雄叫びを上げた後、黒狼は取得したスキルを確認し始める。
使える手段は多ければ多いほど良い。
「お? 水魔法取得してやがる。」
どうやら魔法系スキルは安易に手に入れることができそうだ。
少なくともソレに類する行動を行えばスキルを取得できるらしい。
これは嬉しい誤算だ、使うかどうかは兎も角今後有用に活用できるだろう。
ステータスを確認した黒狼は川の中でスライムを探す。
元々の数が多い以上、100匹程度の数を投げたとは言えまだまだ川の中にはスライムがいる。
1分もかからずスライムを探し当てるとソレを抱え上げた。
大きさはおおよそバスケットボールぐらい、感覚としては中ぐらいだろう。
ソレを探し当てた黒狼は早速アクティブスキルを使った。
「『呪血』、よし成功。」
ピコン♪
成功率は不明だが決して高くない成功率である、一発で成功したのは僥倖と言うわけだろう。
そして、スキルの成功とともにスライムが変質し始める。
元々緑がかった水色だったその体躯がどんどん赤黒くなる、ソレとともに黒狼がダメージを喰らい始めた。
自身の体を確認すると骨に気泡が出始めている、スライムを乗っけているところだけ。
「まさか、お前俺の体食ってんのかよ!! クソ食えよ糞を!! 俺を食うんじゃねぇ!!」
策士、策に溺れる。
いや、この場合飼い犬に手を噛まれるの方が適切だろうか?
どちらにせよ、黒狼を愚かと表するのは間違いではないだろう。
自身の体が捕食されていることに気づいた黒狼はある程度諦めつつも、進化の終了を待つ。
色の変色、体積の変化。
そこから導き出される答えは進化以外にない、少なくともそう断定した黒狼はダメージが入っているのを見ながらステータスを確認する。
「呪術のレベルが上がってる……? 程々に使ってたからか、一つスキルを獲得したな。獲得したアクティブスキルは……、いやこれパッシブか?」
スキル説明を確認しながら効果を考察する。
スキル名は『
一つは任意発動で自己ダメージを敵対存在に付与。
もう一つは常時発動の悪性化身化、この二つだけがこのスキルに内包される効果だ。
「不親切にも程があるだろ、クソゲーか?」
一応、神ゲーである。
少なくともNPCとの関係性が深ければもっと詳しい情報が得られるはずなのだ。
問題なのは黒狼が他NPCとの関わりを積極的に持たない、持っていないことだろう。
変質した魔法陣がいよいよ消えスライムの進化が、いや変化と称するべきだろう。
スライムに変化が終了する。
鑑定スキルを発動すればすぐにわかるだろう、スライムの種族が変化しているのが。
『
正直言って仕舞えば見た目以外の変化は一切見られない。
だが確実に進化していることは窺える。
「とりあえず、俺の命令が認識できているか? できているなら俺の手から離れろ。」
命令を行う、難解な命令でないソレは知性が低いスライムでも理解できた様で腕から零れ落ちるとどんどん離れていった。
ソレも永遠に。
「ちょっと待てい!? 止まれ、一旦そこで!!」
ピタッと止まりその場から動かなくなる。
そうやら思考能力が酷く悪く、単調な命令しか聞けずソレの意図を察することは不可能らしい。
ある意味コンピュータ染みた機能だと黒狼は認識する。
それと同時に面倒臭さも。
「ふぅ、めんどくせぇ。」
吐き捨てながらスライムを呼びつける。
今度は黒狼の前までくるとピタッと止まりそのまま動かなくなった。
今更だが言っておく、黒狼は今大変不機嫌だ。
何せクソの中を歩かされ計画が上手くいったと思ったら直後にダメージを喰らい……、と言った状況だ。
上機嫌な訳がない、と言うかこの状況で上機嫌だとそいつは可笑しい。
確かに、黒狼は異常者だ。
異常者なのは間違いない、だがそれはそれとして健常な人間ではあるのだ。
いやな部分は普通の人間と変わらない。
「俺の言うことを聞いてくれよ……?」
若干不安そうに告げると、黒狼はスライムに汚物を食べるように告げる。
命令を理解したスライムは黒狼のいう通り川から近い場所から食べ始める、問題なく食べ始めたのを確認した黒狼は再度川を見た。
一匹目は簡単に成功、ならばこれを量産すればいい。
そこまで難しい話ではない、それどころか単純な話だ。
明確な問題点は今のところ発見されない、大きな問題点はないように見える。
時間はかかるだろうが、堅実さはこれ以上ないだろう。
「と、いうわけで……。『呪血』『呪血』『呪血』『呪血』『呪血』『呪血』『呪血』『呪血』『呪血』『呪血』『呪血』『呪血』『呪血』『呪血』『呪血』『呪血』『呪血』『呪血』」
目についたスライムに片っ端から汚物を食べさせるように命令する。
一時間ぐらい経過しただろうか? 300近いスライムを『呪血』で変化させ大量に放つ。
数の暴力によって行われる清掃活動は時間が経過するごとに効率が高まってゆく。
理由は明確、汚物を捕食したことによって進化する個体が出てきたのだ。
そもそもスライムも最弱種族に挙げられる一体である。
素の能力は酷く弱く、野生のモンスターの中では知性が最も低い。
その代わりといっては何だが種族スキルがほかの種族と一線を画すほどのチート性能を誇っており、スケルトンよりも強いといえる。
「ふう、こんなものか。」
一時的な休憩、というかMPの回復のための休憩をはさむ。
スライムズは川の周辺からその領域を広げ始め、早いところでは50メートル近く進んでいる。
あまりの速さだ、
とまぁ、くだらない雑談はよして……。
黒狼は悩みながらその光景を見る、作業は順調だ。
働きアリのように労働に明け暮れているスライムのおかげで順調に糞は消え、最善と思える状況が出来上がっている。
問題といえるべき部分は、その作業速度が徐々に低下し始めていることだ。
進化し体積が増えることによって移動でのロスが増え始めている。
進化の弊害とでもいうべきものだろう、これは盲点だと言わざるを得ない。
机上の空論、実際にやってみればその欠陥が見えてくる。
脳内のシュミレーションなどあてになることのほうが少ない。
「まいったな…。」
MPの値と現状を見比べながらため息をつく。
予想外にもほどがある、消耗も進捗も最低の結果をたたき出している。
まだ試練は半分も終わっていない、それなのにこの状況。
許容しがたい現実とは非常に認めがたいものだ、数少ないMPを見ながら黒狼はため息をつく。
最善の解決手段はないだろうか? 天才に近しい馬鹿な思考回路をもってして周囲を見渡しながら黒狼は、何かに気付いた。
「はは、ハハ、ハッハッハ!!」
すると何かに気付いたように、じっと虚空を見ると黒狼は唐突に笑い出す。
「馬鹿か!? いや馬鹿だ!! 俺は馬鹿じゃねぇか!! 答えは最初に提示されていた!! MP問題なんかあっさり解決するじゃねぇか!!」
そういうと黒狼は、額に手を当てると笑う。
なんとも愚かしいのだろう、フラグはもうすでに立っていた。
黒狼はぼそりとスキルを発動させ、自滅した。