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敗北

 一気に肉薄した黒狼は、スキルを使用せず剣を振るう。

 壁際に追い詰められた老人はそれを避けられずモロに食らうが……、ダメージは決して高くない。


「ならば手数でッ!!」


 足を踏み込み、腰から上半身を回すようにし剣と槍を叩きつける。

 連鎖するように何度も叩き込まれたその攻撃は徐々に激しさを増す。

 人間ならば途中の息継ぎや筋肉の疲労によって簡単には成せないだろう、だが黒狼は違う。

 骨の体故、筋肉疲労は起こらず臓器がないからこそ呼吸の必要性はない。

 一撃の重さもないが、そこはシステムから出される攻撃力でカバーする。

 当てれば1でもダメージは入っている、バフをかけた今はそれより遥かに与えている数は多い。

 ならば、何の問題もない。

 激しく体を動かし、反撃の隙を与えず攻撃をし続ける。


「『スラッシュ』!! からの、『インパクト』!!」


 埋まらない隙間はスキルを使い怯ませ埋める。

 戦えている、その実感が黒狼をより励ます。

 目の前の老人に勝てるビジョンが見える。

 確信を持って、そしてレオトールにその実力を見せつけるように我武者羅に剣を振り続けた。

 だからこそだろう、それに気付かなかったのは。

 老人が小さく早く何かを唱えた、その行動に気づき先に対処できたのはゾンビ一号。


「ざげでグダざい!!」

「ッ!? 了!!」


 一方的な暴力をやめ横に転がる、そこに入り込んだのはゾンビ一号。

 横から襲いかかってきた刺客からの攻撃を受け止める。

 これで黒狼が致命的な一撃を受けるのは避けられた、だが流れはもう黒狼の手に無い。


「『ダークシールド』『ダークエンチャント』」

「Guruurururu…….。」


 横から飛び出したのは1匹の獣だった。

 身体中が闇に包まれ、されどその口は歯を剥き出しにし生々しいピンク色を見せる。


「ッチ、俺は犬を対処する!!」

「りょうがイ!!」


 黒狼の声に短く返答するゾンビ一号は、そのまま老人を抑え込むようにボス部屋の中心へ押し込む。

 黒狼は分断された犬を殺すべく剣を槍剣杖にしまった。


「動きが素早そうじゃねぇか。」


 焦りを隠すように黒狼は告げる。

 いくつもかけたバフがそろそろ解けかけ始めている、そしてそれ以上に自身のバフで食らったダメージが。


「『インパクト』」

「GaaaAAAA!!」


 動きは同時、だが先に攻撃が届いたのは黒狼だ。

 槍を上手く動かし、狼の腹を捉える。

 スキルが発動する、その一瞬手前で狼の腕が黒狼を捉えた。


 何らかのスキルにより黒く光る爪が、黒狼の頭蓋を。

 槍術のスキルによって白く光る穂先が、狼の腹部を。


 一瞬、されど何十秒にも思える時を経て互いの先が届く。

 その瞬間はほぼ同時、1コンマの差もなく届く。

 だからこそ、黒狼は内心でほくそ笑む。


 この勝負、貰ったと。


 実際、その予見通りに狼は吹き飛ばされた。

 大きく腹を見せ、黒狼から離れてゆく。

 ダメージは大きい、それは黒狼にも言える事だ。

 たった一瞬の邂逅でここまで減少している。

 それは、黒狼と狼との実力差を如実に表している。

 だが、黒狼の方がダメージは少ない。

 なにせ、敵に当たった瞬間に発動するアクティブスキル『インパクト』を当てたのだから。


「すぐに終わらせてやるよ。」


 槍剣杖から剣を抜き去り、ようやく立ち上がった狼に突撃する。

 狼のHPは決して多く無いのか、表示されている体力は半分を切っている。

 ならば、より火力の高い『スラッシュ』を当てれば勝てる筈だ。

 漠然とした計算の中でそう答えを弾き出した黒狼は、今度は剣で叩き潰そうとする。


