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憩い

 黒狼が鉄板に魔力を流し、巨大な氷矢を上空から叩き落とす。

 杖を掲げながら一時後退していたゾンビ一号に指示を出し、自身も剣を抜くと近接戦闘に加わる。


「『スラッシュ』」

「『ダークバレッド』!!」


 MPの残量は残り少ない、改造した魔法で2割近くも削ったが決め切れるか未だ不明。

 否、ソレは弱音でしかない。

 勝てる勝てないは黒狼じぶんが決める事じゃない。

 結果で出る事だ、そしてやらなくてはならないのは最善を求めて全てを出し切る事のみ。


「『インパクト』、からの『スラッシュ』ッ!!」

「ヨケテクダサイ!! 『プロテクト』、『パリィ』!!」


 それぞれが得たスキル、鍛えたスキルを使い蛇の猛攻を凌ぐ。

 安定した戦い方、分かりきったことを敢えて口に出すことによって滑らかに動くように連携する。

 数多の敗北を重ねて積み上げた戦闘経験が、勝利への道筋を照らす。


「一気に決めるぞ、『パワースラッシュ』!!」

「『パワースラッシュ』!!」


 タイミングを合わせ、同時に叩き込んだその攻撃は大きくダメージを叩き出し蛇のHPを全損させた。


*ーーー*


「よくやったな。」

「しゃぁぁぁぁぁあああああああ!! 勝ったぞー!!」

「ヤッターーーーー!!」

「どちらも凄まじい喜び様だな……、気持ちは分かるが。」


 耳を抑えながらも、二人の健闘を讃えるレオトール。

 煩いことには違いなさそうだ。


「さて、簡素ながら祝勝会でもするか? 黒狼よ。」

「そうしようぜ!! 俺飯食えねぇけど!!」

「ワタシハタベレマスノデソウシマショウ!!」


 そうして仲良く喧嘩する二人を背後に、レオトールはここまで倒してドロップした大量の蛇肉をインベントリから出す。

 次に肉を焼くためのセット。

 滅茶苦茶簡単に言えば、何処ぞのモンスターを狩るゲームに出てくる肉を焼くヤツを出し金属製の串に肉を突き刺す。

 そうしてソレを肉を焼くモノに乗せるとその下に幾つかの魔石を……。


「え、待て待てレオトール!? ソレって魔石だよな!? 魔石なんだよな!? 何で10個単位でボロボロと出してんの!? しかも全部俺がみたこともないぐらい大きいし!?」

