「もう無理!! 限界だ、レオトール。」
「……、やれやれ。」
白骨に黒の模様を浮かべて必死に助けを求める黒狼を見ながらレオトールはもう30回目となる作業を行う。
有体に言えば、大蛇を殺すために地面を蹴る。
「『
一気に接近した後、手に持つ槍を蛇の胴体に突き刺す。
一瞬の膠着、そして事態は動き出す。
スキルを発動させた槍から魔力が編まれ魔力の槍が蛇の胴体を貫きながら串刺しにする。
「ふん、『スラッシュ』」
苦悶の叫びを上げる蛇を見ながら、残り1割以下の体力を確認しそのまま剣で蛇を縦に切り裂いた。
*ーーー*
「やれやれ、今回はなかなかに惜しいところまで行ったんじゃないか?」
「……、惜しい止まりだけどな。」
「……、シバラクネマス。」
皮肉混じりに告げるレオトールに黒狼は多少の元気を振り絞り言い返すと大の字に倒れ進化したゾンビ一号は短く言葉を告げると即座に寝始めた。
そう、ゾンビ一号は進化している。
黒狼はまだ進化に達するほどのレベルは得られていないが、特にダメージを受けシステム的にも肉体的にも経験を積んだゾンビ一号は比較的早く進化することができた。
最も進化しても言葉の流暢さが良くなり多少肉体に補正がかかったこと以外は大した変化はないが。
「あー、クソ。疲れたー。」
「逆に疲れていなくては困る。」
黒狼が寝転んでいる横で、レオトールは地面に座るとインベントリ体した水筒の中の水を一気に煽る。
縁起掛かったその様子で一気に水を飲むが、程々のところで水を飲むのをやめる。
「ふぅ、うまい。魔術の水でも精製すれば中々に飲めるな。」
「端っこで何かやってると思ったらソレか。と言うか、水かぁ……、俺も飲みてぇ。」
「体がないのにどうやって飲むのだ?」
笑いながらレオトールが返したところで、二人は示し合わせたように冷静な顔になる。
やはり、二人ともなんかしらの懸念があるらしい。
「俺から聞くけど、一体いつになればコイツ相手に二人で勝てそうか?」
「なんとも言えん、十分な火力がない以上決め手に欠けるとしか言いようがない。今まで倒しきれていないのも高火力の技がないからだろう?」
「やっぱり見ててわかるもん?」
「わかるに決まっておろう、多少武を習った身であれば素人同然の動きから欠点を見つけることは容易い。」
「ウゲェ……。マジかって、お?」
何も行動していないのに通知音がなり驚きと共にステータスを開く。
開いてみるといつも通りのステータスとその横にもう一つ、特別なタブが開かれていた。
「……、ほうほう。リアル時間4日後に初イベント開催ねぇ、イベント内容はプレイヤー交流を基本としたモノ? もっと具体的に書けよ!! あ、書いてたわ。内容は……、宝探し的な感じねぇ。え? こんな感じのアイテムが入ってんのか!? コレ参加しない奴はただのバカだろ、参加申請出しとこ。」
「イベント? 異邦の者の神齎祭か。」
「のようだな、ゲーム時間的には12日後か。ならそれまでにこのダンジョンの攻略を目指すかー!!」
「心掛けは結構だが、無茶無理は禁物だ。ソレに……、この大蛇を殺さなければ攻略なんぞ夢のまた夢だぞ。」
早速やる気を出した黒狼に即座に水を刺すレオトール。
もちろん、黒狼はその程度の言葉に不貞腐れる事はない。
ただ、何か思いついたのかレオトールの言葉を聞き悩み始めた。
「どうした?」
「あ、ああ。いや、なんかなぁ。最初の方はまだ良かったんだが今はフォーメーションも決まってきて必死さが足りなくなってきた気がするんだよなぁ。んで、ソレが原因で結局倒せていないって言うか……。ぶっちゃけ、一回だけでいいから俺一人で挑んでみたい。」
「……、ふむ。確かに一理ある、確かにソレも原因の一つだろう。」
「あ、やっぱり?」
「だが、間違えるなよ? その悩みは倒して初めて言えるものだからな。」
「……、へーいへい。」
今度こそ不貞腐れたように地面にへの字を書き出す黒狼。
まぁ、思いついた画期的なアイデアを真っ向から否定されればそうもなるだろう。
ただ実際、黒狼が思いついたアイデアは内心黒狼もやる気がないモノでもある。
つまりコレはただのパフォーマンスに過ぎないと言う事だ。
「シンドイデスー!! ミズダシテクダサイ、コクロウー!!」
「俺に頼むな、レオトールに頼め。」
「エエー!! イヤデスヨ、レオトールサンニメイワクヲカケルナンテ!!」
「一応俺、テメェの創造主だぞ!!」
「シリマシェーン。」
美女がやってはいけないような顔で黒狼を煽るゾンビ一号。
彼女も結構鬱憤が溜まっているようだ。
「ほう、随分元気そうだな。」
「「いえ、全く!!」」
「フン、ならば大人しく休んでおけ。」
「「ハイ!!」」
元気よく返事をしながら即座に大地に身を投げる二人。
精神こそ元気なものの、肉体は疲弊しきっている。
と言うか、ゾンビ一号。
お前は寝るのじゃ無かったのか?
「ハァ、やれやれ。手間のかかる奴らだ、お前らは。」
こめかみを抑えながら、ニヤケ顔を隠すように頭を左右に振る。
家族と近しい友人との語り合いが、例えどれほど些細な物だろうと嬉しいと……。
まるで言外にそう言っているように。
「だからこそ、鍛え上げげねばな。」
だからこそ、その笑みは一瞬で消え去る。
親しい間柄だからこそ、自分が残せるモノは全て渡しておきたい。
何せ
意識外にありながら、常に意識し続けている因縁に改めて焦点を当てる。
ソレに対して悲観はない、苦しみもない、絶望もない。
だが、疑問が残る。
そしてその疑問が解決した暁には……、恐らく
ソレも永遠に。
だからこそ、それまでに自分が伝えられる全てを伝えておきたい。
最後に出会えた友人に全てを渡して行きたい。
彼がこの世界で何を成すのか、ソレは決して計り知れないが。
ただ、
「ああ、答えは得た。」
『……へぇ、そうか。で、レオトールはソイツらに復讐したいか?』
決して分かり合えぬと思った問いを思い返す。
そして自分が得た答えを見る。
未だ自分しかわからない、他者に解られては堪らない思いを胸に抱く。
疑い、決別しようとしながら捨てられなかった誇りを胸に抱く。
「全く、自分のことながら不器用な生き方しかできんな。」
「ナニ当たり前のこと言っているんだ? レオトール。お前はどこまで行っても不器用な人間だろ。」
「フン、お前に何が分かる?」
「お前が裏切られた元仲間に復讐を覚えないぐらいにお堅いことが分かるぜ?」
「随分口が回るようだな、なればもう一度戦っても問題あるまい。」
「待て待て待て待て!! マジでやめて!! HPも完全回復してないしそれ以上にMP不足なんだって!! マジでやめてくれ!!」
「ならば要らぬ軽口を叩くものではないぞ? お前のソレは悪癖に過ぎん。」
「何か問題か? コレが悪癖で結構。俺はコレがあるから俺足りうるんだよ。」
「全く、その気楽な生き方は真似できんな。」
やれやれ、と。
そのように肩を竦めると。苦笑いを溢した。