 一歩、ニ歩、三歩。


 かけながら、口にしたスキル名。

 それによって発動待機状態となったアクティブスキルを用い、一気にケリをつけるため一気に振り下ろす。


 勝負は一瞬、結果は目に見えていた。

 スキルにより一刀両断とまでいかないものの、中々の深手を負わせた黒狼はポリゴン片となる狼を一瞥する。

 そして、視線を老人に向け直す。


「ばやグ!!」

「ック、今行く!!」


 幾つかの闇魔法を同時に展開し、ゾンビ一号を責め続ける老人。

 そこには、さっきまで押されていた様子はない。

 故に助けようと黒狼も足掻くが、いよいよ強化スキルの負荷がバフ量を上回ってきた。

 元より多少のダメージは入っていたがその量が大きくなってきている。

 まだしばらくは耐えられるだろうが……、倒し切れはしないだろう。


「クソ、頼んだレオトール!!」

「フン、やれやれ。やはり、ここらが限界ではあるか。」


 ニヒルに笑いながら、一瞬にしてゾンビ一号と老人の間に入り込んだレオトール。

 鋼の剣を軽く振るい、老人を弾き飛ばす。


「さて、先達として戦い方を魅せてやろう。」

「ッチ、クッソぉー!! やっぱり勝てないか。」

「どうゼンです。」


 余裕綽々にレオトールはそう告げると、老人が発動した魔法の悉くを弾き飛ばす。

 勿論、弾き飛ばすだけではない。

 ある攻撃は受け流し、ある攻撃は叩き切る。

 その立ち回りは無粋ながらも丁寧であり、無骨ながらも合理である。

 完璧に等しい所作でその攻撃に対応すると、一気に間合いに入った。


「今回は教鞭を振るうのでな、簡単に死んでくれるなよ?」


 冷徹な目を向け、スキルを使えば一刀で終わるところをあえて蹴り上げる

 今回の戦いは力を誇示することではない、戦いを魅せる事だ。

 だからこそ、不必要なダメージは与えたくない。


「ッグ、『ダークシ」

「バカの一つ覚えか? 貴様。」


 魔法はスキル名を唱えなければ発動できないと言わんばかりに、顎を膝蹴りで砕く。

 人間ならばそこで気絶はしていただろう、だが相手はゾンビ。

 揺れる脳は既に腐敗している、だからこそ問題なく動いた。

 勿論、レオトールはその事も予見済み。

 慌てず、剣で腕を切り裂く。


「スゲェ……。」


 思わず黒狼は呟いてしまう。

 黒狼は只々、暴れる延長線上でしか攻撃できていない。

 だがレオトールはどうだ? 美しくは無いものの技を使った堅実な動きで徹底的に老人を追い詰めている。

 今の自分に真似できるのか? 自問自答の末に憎々しい答えが出る。

 考えるまでも無い問いだったが、それでも考えてしまった。

 その時点で、真似できるはずが無い。

 真似できたとしても実戦では扱えない。


 そんな愚考を重ねている間にレオトールはより速く、より強い技を攻撃を行う。

 その悉くがスキルを纏わずとも黒狼にとって致命的な攻撃なのだろう。

 そう推測するしかできない自分に不甲斐なさを感じてしまう。


「っと、お前らでは真似できんな。」

「ウルセー!! とっとと決めてやれ。」

「ならば、これで終わりにするか。」


 今まで一瞬も止まっていなかったレオトールが漸く止まる。

 そこに息が乱れている様子などない。

 疲れなど一切ないように見える。


「さて、御老人。無駄に長く生きながらえさせた非礼の詫びだ、存分に受け取れ。」


 武技スキルなど不要、真の戦士は技で殺す。

 そう言わんとする眼差しで、一瞬の踏み込みを行う。

 動きから推測できる攻撃は真横に一閃、ポリゴン片になりゆくゾンビを背後に淡々と勝利を収め

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