「強い……、わかってたけど。」
無骨故に素人目でもわかる
それと同時にアレは、自分にもできないことを悟った。
黒狼は決して無能ではない、考えた上で短絡的な手段を好むだけである。
勿論、手の込んだ手段を立案し実践できるほどの頭脳はある。
だからこそ、目の前の剣技がどれほど有用か。
目の前の剣技が、実戦ではどれほど頼もしいかが分かった。
もし、パーティー戦で。
数多の敵が襲いかかってくる状況下でレオトールという駒をどう扱うか、と夢想する。
前衛に置くか、それとも中衛に起き全体の動きを円滑にさせるか。
いやいや、敢えて後衛に起き指示を出して貰うか。
思わず考え込んでしまう。
それほどまでに黒狼はこのゲームを楽しいと感じた。
戦略シュミレーション? オープンワールドRPG? いやいや、この世界はVRMMOだ。
単純な戦力や内部データだけでは成立し得ない要素を多分に含んでいる。
正に未知が溢れている、それを再認識した黒狼は改めて自身の肌が逆立つような錯覚を覚えた。
身体中が歓喜と興奮で湧き上がる。
無力さがあるからこそ、そこに愉悦を見出した。
「サイコーだよ、レオトール。」
「なんだ? 黒狼。改めて私の強さを実感したか?」
「勿論だ、想像通り……。いや、想像以上ってところだ。やっぱり、お前は強い。」
これほどの短期間でどうやってここまで強くなったのかにも俄然興味が湧く、だがそれを聞く愚行は犯さない。
黒狼は決してレオトールになりたいわけではない、故に彼を参考にはしても目標には留めない。
目指すべきは、常に最強の自分なのだから。
そんなことを思いながらサッとボスのドロップ品を回収する。
「オミごどでず。」
「ナニ、褒められるほどの事ではない。」
「俺らからしたら絶賛するほどの事態なんだよ、バロー。」
「そう、か。何やらむず痒さを覚えるものだ。」
首裏を掻きながら照れたようにそう告げたレオトールは、好青年そのもの。
さしたる変化はない表情には、されど若干の朱色が混じっているのが窺える。
「っと、宝箱が現れたぞ? 誰が開けるのだ?」
「あー、ゾンビ一号はどうする?」
「ワダジはベズにかまいまぜん。」
「じゃあ、功績的にレオトールだな。」
「本当に俺で構わないのか? ああ、勿論働きに対する報酬は必要なのは否定しないが……。この状況下で最もこのような素材を欲するのは貴様らではないか?」
「デージョブデージョブ、いざとなったら泣いて頼み込むから。」
「ゾウでず、ぞうでズ。ブッちゃゲレオトールざんっでちょろいでズシ。」
「貴様らなぁ……。」
呆れと怒りを込めて軽く二人を小突くレオトール。
それぞれ大袈裟に仰反る二人だがHPに響くほどの攻撃でもなく、戯れ合いの域に留まるだろう。
「さっさと開けるぞ。」
怒ったように、けれど決して悪い気もしていない感じで顔を背けると照れを隠すように宝箱を開ける。
開いた宝箱の中には3本のスクロールが入っていた。
「ふん、どれも下級の魔法か。私には使えんしk……。」
「お、全部くれないか?」
「アリがだぐいだだぎまず。」
「ちょ、貴様ら!?」
有言実行とばかりに、早速スクロールを奪う二人。
レオトールも別に渡すつもりではあったが言い切る前に奪われたのには流石に驚く。
「……、ハァ。」
「諦めんなって。」
「誰のせいだと……。」
「アギらめだらジアイじゅうりょうでずよ。」
「絶対にそれは貴様が言う内容ではない。」
やれやれ、と肩をすくめながら奥の扉を開くために赴く。
前回と違いかなりテンポ良く進んでいるのは二人とも実感しているしゾンビ一号も聞かされていた話以上にあっさりと終了したのもなんとなくではあるがわかっている。
「早く進むぞ、時間が余っている内にな。」
「そうか、レオトール。食糧は大丈夫なのか?」
「問題だらけだ、当初の予定通りの消費ではあるが一層に掛かっている時間が長い。」
「ダンじょんなイデノほぎゅうば……、でぎまぜんネ。」
「少なくとも現在判明している階層では出ていない。ゾンビの肉を貪ると言うのは……、最終手段以外の何物でも無かろう。」
「にんげんっでだいベンデずね。」
「その代わりなんだろうけど、俺たちには相応のデバフが存在してるからな。トータルで見れば五分五分ってとこだろ。」
「お喋りはそこまでだ、扉を開くぞ。」
その言葉に、新たな期待と緊張感を持ちながら扉に視線を向ける。
次はどんな難題が現れるのか、それはゲームを行うための
レオトールが扉に手を着くと、放射状に魔力が広がり仰々しい演出と共にゆっくりと開き出す。
ソレはボス部屋に入った時の演出と似たようなものであり、その動きは何度見ても飽きさせない。
扉に幾何学模様が映し出され、開き始めた扉の先には……。
「ほぅ……。これはこれは……。」
「え?」
「……ば?」
三者三様の反応を返す。
見える視線の先には広大な大地があり、野原があり空があり川がある。
一つの自然を体現するかのようなソレを見ながら、そしてそれ以上に酷く絶望を誘うものが見える。
「大蛇……、いや毒腐混蛇か? 流石にこれは不味いな。」
「は? 不味いどころの話じゃねーだろ……。」
目測にして3km。
その先でくっきりと蠢く大きな蛇がいた。
「今からでも上への攻略に切り替えね? レオトール。」
「まさか、倒せる敵を無視して進む気か? 黒狼。」
思わず後ずさる黒狼に対し、乗り気で前に進もうとするレオトール。
この大敵を見てもレオトールは怯えなどはないらしい。
胆力が強いと称すべきか、はたまた身の程知らずと貶すべきか。
どちらにせよ、並の精神力を持ってはいないだろう。
「ソレに、見るところ雑魚敵はおらん。あの大蛇にさえ気を張ればこの階層を攻略できるのだ、やらぬ通りはあるまい。」
「十二分にあるが? あの大きさ、あの体躯にこの骨の体で挑めと? ざけんなよ、勝てるビジョンが見えない。」
「そんなモノ、今更でしかあるまい。」
「ドジらでもいいでずが……、ザキにすすまナゲレばレオどールザンがじぬのでずよね? ならばごだえはビトつじかアリまぜん。」
「……、ッチ。仕方ない、だけどその代わり絶対に攻略を成功させるぞ。」
「戯け、成功して当たり前なのだ。勘違いしているのではないか?」
「大言荘厳ソレは結構、重要なのは結果だ。」
「マジがいないデスね。」
「……どちらも問題無いようだな、先に進むぞ。」
そう言うと、レオトールが足を踏み出し新たな階層に辿り着く。
その次にゾンビ一号が。
最後に黒狼が足を踏み込み、そしてアナウンスが流れた。
〈ーー
〈ーー
〈ーー参加資格者……、確認完了しましたーー〉
〈ーー参加資格を問う試練を行いますーー〉
〈ーー
〈ーー開始しますーー〉
仰々しいアナウンスが流れると共に、大蛇は唸り声を上げた。