発生させる。


「『舞踊』」


 魔力を自身の下に向ける。

 溢れる暴風がレオトールの体の下で炸裂し、体が上空に浮き上がる。

 一気に、上空へと。

 同時に体に無数の傷が付く。

 さっきのバフがなければ両足は使い物にならなかっただろう。

 だが、ソレはバフがなければだ。


 体が空高く舞い上がる、制御できない暴風が剣から溢れ出る。

 ようやく、怪鳥にたどり着いた。


KyyyyyyyyyyyeeeeeeeEEEEE!!!!


 耳をつん裂く奇声が発される。

 鼓膜が割れる、対処などできない。

 全身が震える、状態異常:麻痺が発生したのだ。

 脳がガンガンと軋む、強化していても内臓にダメージが発生する。

 死にそうだ、だがそれでもどうにかなる。

 怪鳥の体毛を手で掴む、決して落ちまいと。

 落ちれば死ぬ、だが決して死なない。

 死ぬはずがない、死んでたまるか。


「『発勁』」


 魔力によって引き起こす、内臓に対する攻撃。

 外皮を切り裂くのは諦めよう、だが攻撃の手を緩めるとは言っていない。

 落ちてゆく双剣を一瞥し、槍を取り出す。


「『串刺しカズィクル』」


 腹に刺す、魔力が炸裂し内部で多数の魔力で編まれた槍が発生する。

 内部で継続ダメージが発生し、また暴れ出す。

 発狂と暴風とで再度状態異常が発生した。

 また意識が朦朧とし始める、手足が震える。

 その中で、再度インベントリを開きメイスを取り出す。


「『ブレイクアウト』」


 怪鳥を叩く、酷い衝撃が発生し怪鳥はさらに暴れる。

 音はもう聞こえない。

 空中にいながら泥臭い戦い方しかできない。


 ある意味、レオトールらしい戦い方だ。


 またインベントリを開く。

 メイスは捨て、別の武器を出す。

 ひたすらにソレを繰り返す。


「『龍撃』」「『斬拍』」「『アウトレイジ』」「『インパクトラッシュ』」「『千本桜:擬』」「『千切り』」「『黄金ラッシュ』」「『ニ打不』」「『幻想失墜』」「『剣限』」「『訴打』」「『流星一閃』」


 あらゆるスキルを、あらゆる攻撃を。

 武器を取っ替え、切り替えソレで相手を攻撃し続ける。

 あまりにも泥臭くあまりにも無様な死に戦い方は美しさとは、格好良さとは無縁だ、だがその行動は。

 その姿はこの上なく尊く、この上なく人間らしさを体現していた。


 怪鳥が沈む、数多のダメージを受けて。

 上空から常に他の存在を見下ろしていた怪鳥は痛みに耐性がなかった、故に気絶する。

 それでもHPは未だ半分を残している。

 受けているダメージはレオトールの方が多い。

 だが、意識を保っているのはレオトールだった。


 ボロボロになり、今にも墜落しそうになりながらもレオトールは怪鳥を掴んでいる。

 改めて怪鳥を描写しよう。


 空を覆う体躯、ソレは例えるならば2000年周辺で主に使われていた飛行機そのものだ。

 全長は100メートルなど優に超える。

 HPは酷く高く、攻撃手段は多岐に渡り1人で攻略などできる相手ではない。

 その体の一部に、内臓が露出している部分がある。

 言うまでもない、レオトールが攻撃し続けた部位だ。

 そこだけ内臓が露出し、血液が流れ打撃痕がひどく残っている。


 12の試練、もとい難業。

 これは試練にあって試練にあらず。

 これは難業にあって難業にあらず。

 この戦いは、このダンジョンは人間の臨界を試す試練であるのだ。


 目は充血し碌に見えず、耳は鼓膜が破裂し音が聞こえない。

 感覚は痛みによって麻痺し、体が碌に動かないだろう。


 ようやくここで、前半戦が終了した。

 怪鳥は失墜した。

 空を飛ぶ化け物は、レオトールが叩き落とした。


「サンキュー、レオトール。」


 目を細める。

 レオトールがその武器を拾った黒狼は、準備を整える。


「Are You Ready? ゾンビ一号。」

「意味を教えてください。」


 後半戦が始まる。

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