「フン、外に出れば小型魔石ぐらい安価で幾つも得られる。」

「エ、コレガアンカナンデスカ? マジデ? ワタシタチガゾンビヲヒッシニタオシテエテイタマセキッテ……。」

「ああ、外では売ることもできないぐらいのゴミだが?」

「ふざけんなテメェ!!」


 冷徹&空気を読まない物言いに仲良くキレる二人。

 襲い掛からないのは獣なりの知恵なのか、もしくは仲間ゆえなのか……。


「言ったところでモンスターである貴様らには大差無かろう。」

「ぐぅ……。くそ、ぐうの音も出ない正論を言われた!!」

「グウノネハデテマスケド。」

「っと、早くやらねば鮮度が落ちるな。」


 二人のコントを無視してレオトールはインベントリから何やら簡素な道具を取り出す。

 形状はコンロに近い、違うところは火力調節する捻りが無くまた火が出る部分しかない事。

 そしてそれ以上に底面に、十センチほどの長さの脚があることだ。


「何だソレ?」

「魔術式加熱器、通称コンロだ。」

「へー、ソレで肉を焼くのか?」

「ああ、コレは光も出ないからな。潜伏する依頼の時に重宝していた。」

「魔石を燃料にして発熱を行ってんのか、仕組み自体は簡単そうだが……。」

「まぁ、普通は多少効率が悪くとも火に変換するだろうな。そういう意味では制作難易度は高いだろう。」

「お? 友人作?」

「いや、コレは市販品だ。だが……、コレを改造して火力調整を行えるモノを作っている奴はいたが。」

「へぇ、スゲェ。俺にはできそうもない、いやできない事はないんだろうが……。」

「ムズカシインデスカ?」

「んにゃ、単体の機能で見れば難しくはない。ただ機能の切り替えがクソむずいって感じ。」

「ヨクワカリマセンネ。」

「まー、やったらわかると思う。」


 そう言いながらコンロを見る黒狼。

 レオトールはとっくにコンロを起動させ、肉を焼いている。

 と言うか、もうすでに肉の焼ける音と非常にいい匂いが漂っている。


「……、その肉焼けてるのか? 音と色の変化はわかるんだが……。」

「トッテモイイニオイガシマスネ!!」

「焼けるまでかなり時間がかかりそうだな。と、黒狼。」

「うーん、俺には匂いが感じないんだけどなぁ……。」


 そう言いながら首を傾げる黒狼。

 その答えは、非常に簡単だ。

 黒狼には匂いを感じる機能がない。

 厳密に言えば、戦闘時や緊張時以外で匂いを感じることができない。

 肉体を持たないスケルトン族はこう言った『肉体に関する娯楽』に制限がかかる。

 勿論、音は聞こえるし見ることもできる。

 できなければ何もできないのと同じだからだ。

 だが、逆を言えば最低限の機能を持たせればそれ以上を持たせる必要はない。

 つまるところ、コレもスケルトン族に課せられた縛りなのだ。


「……、このゲーム。マジで俺みたいなモンスターに人権がないな。」


 そこまで思考が回った黒狼はボソリと呟く。

 今見当たるだけでも『一部攻撃に対して弱体化』『味覚、触覚、嗅覚の不全』『光による大ダメージ』などが挙げられる。

 その反面、何かしらメリットを設けられているのだろうが……。

 黒狼みたいに幸運が重ならなければスケルトンでゲームを進めるメリットが皆無でしかない。


「あー、クソゲー。」

「どうした? 肉食うか? まだ焼けていないが。」

「お前も中々にいい性格してるよな? 二重の意味で。」

「フン、多少の嫌がらせだ。」

「おおお? 喧嘩売ってんのか? 買うぞ? タダで。」

「フン、自分の実力もわかっていない小童が良くほざく。一瞬で叩きのめしてやろう。」

「ア!! テガトマッテマスヨ!!」

「……、先にこっちを終わらすか。食い意地を張ったお嬢さんが許してくれなさそうだ。」

「と言うか、最近ゾンビ一号の自己主張強くない?」

「キノセイデスー。」


 そう遊ぶこと数十分。

 ようやく肉が焼け、二人が齧り付いているのを見るスケルトンという構図ができ上がる。


「ウマイー!!」


 そう叫ぶゾンビ一号をニヤニヤ見ながら黒狼とレオトールはそれぞれの行動をしている。

 と言うか、レオトールは軟膏を飲んでいる。


「軟膏って飲めるんだなー。」

「効果は薄くなっているが……、それよりも骨なのに液体が飲めるのが良くわからん。」

「多分、塗る判定されてんだろ。名前だって液状軟膏だし。」

「……? まぁいい、貴様も茶を飲めてよかったではないか。」

「味はしないけどな。」


 そう言いつつ、レオトールは湯気を立て油が滴る肉に貪りつく。

 美味、そう言うには若干生臭く野生味がありすぎるが些細なことだろう。

 少なくとも、野営で食べる中では非常に上等かつここ一週間で最も人間らしい食事を噛み締めながらレオトールも液体軟膏を口に含む。


「うむ、まずい。」

「……味覚ないことに感謝するのって中々ないと思うんだ、俺。」

「安心しろ、非常に濃い極東の茶の味がするだけだ。」

「……、よくわかんないけど味覚がない方が良さそうなことはわかった。」

「ウゲェ!? マズッ!!?」


 ワンテンポ遅れて茶を飲んだゾンビ一号が悲鳴をあげる。

 ソレを聞き一頻り笑うと、黒狼はいよいよ告げた。


「さて、明日……って、日付感覚はないんだが……。まぁ、目が覚めたら残りを一気に終わらそうと思う。」

「ほう? その心は?」

「イベント開始までゲーム内時間残り2日、細かく言えば40時間程度しかない。目標はダンジョン脱出後にイベントに挑むこと。あとは……、言わなくてもわかるな?」

「フン、自分の欲のために他者を使うか。」

「サイテーデスネ。」

「けど、手伝ってくれるだろ?」


 ニヤリと笑いそう問いかける黒狼を見てヤレヤレと肩をすくめながらレオトールは告げる。

 その横では肉を貪る手を止め、黒狼とレオトールを見比べるゾンビ一号。


「ハァ、ビリョクナガラテツダイマス。」

「報酬はあるんだろうな?」

「勿論、ダンジョン攻略を終えた時に持ってる一番レア度が高いアイテムでどうだ?」

「足りんな、もう一つ追加しろ。」

「えぇ〜、流石に今以上にお前を納得させられるほどの品はないぞ?」

「フッ、簡単な話だ。いずれ、俺は私を追放した者と戦うこととなるだろう。その時まで……、俺と共に旅をしてくれ。」

「断る。」


 レオトールの条件に黒狼は即座に却下を下す。

 真横で驚き両手で黒狼を叩き正気か確かめるゾンビ一号。

 ソレを見て真剣な場なのに思わず笑ってしまうレオトール。


「痛い痛い!! お前も大分ステータス高いんだからいい加減にしろ!!」

「バカバカバカバカ!! バカナンデスカ!? カレノジョウケンヲコトワッテコノダンジョンヲコウリャクデキルトオモッテルンデスカ!? コノバカ!!

ハゲ!!」

「待て待て待てって!! 断る気はねぇよ!! つーか、馬鹿でもハゲでもねぇ!!」

「エ?」

「ったく、退けバカゾンビ。」


 よっこらしょ、と起き上がる黒狼。

 そうして改めて地面に座り直すと黒狼は告げる。


「レオトール、お前が俺の仲間親友になれ。お前を追放した奴と会うまでも、会ってからも。」

「フン、貴様の身勝手に付き合えと?」

「ああ、俺の身勝手に付き合え。お前じゃ見えない、辿り着けない世界喜劇を魅せてやる。」

「……、いいだろう。交渉成立だ、もしくは剣に誓うか?」

「いんや、いい。お前はどうか知らないが、俺にとって剣はただの武器だ。偶像に契約の芯を置くほど俺は高潔でもなければ愚かでもねぇよ。」

「身勝手ここに極まれり、されどその信念は決して曲がらず。」

「どうした? 何かの戯曲か?」

「そんなモノだ、気にするな。」


 そう言いながら偽りの晴天を見つめる。

 そして、骸でできた友人を見て。


「愚か者を揶揄する一節だからな。」

「何だとこのヤロー!!」


 そう揶揄した。

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