三人は蛇の祭壇の横にある一つの大きな扉を見る。
「まぁ、順当にここを開けば次の階層に行ける訳だよな?」
「ドンナシレンナンデショウカ?」
「さぁな、だが覚悟しておけよ。」
レオトールはそう言うと、黒狼を見据える。
黒狼はその重圧に耐えきれずそっと視線を逸らす。
「今の敵でもこれ程の強さなのだ、並大抵のものでは無いだろう。」
「まぁ、そんなことぐらい分かってるよ。」
「ならばいい。ただその発言、撤回するなよ?」
「する訳あるか、さっさと行くぞ。」
そう言うと黒狼が一歩踏み出し、扉に魔力を流す。
一瞬、扉が光ったかと思うと仰々しく何かの封印を解くように開き出す。
明らかに異様な光景、明らかに異常な状態。
だが、それに恐怖を感じている者はここに一人もいない。
「Are You Ready?」
「意味を言え、馬鹿野郎。」
「ハヤクイキマスヨ。」
そう言って二人は光り輝き、先が見えない扉を躊躇なく超える。
黒狼は一瞬の躊躇いの後、その扉を越えた。
*ーーー*
〈ーー資格を確認ーー〉
〈ーー
〈ーー『Ⅻのーー』、Ⅰのーーを開始しますーー〉
最初、その攻撃に対応できたのはレオトールだけだった。
白い光を抜け、祝福するように鳴り響くアナウンスを聴いている二人を庇うように身体を滑り込ませる。
「『パリィ』ッ!? ック、散開!!」
「「ッ!?」」
一瞬の驚愕、だがその驚愕によって身体を止めるなどと言う愚を犯すことなくうまく逃げ出す。
今回は蛇の時とは違い、広い洞窟の様だ。
天井にある光る鉱石によって灯りは確保されている。
だからこそ、黒狼とゾンビ一号は不足なく敵の姿を見ることができた。
敵は筋肉によってはち切れんばかりの四肢を持ち、それでいながらしなやかな胴をもつ。
その貌には巨大な立髪と、勇ましく筋が恐ろしい貌を作り出している。
その姿はまさしく百獣の王である獅子そのものだ。
「『ダークボール』!! 一旦、俺にヘイトを向ける!!」
「了解、した!!」
十分な距離を取り魔法を発動する黒狼。
幾ら強いレオトールと言えど不意打ち気味に行われた攻撃を庇う形で受け止めたのだ。
状況は非常に拙い。
一旦、レオトールの窮地を対処すべく黒狼が魔法を放つ。
初手の攻撃としてはこれ以上ないほどに優秀なスキルこと『ダークボール』を何度も発動する形で放つが……、その攻撃を獅子は気にも留めていない。
「クッ、拙い!!」
「ワタシニオマカセヲッ!! 『キシノナノリ』!! ワタシハ〈ゾンビイチゴウ〉!!」
騎士の誇り、それを鍛えたことによって発現したアクティブスキルである『騎士の名乗り』によってゾンビ一号に無理矢理ヘイトを向けさせる。
それに合わせる様にレオトールは全力で力を込め、獅子を弾く。
レオトールの攻撃に応じて大きく後ろに飛ぶ獅子、その腹部を狙う様にして黒狼はまたダークボールを撃つが……。
「ッチ、魔法攻撃無効か耐性を保有ってところか。」
一瞥すらせず、地面に着いた瞬間ゾンビ一号を狙う。
その様子から黒狼はそう結論づけ、槍剣杖からようやく剣を抜く。
レオトールは凡そ人に相手が務まるとは到底思えない獅子の圧倒的脚力を一身に受け、その重圧から解放されたことにより思わず膝を着きそうになる。
尤も、そんな愚を犯すレオトールではないが……。
ただそれほどまでに圧倒的な攻撃を放たれたのだ、自分より遥かに弱いゾンビ一号が対処できる訳がない。
そこまで思考すると、レオトールは額に流れた大粒の汗を拭う。
今の攻撃の感触からしてあの表皮はあらゆる斬撃を通すことはないだろう、そして打撃はそのしなやかでいながら強大な筋肉により防がれることがよく分かった。
