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不死の毒九頭竜

『想像しろ、一手先を常に取り続ける最強の自分を。』


「想像しろって、無茶を言う。」


 過去に言われた助言を思い浮かべながら、ニヤリと不敵に笑う。

 自分が最強などと思えない、ソレを最強に等しい存在から言われれば尚更だ。

 特に、あの動きを見せられて仕舞えばその思いはひたすらに強くなる。


「ゾンビ一号、くるぞ。」

「『キシノホコリ』ッ!!」


 スキルを発動、一瞬後に襲いかかる毒の猛威をゾンビ一号が一身に受け止める。


「マズイ、デスッ!! ダメージガ、フエテマス!! タエキレマセン!!」

「……、何秒持たせられる?」

「オヨソ30ビョウ!! タダ、タトウカラハナタレレバ……!!」

「十分だ、ただ30秒は持たせろよ?」


 瞬間、黒狼はインベントリから金属板を取り出し魔力を込め始める。

 その金属板に刻まれているのは魔法陣。

 レオトールから渡され、黒狼が改良し作り上げた魔術。

 基礎すら知り得ない愚者が作り上げた愚物。

 形式に囚われない魔術陣、形式すら守れない魔術陣。

 ソレを展開する。


「氷の槍だ、存分に食らえ。」


 空中に展開した魔術を、氷の槍を展開する。

 ソレは太く大きく、そして早く放たれた。

 高速で発射された氷の槍は一瞬にしてヒュドラに届くと、強制的にブレスの掃射をやめさせる。


 それと同時に、氷の槍はヒュドラに届いた瞬間に砕け散った。

 砕け散った破片は即座にポリゴン片へと変化してゆく。

 そうなのだ、この攻撃は耐久性を徹底的に減らす代わりに大きさと速度を可能な限り上げた一撃技。

 速さ×大きさは威力である。

 一瞬の火力は現在黒狼が持つものの中で最高峰だ。

 その攻撃はヒュドラのHPの1%ほど削る。


「ハァ!? ふざけんな、一応最高火力だぞボケ!!」

「ハヤクイキマショウ!!」


 と、ゾンビ一号に急かされつつ扉に急ぐ。

 いや、扉に急ごうとしたと言うのが正解だろう。


(嘘だろ……ッ!?)


 泥沼を走り出そうとした瞬間、先程攻撃した頭部以外がチャージを開始しているのを見た。

 それも三頭が。


「急げ、ゾンビ一号!! 『ダークランス』」


 咄嗟に魔法を発動し、ブレスを強制的に止める。

 それと同時に届く2条のブレス。

 ただ運良く2人と多少離れた所へ着弾する。

 直後、爆風が吹き荒れ黒狼は大きく背後に。

 ゾンビ一号は前方、扉の手前に到達した。


「コクロウッ!!」

「急げ、馬鹿野郎!! 俺は後で行く!!」


 直後、四つめのブレスが放たれる。

 毒水の殴打、ゾンビ一号がギリギリ耐えていた砲撃が迫り来た。

 一瞬の思考の無駄もなく、即座にインベントリを開くと獅子の毛皮を自身の前方に展開する。


 同時に、その場に出していた金属板を使い布を氷の槍で放つ。

 毒だけなら問題ない、耐性を貫通するほどではないのだ。

 だが問題は、ブレスの水分による打撃である。

 それに対処するために、黒狼は獅子の毛皮を出したのだ。

 だが、まだ足りない。

 これだけでは、軽く死んでしまう。


 故に次なる一手を打つ。


「『環境適応迷宮』『環境汚染深淵・迷宮』『環境強化迷宮』『汚染強化深淵』、ついでに『強靭な骨』!!」


 次の瞬間、氷の槍が破壊されそのままの勢いで毛皮越しに衝撃が入る。

 莫大な衝撃、複数のスキルを使い己を強化していなければこの一瞬で死んでいただろう。

 だが黒狼は死に体ではあるものの生きている。

 そう、生きているのだ。


「残り、30メートル!! 一気に突っ切らせて……」


 轟音、直後に視界が塞がる。

 笑えるだろう、あれほど必死になり生き残ろうとした黒狼は氷の槍を食らわせた頭部によってブレスを浴びさせられる。

 一瞬でHPが全損する。


(ふざけるな、クソが!!)


