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休息

〈ーー特殊大敵エクストラボス:『座する獅子』ーー〉


〈ーー討伐されましたーー〉


〈ーー称号:『座する獅子』を獲得しましたーー〉


 アナウンスが聞こえると同時に獅子の体はポリゴンに変わってゆき、屍が残るはずの地面には一つの宝箱と幾つかのドロップ品が残っていた。

 レオトールはポリゴンと成り行く獅子を見て、ようやく鎖をインベントリに直す。

 その左右ではゾンビ一号と黒狼が座り込んでいる。

 レオトールが拘束してから約五分間。

 それぞれの武器で常に殴り続けていたこともあり、かなり応えた様子だ。


「お疲れ様だ、だが黒狼わかっているよな?」

「すまん、マジで一旦休憩させて……。普通に死ぬって、肉体的疲労感ないのになんでここまで疲れれるんだよ……。」

「ポーションノミマス?」

「あおい、ゾンビ一号。俺は絶対にあの苔の軟膏を水に浸したモノをポーションとは言わねぇから、間違えんな。」


 黒狼はそう言いつつ、徐に立ち上がる。

 どうやら、現れた宝箱を開けるみたいだ。

 途中で存外に大きいドロップ品をインベントリに入れつつ、黒狼は宝箱に手を掛ける。


「今更だけど、俺が開けるぞ〜。」

「早くしろ」

「ハヤクシテクダサイ」

「やっぱ確認入らなかったか?」


 などとぼやきながら宝箱を開ける。

 中には、短剣が一本入っている。

 ソレを鑑定しようと目を向けると、横からレオトールがヒョイと取り上げる。


「ほう、湧水のナイフか。中々悪くないのでは?」

「湧水のナイフ? なんだソレ。」

「水が出てくるナイフだ、ただ属性を纏った水を出せる。」

「……悪くね? この難易度でこの程度のアイテムなら微妙だろ。」

「属性を纏った水は中々にレアだ、錬金術師どもはこのアイテムを見たら目の色を変えて欲しがるぞ。」

「うぉい!? マジで!? マジじゃん!! 属性を纏った水を使うレシピが増えてやがる!? そういうレシピあるなら早く出せよ、この糞無能レシピが!? いや、無能は言い過ぎたけど!!」

