手入れを終え、休憩もした三人は早速移動しボス部屋の前まで赴く。
「ふむ、ここか。やはりと言うべきだが、前の層と大差はないな。」
「逆に変わる場合があるのか?」
「勿論あるとも、というより変化のない方が珍しい。」
「そんなもんか」
レオトールの言った内容に一瞬興味を引かれはしたものの、それ以上の興味は湧かなかったため話を早々に打ち切る。
そして遅れているゾンビ一号に視線を向け早く来いと、目で訴える。
「ぜーばー、ガーばー……。オブだりどもばやいデず。」
「これは申し訳ない、次からは気をつけるとしよう。」
「悪かった、気を付けとく。」
真摯に返答するレオトールと、適当に返す黒狼。
それぞれの人間性がよくわかるやりとりである。
「早速挑もうぜ、今回はレオトールもいるし余裕だろ。」
「らぐジょー、っでヤズでずね。」
「ああ、そのことだが私は基本参加しないでおく。貴様らの力を確認する為の試験のようなモノだ。」
「「えぇ〜。」」
早速二人から不満の声が上がるが、レオトールはどこ吹く風のように飄々と対応する。
その様子をみて、不平不満を上げても仕方ないと察した二人は大人しく武器を構える。
「ああ、作戦とかは立てているのか?」
「俺が最初に不意打ちで魔法を放って、その隙にゾンビ一号に壁になってもらう。あとは、スキルを使って殴り続けるだけだな。」
「ブッぢゃげ、こまがクねりあげデモいみアリマぜんじ。」
「……、所詮三人だからここで兵法の是非を説いても仕方は無いか。それに、連携は実践で何度もしたのだろう? ならば問題あるまい。」
はっきりとした口調と裏腹にありありと不安げな様子が見て取れるが、最悪自分が介入すれば良いと結論付けたのかその不安げな様子もすぐに無くなる。
そして、珍しくレオトールがインベントリからいくつかの装備品を出し身につけた。
それを見ていた黒狼は、珍しく思いながらも自分も装備を整える。
まぁ、実際やっていることは元々携帯していた武装に追加して適当に包んだ軟膏をすぐに出せるようにする程度ではあるが。
「ゴッジばおばりマジだよ。」
「俺も終わったぞ、早速挑もうぜ?」
「好きにしろ、私はいつでも構わんぞ?」
ということで、熱が冷めぬうちにとばかりに黒狼はボス部屋の扉を開ける。
勿論、扉は重厚で有り骨の体をしている黒狼如きが引っ張って開けられるはずがない。
では何故彼が開けに行ったのか? まぁ、システム的に手を触れるだけで扉が開くから気が早い黒狼が行っただけなのだが。
仰々しい演出と共にボス部屋の扉が開く。
中に佇んでいる存在は杖を持ちローブを着込んだ老人に見える。
「『ダークバレッド』」
「いぎまズ!!」
先手必勝、作戦どおりボス部屋が開き二人が中に足を踏み入れると同時に黒狼は魔法を放つ。
横では素早くとは行かないもののゾンビ一号が走りながら一気に接近していた。
ボス部屋の大きさは半径10メートルの
当然、敵が黒狼らと大差ない人で有れば十分過ぎる。
背後で悠々と佇んでいるレオトールを尻目に、黒狼は魔法を再発動する。
「『ダークバレッド』」
とは言え、魔力の消費も考えるとそう何度も連発はできない。
あと一発打てば近接に切り替えようと槍剣杖から剣を抜き去る。
「『ずらっじゅ』」
と、そこでゾンビ一号が相手に接近しパッシブスキルを発動させた。
そこでようやく、
「『ダークシールド』」
老人の杖が一瞬光り、その瞬間にかの老人は薄い黒色の壁に囲まれる。
決して遅くはなかったゾンビ一号の一撃だったが、老人の魔法展開速度には及ばすその壁に阻まれた。
「って、クソ!! 俺の魔法は実質無効化されてるようなもんかよ!!」
(ほう、状況判断能力は上々か。)
憎々しげに吐き捨てながらゾンビ一号の補助に回り込むように動き出した黒狼を見てレオトールは内心そう称す。
最初の魔法は全弾当たっていたわけではないしかなりの速度があった為、黒狼はあの老人があえて避けなかったのか避けられなかったのか判断しかねていたが彼が闇魔法を。
それも黒狼が扱えない高位の魔法を使ったことにより、避けなかったと即座に判断したのだ。
この判断能力は戦闘においてかなり有用であると、レオトールは内心で褒め称える。
初めて邂逅した時に捨て身前提の自爆スキルを使用していたのだ、その時点で判断能力は問題ないとは睨んでいたが実戦闘で見ればそこに光るモノがあると確信する。
「だが、まだ甘いな。」
だからこそ、ここで安易に近接戦闘に持ち込むという思考こそが残念だと思ってしまう。
老人を抑え込んでいるゾンビ一号がいるのであれば、黒狼は魔術を使用すれば良かったのだ。
自分が貸し与えた魔術を試験的にも使ってみれば状況が変わっていたかもしれない。
「……、いやそこまで要求するのは酷なモノか。」
銀色に輝く目で、二人の戦闘を見ながらレオトールはそう呟く。
片や槍と剣で翻弄し、片や剣のみで堅実に攻め立てる。
もう既に壁は消えており、老人が放つ魔法を剣で弾き流している様子がそこにはあった。
「一号!! 合わせろ!!」
「どうぜん、デズ!!」
一瞬の間、動きながら声を掛け合っていた二人は息ピッタリに溜を作ると共にアクティブスキルを発動する。
互いの剣から放たれた技は大きなダメージとなり、老人に大きく衝撃を与えた。
「ッチ、一割も削れてねぇ!! 自動回復が無い分楽ではあるが……、クソッ!! 短期では仕留めれねぇか!!」
「あいでヲなめずギデず!! ゾウがんだんにダオぜルワケないでじょう!!」
壁際まで吹き飛ばされた老人だが、大層吹き飛んだ様子に比べて明らかにダメージは少なそうだ。
黒狼たちもその事を把握しているからこそ互いに憎まれ口を叩いているのだ。
無論、どちらも本音なのは間違いないが。
「介入した方がいいか?」
「まだ大丈夫だ、バカヤロー!!」
ニヤニヤとしながらそう聞くレオトールに対し黒狼は怒り半分冗談半分でそう返す。
全力で対応しているところに茶々を入れられているようなモノだ、そう返したくなるのもわかる話である。
それに黒狼も勝てるという自負があるからこそ、このような返答ができるのだ。
「すぅ、『
いくつかのアクティブスキルを発動し、自分にバフを掛ける。
瞬間的とは言え、そのパワーは先程の1.5〜2倍近くまで跳ね上がった。
だが、その代わり明らかに問題が発生している。
「ック、デバフで汚染が入ってきてる。長くは持たねぇ!! ゾンビ一号、そいつを抑え込め。両手両足を切り裂いてやるッ!!」
「ばがデずが!? もっどアドでずがってグダざい!!」
「ごちゃごちゃウルセェ!!」
ゾンビ一号の文句を一括で吐き捨てる。
問題は……、ある。
黒狼も分かりきっている、ここで切るべきスキルではないと。
だが、レオトールに冗談混じりとは言え心配されたことが屈辱だった。
だからこそ、心配いらないと切り捨てるために無茶をする。
黒狼は見栄を張るためにゾンビ一号を危険に晒す。
「Are you ready? って今更じゃねーか。」
笑いながら黒狼は剣と槍を構えると疾風の如く老人に肉薄した。