少なくとも余力を残してこの獅子を正面から攻略するのは非常に困難である、そう結論付けたレオトールはインベントリから多様な武装を出しその中でも一層特異な武器を手に取る。
その武器はその大部分が鎖でできており、その両端は鉄の輪が付いている。
その鉄の輪にはクナイの様なモノがついているが……、逆に言えばそれだけしかない武器だ。
「黒狼、任せた!!」
「任された!!」
ソレを黒狼に投げつけるとレオトールは剣を握りながら一気に獅子に接近する。
獅子はもう既にゾンビ一号と交戦しておりその圧倒的なパワーと速さを遺憾なく発揮しゾンビ一号に攻撃を与えている。
だが、ゾンビ一号もやられっぱなしではない。
大蛇と交戦して、敗北を重ねたゾンビ一号と黒狼はまず戦い方を見直した。
いや、正確に言い直そう。
中途半端となっていた役割を完全に分けた。
回避と受けを中途半端に使っていたゾンビ一号は、戦いの中で得た蛇の骨と皮で作り上げた盾によって受けを主にしたのだ。
その経験があったからこそ、ゾンビ一号は獅子の攻撃を受けられた。
受けることができた。
「ハァァァァァアアア!!」
多少はある筋力で獅子の攻撃にタイミング良く反応し、その攻撃を跳ね返す。
時に受け流し弾き、盾を上手く使うことによって受けるダメージを最小限に抑えているゾンビ一号。
だが、それでもダメージを喰らわない訳ではない。
いやそれどころか、上手く対処したとしてもダメージは常に受けている。
そしてソレを回復する余裕はない。
だからこそ、レオトールの加勢のタイミングはゾンビ一号にとってこれ以上ない幸運だった。
「今対処するッ!! 『
剣が煌びやかなエフェクトに包まれ、超速で振るわれる剣の軌道を一瞬描く。
効果時間は0.5秒。
本来ならば一回攻撃できるかどうかと言った一瞬。
だが、レオトールは違う。
そのたった一瞬で計3回の猛攻を行う。
この攻撃には流石の獅子も無視できなかったらしい、ゾンビ一号の攻撃をやめレオトールから大きく離れる。
「大丈夫か、例の軟膏を飲むがいい。」
「アリガトウゴザイマス。」
「礼を言う暇があれば剣を構えろ戯け!! 未だ状況は劣勢だぞ!!」
静かに叱咤する。
ゾンビ一号が気を抜いたのが見なくとも伝わったからだ。
今まで圧倒的な力で敵を叩きのめしたレオトールが来たことによって、ゾンビ一号は気を抜いた。
そんな余裕はない局面なのに。
「強さは桁違いだ、守れる余裕はないぞ。」
「ワカリマシタ。」
改めて盾を構え、剣を握り直すゾンビ一号。
その様子を左目で視認したレオトールは、右目で獅子の初動を確認する。
「『フェイント』」
パッシブスキルを発動、一瞬身体を沈み込ませると
剣術のレベルが2になれば得られるこのスキルの効果は、視覚効果の異常。
簡単に言えば遠近の感覚を誤魔化すのだ。
黒狼もゾンビ一号も使えこそするがその効果時間や攻撃時のダメージが若干とは言え下がっていることから敬遠していたスキルだが使い手がレオトールとなれば話は変わる。
卓越した技能から放たれる鋭い一撃は幾らダメージに下方修正が加えられていようと関係ない。
最小の動きで放たれる攻撃は、大きく獅子の顎を剣で打ち上げる。
「『パワースラッシュ』」
即座に腹に強力な一撃を叩き込む。
流石に獅子も、この一撃は効いた様で無様な悲鳴をあげながら地面を転がる。
だが、頭部のHPバーを見ると2割も減っていない。
つまるところ、この戦いはまだ始まったばかりと言うことだ。