(レオトールのヤロォ……。まぁ、いいか。)
あれほどの余裕があれば3分など余裕で稼げられるだろう。
ならば自分はこの魔術を改造するのが先決だ。
「3分有れば改造に幅を持たせられる……!! 魔力消費量は……、いや考える必要はない。」
魔力の消費というのは魔術を最大効率で動かすために要求されるコストだ。
だからこそ、最大効率以下で動かすので有ればそのコストを無視しても対処はできる。
「追加効果で付属する周囲の冷化の効果範囲を上昇させるか? ソレとも効果時間か? クソ、悩む暇がねぇ。いや、狙いは蛇の動きの鈍化……。ならば効果範囲を広げるッ!!」
錯綜する思考を、声に出しまとめることで解決する。
この場において最適解などない、強いて言えば全て行うことこそが最適解だろう。
ならばこそ、その中で目的に沿った一点のみを強化するのがもっとも適切だ。
目的が決まれば行動は早い、タブに現れている文字を読み即座に脳内で変換。
最も最適と思われるように改変する。
元々の数値の凡そ5倍で数値を設定し直す。
どうせ魔力は残存量全てを放つのだ、魔力の心配などする必要はない。
完成した途端、即座に魔力を込め始める。
要求した時間は3分、残りは30秒程度。
短いと感じるか長いと感じるか、そこは個人の感覚によって変わるだろう。
黒狼は短いと感じた、だからこそ結果の確認すら行わず残存魔力を全て注ぎ込む。
「ヘッ、やれば出来るじゃねーか。」
急遽の魔術の改造、完成した氷の矢は明らかに通常のものとは違う。
そして、骨の体躯に霜が降りつつあることも含め己の行動が成功したと認識する。
レオトールから渡された弓を手に取り空中に浮く矢を番る。
魔術魔法互いに想像で動くもの、本来ならこの工程を踏む必要はない。
だが、想像を補強する為に弓を引くのはアリかナシか。
黒狼はその行動こそが今適切だと認識した、故に怠さを感じる体を酷使し弓を引く。
「行くぞ、レオトール!!」
「了解した。」
声を張り上げ、引き絞った弓から魔術の矢を放つ。
距離にして20メートル、さして離れていないとは言えこの距離でも普通の矢なら黒狼は外すだろう。
だが今回ばかりは別だ。
想像で補強した矢の軌道、スキルに見たないとは言え得た経験。
その二つと黒狼が感じている極限状態ゆえに、明確に蛇を殺す
「死ね、大蛇!!」
引き絞った矢を一気に放つ。
同時に体から力が抜けた。
弦が空気を弾き音を鳴らす。
まだ弓を離すわけにはいかない。
この矢が、あの蛇に届くまでは……!!
必死の祈りが届いたのか矢が空気を裂き蛇に飛来した。
パシュッ……!!
静かにそして確と刺さる。
眉間の中央、鱗が比較的薄い部位というべきか。
そこに刺さった矢は一瞬の間を起き一気に冷気を発生させる。
「なるほど、冷気による弱体化を狙ったか。下がれ、ゾンビ一号。」
一瞬にして黒狼の意図を汲んだレオトールは、必死に蛇に向かっていたゾンビ一号を下げ蛇の……。
大蛇の真正面に立つ。
そこには大顎を開け、矢を放った黒狼に怒りを叫ぶ蛇の姿がある。
「さて、終わらすか。」
相変わらず冷静にレオトールはそう告げる。
レオトールにとってこの大蛇を殺すことは確かに苦労することだろう、だがその程度でしかない。
だが、
命を賭けても負けるほどの強敵なのだ、ならば経験を積ませるのには十分な相手でもあるだろう。
だが、ソレも黒狼が倒れるまでの話だ。
黒狼が知恵の限りを振り絞り放った一撃、それは後に続くものではない。
ただ一回限りの攻撃なのは見ずとも分かる。
そこまでして届かないことがわかったので有れば今回の戦いでは十分な成果を得られた、レオトールはそう認識している。
だからこそ、命を脅かすほどの経験は積ませる気がない。
そしてそこまでの経験を積ませる気がないのならば残りは時間の無駄だ。
「ふぅ、『部位強化:腕』『エンチャント』」
軽いため息、一瞬の間。
ソレらは決して隙では無い。
言うならば、心持ちの切り替え。
戦いではなく狩りのための動きをするために必要な間。
「疾ッ!!」
その間は一秒にも満たない、だが思考はソレで切り替わり目つきが一瞬で変化する。
目前まで迫った蛇の頭から放たれた舌。
まともに食らえば幾らレベルが高く幾つものスキルを鍛えた自分であろうと幾つもの毒を食らうだろうと。
そう、今まで蓄えてきた知識が告げる。
尤も、
口から漏れた空気と共に体を翻し、先ほどまで自分の体があった所に向けて放たれたその舌を剣で斬る。
続く二歩目、避けるために行った一歩目とは違い二歩目は攻撃するための踏み込み。
「覇ァ!!」
返す刃で蛇の下顎を叩く。
一気に大きく宙に打ち上げられる頭部、蛇の体ごと浮き上がっておりその衝撃は驚愕すべきモノだ。
そのような一撃を軽く振るったレオトールは脳を揺さぶられ重力に逆らえない大蛇から視線を外さずインベントリを開く。
出てきたのは例の槍。
ソレを視認せず掴み、投擲の構えに移る。
「『インパクト』」
槍術の基本スキル。
そしてその効果故に槍を使い慣れた人物ならば愛用するスキルがこれだ。
このインパクトの攻撃は、ダメージ量が増加する類のものでは無い。
いや、全く増加しない訳では無いがその量は気持ち増えているかどうかである。
では何故、槍使いが愛用しているのか。
何故愛用するのか? 答えは追加効果にある。
インパクト、文字通り衝撃を発生させるスキル。
その衝撃は攻撃力に比例し、攻撃力が高い人物が使えば多大なノックバックを発生させる。
そしてレオトールのステータスは、黒狼と比較にならないほど高い。
起こりうる結果は考えるまでも無い。
投げられた槍は大きな衝撃を出し蛇をさらに打ち上げる。
今度は先程の攻撃と比較にならない程に。
白目を剥きながらより上空のとばんとする頭部は仮初の天井に激突し一瞬の停滞ののちに地面に落ち始める。
「ッチ、もう少し高いと思っていたのだがな。」
巨大質量が地面に落ちようとする。
ソレを真下で見ているのにも関わらず、焦った様子は無いレオトール。
大人しく剣を握ったレオトールは一瞬そう呟くと、剣をより強く握る。
「『
北欧の竜殺しが持つ魔剣。
ソレから起こりうる一撃を再現したかのような究極の斬撃は残像が残るほどの速度で振り抜かれる。
音を置き去りにしたかのような……、いや正に音を置き去りにした一撃はソニックブームを発生させ無類の刃となる。
剣技における究極、その一撃を惜しむ事なく叩きつけたレオトールは上空から降り注ぐ返り血を避けるために後ろに下がる。
〈ーー
〈ーー討伐されましたーー〉
〈ーー
〈ーー称号:『生まれの蛇』を保持したプレイヤーが蛇の祭壇に祈りを捧げれば再戦できますーー〉
「……、オマエつっよ。」
「伊達に鍛えていないのでな。」
「わだジゴンがいデバンないでずよね?」
倒れてた二人そう言いつつレオトールに近づくと、討伐成功を祝った。