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旧時代

「で、早速だが良い案ないか?」

「先にDWOで何やってるか聞かせてくれよ〜、ボクは君が何をしてるのか知らないんだし。」


 仮想空間、その中でバトラー衣装を着させられた黒前は適当に置いてあるカクテルを飲む。

 ついでに友人はドレスを着て、黒前から貰ったオレンジジュースを飲んでいたりする。


「ん? ああ、骨でダンジョン攻略してる。」

「……、骨で? 武器が骨ってことかな?」

「いや、俺が骨。」

「……、スケルトンってことかな? 最弱種族って有名なのによくやるねぇ、君は。」

「あー、まぁ頼もしい助っ人がいてな。まぁ、プレイヤーだし詳しいことは話さないけど。」

「良いよ良いよ、別に聞きたくもないしね。で、確かヒュドラを倒したいんだっけ?」

「おん、何か良い案あるか? レトロゲー大好きっ子のお前ならなんか知ってるだろ。」


 黒狼がそう問いかけると彼女はうーんと悩み出す。

 ヒュドラ、黒狼が体験した通り必殺の毒を持ちそれを圧縮、放射することによるブレスを放つ怪物。

 何故、ゲーム内での経験を事細かに話さず早速聞いたのかと言うとこの馬鹿はゲームはやらない癖にネタバレされるとキレるタイプの人間だからだ。


「ヒュドラ、ヒュドラねぇ。黒前きゅんはギリシア神話ってどこまで知ってる?」

「俺? 精々12の神様がいるってことぐらいだぞ?」

「おぉー、さすが小説好きだ。最近の創作は専らシュミレートされた並行世界の話に拘ってるからねぇ。その程度すら知らない人が現実の神話を多少齧った五次創作ぐらいのを元にして訳わかんないモノを作り上げたりするからねー。12神がいるってのを知ってる人もレアになっちまったものさ。」

「下手なキャラ作りはやめてくれ。で、だ。その言い方からしてヒュドラってかなり有名な類の敵か?」

「うむ、そうなのだ!!」


 そう言うと、彼女は空中にディスプレイを投影しデフォルメ化された九つの頭を持つ竜を映し出す。

 その横には共通言語以外で書かれている資料が載っている。


「ヒュドラ、ギリシア神話を代表する魔獣。かの大英雄ヘラクレスヘラの栄光のⅫの試練における2番目の試練で出てくる大敵だね。その能力は……、語るまでもなさそうだ。」

「……12の試練、か。」

「うむむ、そっちにも何かしら心当たりがあるようだね。ボクが答えられることならなんでもするよ? 勿論、スリーサイズすら答えてあげるさ!! ボクのスリーサイズは……。」

「で、その英雄サマはどうやってヒュドラを攻略したんだ?」

「ん? んー、ヒュドラの攻略ねぇ……。最初に言っておくけど参考にならないよ?」

「まさか、多分だがこのヒュドラとかはこの試練を元にして作られたろうし。実現性がいくら低くても参考にならないことは……」

「何度も再生する首を永遠に殺し続けて最終的に不死の頭を石で潰したよ。」

「ないだろ…。、は? え、は? はぁ? ちょっと待てよ、神話だろ!? なんか明確な弱点とか持たせてないのかよ!?」

「ないよ、そもそもヘラクレスが規格外すぎるしね。」

「ハァ!? 訳わかんねぇ!! いやマジでどうやって倒したんだよ!?」

「だーかーらー、切った首を焼いて再生し切らない内に首を永遠と切り続けたんだよ。」

「……参考にならねーわ、思った以上に。」


 ハァ、とため息を吐きながらカクテルを飲む。

 そして、仮想現実空間から出るために操作を始める。

 その様子を見ながら、カクテルを出した彼女は黒前に問いかける。


「さて、最後に聞きたいんだけどさ。黒前きゅんはDWOで何がしたいの?」

「遊びたい。」

「えぇ〜。いやいやいや、もっと何かあるだろう?」

「ねぇよ、お前におすすめされてハマってるからやってるだけだし。」

「ふーん、だったら丁度良いし悪役になってみたらどうだい?」

「は? 何故?」

「なんか良いじゃないか、悪ってやつは。」

「……、まぁ考えとくよ。」


 そう言うと、黒狼は仮想空間から出て行く。

 次に目が覚めると、そこには彼女のキス顔がドアップで……。


「はえーよ、お前。」

「眠れる王子様をキスで起こしてあげようとしただけなんだけどなー? ボクが悪いのかい?」

「100中1000お前が悪い。」

「おお!? 数式が狂ってしまった!? こうして、世界に新しいトリビアが生まれるのか……。」

「フン、どうでもいいけど攻略法は思いついたし対処はできそうだ。」

「……、黒前きゅん。訳の分からない発言は辞めた方がいいよ? 私相手だからいいけど読者がいたらきっと混乱するよ?」

「どうせ俺の話を物語に変換してもクソしょうもないだけだ、誰も読みにこねぇよ。」

「自分で言ってて悲しくならない? 黒前きゅん。」

「滅茶苦茶悲しい、何より目の前の変態からそれを言われるのが一番悲しい。」

「えぇー!? ひどくない!? ボクが変態なのは否定しないけど悪い変態じゃないんだよ!?」

「変態からそう同情されるこの状況が悲しいんだよ!!」


 そう言うと、手渡される服を着出す。

 10秒もかからずきた時と同じ服装になった黒前は、軽く背を伸ばすとポケットの中に入れていたチップ状の何かを指で弾く。


「お? ナニコレ?」

「世話になってるからな、少し前に偶々見かけたレトロゲーのデータが入ったゲームだ。時間にして……、15分ほど余裕があるしやるか?」

「ええ!? いいの!?」

「15分ほどならな、それ以上は絶対無理だが。」

「OK!! このゲームは、ええとあの花札屋が作ってる格ゲーシリーズの5世代前の品じゃないか!! ボクも持ってなかったのによく見つけたね!? 対応機種は、うんコレなら持ってるぞー!! この前の千周年記念もボクはやっててこういうのは得意なのさ!! 絶対ギャフンと言わせてやる!!」

「お? 言ったな? この前、30分ほどしたから俺も基本の操作ぐらいは出来るぞ?」

「よーし、絶対3タテしてやるから覚悟しろー!!」


 そう言うと2人はしばらくの間、格ゲーに没頭した。

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