「ウルサイデス。」


 いつの間にか近くまで近づいてたゾンビ一号に叩かれる黒狼。

 文句があるのか睨む黒狼だが、呆れた様に睨むゾンビ一号を見てサッと視線を逸らす。


「あ、レオトール。そのナイフ、俺が貰うわ。」

「ほれ、俺には必要のないモノだからな。」

「サンキュー」


 そう言いながらナイフをインベントリに直す。

 しばらくじっと見つめると素直にインベントリに入れる黒狼。

 そのあと程々に装飾され豪華な宝箱に座る。


「あー、マッジで疲れたぁ……。」

「疲労など心の在り方でいくらでも誤魔化せよう。」

「いや、普通に休もうぜっ!?」

「お前が残り全部一気に攻略するぞ、などと言わなければよかったモノを……。」

「俺が悪かったわ、思いの外。」


 そう言いながら、インベントリに槍剣杖を仕舞う。

 レオトールは地面に胡座をかき、インベントリから何か取り出し一気に飲み始める。


「何ソレ?」

「酒精のない酒の様なモノだ、酔わぬから安心安全だぞ?」

「お前そんなキャラじゃないだろ。」

「ケド、オサケッテヒロウヲゴマカセマスヨネ?」

「コレに関しては幾分違うぞ、状態異常として疲労回復が付く。」

「エ!? ワタシニモノマセテクダサイ!!」

「おい目の色変えるな、生後一週間未満。」

「ゾンビニナルマエハオトナダッタノデイインデスー。」

「ハッハッハ。黒狼、貴様は……まぁ飲めんよな。」

「へいへい、喉からこぼれていきますよーっと。」


 そう言いながら、美味そうに飲むゾンビ一号を見る。

 尤もこの反応は、こういうところで飲めないのは不便だが別に飲みたいとも思わないので普通にギャグ的な返しをしているだけだ。


 面白いかどうかは別だが。


「さて、次はどういう敵なんだろうな?」

「ケルベロスが出てくるとか?」

「ケルベロス? ……ああ、冥府の番犬か。確かに出てきそうではあるな、だがソレならば私は不死の百頭竜ラードーンを推すぞ?」

「ナンデスカ? ソノヤバソウナヤツハ……、ワタシハ『ゲリュオン』ナンカデテキタラオモシロイトオモイマスケド。」

「草。と言うか、そうなってくれば女神の写身とか出てきそうじゃねぇか。」

「妄想の類いでも良いのなら人喰い馬などか? 出てきたらそれはそれで面白そうではないか。」

「なら対抗して神の雌牛とか? ってここまでくれば妄言の類だな。神話の戦いをやり直そうってのかよ。」


 そう言いながら、軟膏を体に塗り込む黒狼。

 もし神経が通っていればそこそこ気持ち悪い感覚だろうが、骨しかないのだ。

 その気持ちの悪い感覚に意識を割く必要はない。


「さて、そろそろ休憩も終わったし次行きますか。」

「私は一向に構わんぞ。」

「ア、コノタテノメンテナンスヲオネガイシマス。フタリトチガッテワタシノモノハゼイジャクナノデ。」

「え? あ、了解ってもう早速壊れ掛けじゃねぇか!? なんでこうなった!? 割と素材を食うんだぞ!?」

「……。まぁ、あまり頑丈な素材は使っていないからな。何度もソレで殴りつければ枠も歪むのは通りと言える。」

「おいソコ!! 感心してんじゃねぇ!! なんか素材ないのか!?」

「……、フツウニヘビノキバデホキョウデキナインデスカ?」

「出来る出来ないで言えばできる。ただ、またすぐに壊れるのが目に見えてるんだよ。たくっ……、しくったな。もう大分重くなっていいなら対処できなくもないが……。」

「マァ、ワタシコンカイノセントウデレベルモアガリマシタシ? タショウオモクナルテイドナラナントカナリマスヨ。」

「……。一つ思ったのだが蛇の牙でフレームを再度作り直し、蛇の皮で通常の盾の様に作り上げた後にあの獅子の皮を仕込んではどうか?」

「……、ソレなら獅子の顔の方がいいな。よし、ソレで行こう。ナニ、心配する必要はねぇさ!! なんかレシピに獅子顔の盾って奴が出てるぐらいだし。多分使えるだろ。」

「ソレならついでに魔術を仕込んでも良いのではないか? ……ったく、物作りとは年甲斐にも無く心を沸き立たせるな。」


 そう言いながら、石の地面に設計図を書き出す。

 幾許も行かない少年の様な目で『ぼくのかんがえたさいきょうのたて(素材は限定されます)』を作ろうと頭を悩ます2人。


(全く、コレだから男は……。)


 ゾンビ一号は内心そう思いながら、自分の装備を整えつつ憧憬に浸る。

 とてもカッコ良い青年と卓を囲む夢を。


 おそらくソレは、ゾンビ一号の脳に残された人間時代の名残なのだろう。

 この世界でのダンジョンのゾンビは特殊だ、何せ過去にダンジョンに取り込まれた人物を幾つかごちゃ混ぜにして排出されるのだから。

 ゾンビ一号も元々はその様な存在だ、複数の人間の要素を持ち正確性が束ねられまるでパッチワークの様に継ぎ接ぎとなった魂を持つ動く屍アンデットだ。

 だが、種族として進化し戦いなどによって得た経験でレベルが上がることによってソレは変化した。

 ただの動く屍ではなく、確固たる人間として変質していってるのだ。


 流暢になってゆく言葉、何度も行われる反復行動によって精錬される動き。

 その成長がゾンビ一号の成長をこれ以上なく物語っている。


「おい、ゾンビ一号!! こんなのはどうだ!?」


 作成者の言葉に防具を確認する手を止める。

 いつからだろう、こんなマメなことをし始めたのは。

 取るに足らない疑問を残して、彼女は黒狼の方へと向かった。

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