「ごゴッボいでずネ。」
「明らかに雰囲気が違うもんな。」
数時間、探索を兼ねてモンスターを倒し続けていた二人はその末に荘厳な部屋とその奥に聳える扉を見つけた。
前回の階層同様、周囲には謎のオブジェクトが立ち並んでいる。
黒狼は、ゾンビ一号に軽く合いの手を入れると早速とばかりに周囲を観察し始めた。
「どうジダンでずが?」
「宝箱を探してる、っと。おっとぉ……?」
ニヤリと粘着く様な声で、そう告げると少し離れた石レンガに向かう。
「おい、手伝ってくれ。」
顔にハテナマークを浮かべながらも黒狼の言うことに従う。
黒狼の側に行き、彼が指差す石レンガを見て異変を感じ取ると彼女は口を開いた。
「ごれ、ジガイまぜん?」
「ザッツ、ライト。コレ、多分宝箱なんだよ。」
「おおー、ボンドでずか!!」
黒狼の言うセリフに驚きと喜びを混ぜ合わせながらそう返すと、黒狼に協力しながら床から宝箱と思わしき箱を取り出す。
やはり、装丁はあまり無くあると確信するか何か異質感を感じなければ気づかないだろう。
だが、あると確信し探せばそこまで労せず見つかるだろう。
その程度の難易度なのは作者の慈悲か、はたまた別の理由があるのか……。
「さて、今回はゾンビ一号が開けてみろよ。」
「ワダジでずが?」
「おん、ナーニ唯の願掛けだよ。そんなに気張んな。」
「ぞうデズが……。」
そういい、ゾンビ一号は宝箱に手を掛け開け放つ。
中に入っていたのは如何にもおどろおどろしい薬品と暗黒の魔石が一つ。
「……、えっと。とりあえず、『鑑定』」
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鑑定結果:ヒュドラ毒 品質:劣悪
・ヒュドラの毒、かの大英雄が得たものの劣化品であるが常人が触れれば1分と経たない内に肉体が溶け滅びるだろう。
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鑑定結果:
・闇の属性魔石であり闇に属する存在が吸収すればを強化し光に属する存在が吸収すれば闇に耐性を得られるだろう。
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「えぇ……? 明らかにコレ爆弾だろ……。」
「まぜぎモラっでいイデずが?」
「えー? あー、けどなぁ。うーん、いやダメだ。」
「わがリマジだ。」
そういうと二つの物品を、黒狼はインベントリに仕舞う。
現在では使い道のないアイテムだ、態々出しておく必要もないと判断したのだろう。
そうすると、黒狼は手でゾンビ一号を呼びつける。
「さて、レオトールを呼んでこの階層もクリアするぞ。」
「でずネ。」
彼らは再び、迷宮の中に戻った。
*ーーー*
「おーい、レオトール!!」
「ああ、戻ってきたか。」
「ついでに土産話もあるぞー!!」
「ほう? どんな話だ?」
「ボス部屋っぽいの見つけたぞ。」
駆け寄りながら、話を続ける黒狼。
その話を聞き、一瞬手を止めたレオトールは少ない荷物をインベントリに入れる。
「ふむ、それならば戦うのも一興だな。」
「っと、準備なしで行けるのか?」
「粗方問題あるまい、それにお前も私の強さを重々承知しているだろう?」
「まーな、そう考えれば確かに問題はなさそうだな。」
「そう言う事だ、最も彼女の方は疲れているみたいだ。ここの片付けも兼ねてしばらく休むべきだろう。」
「ゼエ、ぜエ、ばぁ、バぁ……。」
「あー、そうか。ゾンビ一号って脚はあんまり早くなかったか。」
そう言う問題ではないのだが、深く物事を考えない黒狼はそのまま流す。
その様子を睨み付ける様に見るゾンビ一号は、レオトールに一礼しつつ床に横になった。
「俺は武器の手入れでもしてお……。」
「バカか、お前は私と共にここに置いてある荷の片付けだ。何せ、インベントリを持っているのは私とお前だけなのだからな。」
「ちぇ、はーい。」
引率の先生の様に告げるレオトールはもう既に手際良く部屋に散っている様々なアイテムを小分けしながらインベントリに収納する。
やはり細やかな経験の差がここでモノを言うのだろう。
ぼうっと見ることしかできない黒狼とは大きな差がある。
「何をやっている? そっち側の荷物を入れて行け。」
「あ、了解。」
言われてから慌てて行動する黒狼、無能な社会人そのものだ。
とは言え、インベントリに入れる作業は簡単故にすぐ終わる。
すぐに手持ち無沙汰になった黒狼は床に寝転ぶ。
「ん? お前も寝るのか?」
「いや、何か立ってるのが怠くてな。」
「フン、ならば座り直せ。まだまだやるべきことがある。」
「ハァ? え、もうボス倒すだけだよな。」
「だからだ、武装の点検や装備の補修などもせねばならないぞ。」
「えぇ……、やりたく無いんだけど。」
「文句を言うな、それで死ねば元も子もない。」
「それもそうか。あー、もう一丁働きますかー。」
溜息を吐きながら『よっこらせ』と座りなす。
そうしてゾンビ一号に声を掛け……、るのを躊躇い先に自分の装備を錬金術で修復する。
「あれ、確かに摩耗してるな。あんまりダメージを受けてなかったはずなんだが……。」
「フン、高等な装備でなければその程度だ。動くだけでも擦り切れてゆく、こまめな手入れが最終的な勝敗を分けるぞ。」
「え、けどお前は装備を修復してねーよな?」
「お前のソレとは格が違うのでな、何せ自動修復と清潔化の効果がかかっている。これ程の品は中々お目に掛かれんぞ。」
自慢げに話すその様子を見て黒狼は羨ましく思いつつも、それはそうとして一般的な装備から離れていることもありあまり欲しいとは思わない。
デザインの重要性がよくわかる話だ。
「と言うか、一つ疑問なんだがソレって鎧なのか? 外套なのか? 胸部を覆っている所だけ見て鎧って思ってたけどデザイン的には外套に近いよな?」
「……、一応鎧に分類されるとは思うが俺にもよく分からん。鉄布鎧とでも呼ぶか?」
困惑から冗談めかして言う一連の流れにおっさん臭さを覚える黒狼だったがここで指摘する必要もないと思い話題を続行する。
「いい名前じゃね? と言うか、名前的に布っぽい部分も鉄で出来ているのか?」
「厳密に言えばミスリルと軟鉄の合金で作った糸をサンドワームの表皮に編編み込んだモノだ。それ故に物理、魔法どちらからも比較的高い耐性を持ちながら自動的に修復される性質が成り立っている。」
「サンドワームねぇ、そいつって強いの?」
「ああ、全長は9メートルにも及ぶだろうか? そこから2メートル近い口を携えて人や家畜を食い殺すのだ。私も一度戦ったが愉快な相手とは程遠いな。」
「へー、強かった?」
「……、悩みどころだな。本体だけの強さであればそこまででも無い、だが砂漠という土地で戦えばこれ以上ない強敵になるだろう。」
「へー、一度でいいから戦ってみたいもんだ。」
「ここから出れば幾らでも戦えるだろう。それよりいいのか? 口ばかり動かして。」
「あ、確かに。錬金術ガチるから暫く話しかけんなよ!!」
「ふっ、無論承知している。貴様ではあるまいしな。」
そういうと、レオトールも自分の武装の確認をする。
準備は首尾良く進んでいる様だ。