 心の中で怨嗟を吐きながら視界の端で舞い散る獅子の布をインベントリに入れる。

 直後、全身がポリゴンへ変化。

 死亡時に飛ばされる空間に飛ばされた。


*ーーー*


「ハァ、クソゲーかよ。」


 そう言いつつ、VRCを取ると黒前はそう告げる。

 リスポーンまで残り30分、あの攻撃に光属性は含まれていなかったようだ。

 まぁ、毒のブレスに光の要素があれば教えてほしいところではあるが。


「しっかし、あの蛇どう攻略しようかねぇ……。真正面から凸っても吹き飛ばされる未来しか見えねぇし。」


 ボソボソと言いながら、頭を掻きむしる。

 そして機械から差し出されたジュースを一息に飲むとベットから立ち上がる。


「……よし、あのバカを尋ねるか。」


 あのバカ、つまりはこのゲームを紹介した友人を訪ねようと黒前は宣ったのだ。

 やることが決まれば黒前の動きは早い。

 2000年代のレトロもいい所なファッションに身を包むと家の扉を開ける。

 部屋の外に出ればいつも通りの人工的な街並みが広がっている。

 だが、そんな街並みには目もくれず徒歩5秒の隣の家に向かう。


ピーンポーン♪


 昔ながらのチャイムが鳴ると同時に、インターホンからホログラムが展開され友人が購入しているボーカルAIの見た目をしたAIが対応する。


「ドウモコンニチハ、憂音ミクダヨ。」

「家主は起きてる? あいつVRゲームやってないだろ?」

「オキテルヨ? ヨンデコヨウカ?」

「ああ頼む。」


 そう言ってしばらく後、扉がガチャリと開く。

 どうやら出迎えの一つもないようだ。

 黒前はコレに慣れた様子で堂々と侵入する。

 いくつかの補助用コンピュータが黒前の上着などを受け取り、楽な格好となった。


 そして、R -18と大きく記されている扉を無造作に開ける。

 そこには1人の絶世の美女がいた。


「よぉ、おひさ。」

「うーん、目の前で美女が寝ているとなればキスをして起こすのが王道じゃないかな? 何やら行き詰まっているシロウくん?」

「なんで分かった? あー、いや言わなくていい。それより、リアルでの立ち話もなんだからアッチで時間加速をかけながら話そうぜ?」

「えぇ、ボクと君の肉の触れ合いをこうして楽しんだらいけないのかい!? いけずだな〜、君は。」

「おい、脳内お花畑。俺を誘惑したいならまずは股間についているその突起物をどうにかしやがれ。」

「なんてことを言うんだい君は!? ボクからボクを構成するアイディアンティティを奪う気かい!?」


 100人がいれば100人が答えるであろう絶世の美女が双丘を震わせながらそう勢い良く告げる。

 ついでに服装はジャージだ。

 顔が無駄に完璧なだけに残念臭が拭えない。


「で、なんの用事だい? 下のお世話なら一も二もなく歓迎するよ?」

「ヒュドラってどうやって倒せばいい? 具体的な案とかあれば教えやがれ。」

「ふむ、ヒュドラか。とりあえず、仮想空間に行って話そうか。色々な意味で長くなりそうだしね。」

「例の部屋借りるぞー。」

「構わないよ、好きにしたまえ。あの部屋は君のために作った部屋だからね。」


 そう言うと、お先にと言いながらベットに飛び乗り寝転ぶ。

 直後ベットに無数のディスプレイが現れ、また彼女を隠すように半透明な壁が現れる。


「さっすが社長令嬢、金持ちなようで羨ましい。」


 そう言いながら黒前は、一旦部屋を出るとその隣にある『黒前きゅん専用部屋♡』と書かれた部屋を開ける。

 そしてその中にある (謎の)キングサイズベッドに寝転ぶと自前のVRCを起動した。

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