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座する獅子

 黒狼は、渡された鎖を手に取りながらどう動けばいいか? と思考を張り巡らせていた。

 自身から離れた場所で行われる戦闘、そこでは卓越した動きで獅子を切らんとするレオトールの姿がある。

 その攻撃は確かに威力、速度共に十分だろう。

 並の敵では対応することも難しいと言える。

 だが、その攻撃で2割程度のダメージしか与えられてない。

 この異常事態に対して黒狼は何故この程度のダメージが入っていないのか? という疑問を徹底的に突き詰める。


「一つ、そもそもHPが膨大である。」


 可能性としてはありうる、だがHPの減るタイミングからしてコレは違うと判断した。

 極剣一閃よりパワースラッシュの方がHP大きく減っているのが証拠だ。

 故に、この可能性は考慮にとどめる程度で良いと判断する。


「一つ、あらゆる攻撃に耐性がある。」


 少なくとも前者よりはあり得る。

 だが、それでは妙だ。

 あらゆる攻撃に耐性がある、コレが事実ならば攻撃でダメージ量が明らかに変わるだろうか?

 ……、変わるかもしれない。

 部位によってダメージが変化するこのゲームにおいて、決してあり得なくはない。

 だが、ソレでも。


 黒狼は、違うと見当をつける。

 勿論、可能性としては十二分に有る。

 自分が、黒狼がレオトールを信じれなければこの可能性が最も高いと断じるだろう。

 だが違う、今回に限っては特に。


 ゾンビ一号に語りかけた様に、そして自分が感じる感覚は。

 レオトールが手加減や躊躇無しで全力で攻撃していると告げている。

 ならば第3の可能性。


「一つ、外皮にあらゆる攻撃に対する耐性が宿っている。」


 断定する。

 根拠は乏しい、理知的では無い。

 まともな思考を介していれば果たしてこの答えを受け入れるか。


 否、どんな時でも黒狼はこの答えに辿り着き受け入れるだろう。

 故にコレで良いのだ。

 故にコレでなければならない。


 ではどう対処するのか、ソレを意識して手元の鎖を見る。

 黒狼は知り得ない知識だが、かの大英雄ヘラクレスヘラの栄光は王エウリュステウスに命じられネメアのライオン討伐に赴いたという。

 そのライオンは、そのライオンの皮はどんな武器も炎も通じないモノであった。

 では、ヘラクレスはどう対処したか? 答えは簡単だ、自らの圧倒的な腕力にモノを言わせライオンの首を三日三晩締め上げ殺したのだ。

 勿論、黒狼は知り得ない。

 だが、出した攻略法はソレと大差ないモノだ。


「レオトールッ!!」

「応ともッ!!」


 互いに短く呼びかける、長くを語る必要はない。

 いや違う。長く語らない為に黒狼に攻略の鍵を手渡したのだ、レオトールは。


 発言から一瞬後、鎖を回し遠心力を発生させる。

 逆にレオトールは、剣を放り投げる。

 投げられた剣の着地点、ソレを左目で確認しつつ隙を見たとばかりに一気に襲い掛かる獅子を右目で見る。


「一体いつから、私は剣しか使えぬと錯覚していた?」


 一息、獅子を足蹴にする。

 二息、蹴り上げた足を地につけると共に拳によるラッシュを叩き込む。


「『部位強化:腕』ッ!!」


 三息、獅子の喉元を掴むと黒狼の方へ投げつける。

 同時に黒狼は回していた鎖から片手を放し、飛んでくる獅子を巻きつける様に配置する。

 行動は一瞬、だが動きはこれ以上無く完璧。

 一気に獅子の喉元に巻き上がった鎖の片方を持ちながら黒狼は一気に引っ張ろうとし、大きく吹き飛ばされる。


「しまったッ!! クソ猫がぁぁああああ!!」

「何ッ!? STRに差がありすぎるか!!」


 首を振りながら無理矢理剥がそうとする獅子、運良くか必然か解けはしないが黒狼は空中で踊り狂う。

 だが、やられっぱなしと言うわけではない。

 頭部を動かし、レオトールの動きを見ながら近くの壁に足が着けば強く蹴り上げより固く締め付けようと動く。

 苦戦も苦戦、大苦戦。

 だが、コレほどまでに対等に戦えた敵は初めてだ。

 その感想を持ちながら黒狼は必死となり鎖を掴み上げる。


「しばらく耐えろ!!」

「言われなくとも!! 永遠に耐えてやんよ!!」


 レオトールは前に進みながら剣を蹴り上げると拳で殴りつけ、弾丸として獅子に発射する。

 同時にインベントリを開き、槍を取り出すと即座に手に取り飛び上がった。

 空中は本来ならば人にとっての絶対危険領域、立体機動ができなければ端から論外の領域だ。

 当然ソレは、レオトールにも当てはまる。

 尤もソレは立体機動ができなければ、の話だが。


 魔力を靴に込め、仕込んでいた魔法陣を起動する。

 別に難しいものではない、ただ空中に極弱の結界を展開するというモノ。

 だが、レオトールにかかればただそれだけの機能であっても空を跳ぶのに十分となっている。

 空中を駆け、一気に接近したレオトールは重力に従い槍を突き刺す。


「『インパクト』」


 獅子の脳天を狙った一撃は狙い通りに頭部に当たり、獅子は悲鳴をあげようと口を開く。


「『串刺しカズィクル』」


 直後、神速を以て引かれた槍が返す攻撃にて口から串刺しにする。

 やはりというべきか、黒狼の考察通り皮に絶対的な耐性が宿っており内部の耐性はそこまで強いモノではないらしい。

 一気に3割以上を削り、発生した魔力の槍で獅子の動きは大きく封じられ継続的にダメージを受けることとなる。

 だがレオトールはソレでは足りないと理解し、故に決めの一手を指す。


 右手で鎖を掴み取ると腕力で黒狼を引き寄せる。

 左手は鎖のもう片方の端を掴み、力一杯引く。


「とりゃァァァアアア!!」


 黒狼も黒狼で何もしていない訳ではない、引き寄せられる勢いを利用し槍剣杖を構え獅子の顔面を狙う。

 その攻撃は奇しくも閉じれぬ口に突き刺さり、より一層酷いダメージを与える。


 直後あまりの激痛で顔を振った獅子に弾かれるが、ソレは獅子自身を苦しめる行為に他ならない。

 大きく動き一瞬首から力が抜けた隙を利用し、レオトールはより強く締め上げる。

 鎖は筋肉に食い込み、見ればわかるほどに血脈を止めその呼吸を不可能なモノにしている。

 だからこそだろう、起死回生の一撃を打とうとして両脚でレオトールに襲い掛かるが……。


「『シールドバッシュ』」


 ソレすらも許されず、ゾンビ一号の手に持つ盾で思いっきり殴られる。

 骨しかない黒狼と違いゾンビ一号は肉も備わっている、つまるところその攻撃力は黒狼よりもはるかに高いということ。

 横から殴られた衝撃で吹き飛びそうになる、だがソレはレオトールが許さない。

 バフを掛けた上で行われる首絞め、究極的な腕力で締められるその攻撃で僅かに首を動かすことも許されない。

 あまりの激痛にうなされながら、まともに思考出来ず。

 その様な状態を見たレオトールは嗤いながら一言。


「早く楽にしてやらねばな。」

「勿論。」

「ヤリマスヨー!!」


 2人ともいい笑顔で一気に、自分が持ち得る攻撃手段を存分に叩きつける。

 それから数分後、残っていたのは一つの宝箱とボスを討伐した三人の姿だけであ

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