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進化完了

「おば……、よウござじまズ。」

「キャー、喋ったー!?」

「ほう、興味深い」

「ジャベっだー!?」


 大声を出して遊び半分で驚く黒狼と、興味深く観察するレオトール。

 そしてワンテンポ遅れて自分が喋ったことに驚くゾンビ一号。

 中々に酷い図である。


「さて、とりあえずゾンビ一号。適当に服を繕ってやったからそれを着てくれ。いや割と切実にお願いだから。」


 平然とかけられていたローブを邪魔そうに取ろうとしてるのを見て慌てて言葉を続ける黒狼。

 ソコからはかなり本気の焦りを感じる。


「メんどぐざい……。」

「いや淑女の嗜みだから!! と言うか、脱いだままだったらただの痴女だから!! 後装備的に強化されるし着るべきだって!!」

「えェ、ウごきズラい。」

「……、よし殴ってやる。」

「おい、黒狼。」

「冗談だよ、流石に。」

「それにゾンビ一号、貴様ももう少し恥じらいを持て。」

「エぇ゛? ワタじゾんビなんデずよ?」

「それ以前に、お前は黒狼の所有物だ。所有者の意向に従うのが通りだろう。」

「だじがに?」

「おいおいおいおい!? なんか俺の名誉が湾曲的に辱められてる様な気がするんだけど!?」

「ぎのぜい、モどよりメイヨなんでない。」

「ククッ、中々に言うじゃないか。」


 場を面白がるレオトール、慌てふためく黒狼、無表情に毒を吐くゾンビ一号。

 三者三様の様子であり、えらく平和で安息的な光景だ。

 気負うこと無しに笑い巫山戯合い、互いを適度に馬鹿にしながらそれでいて尚信頼関係に綻びは生じない。

 まさに親友と言った様子だ。


「っと、遊んでて良いのか?」

「あー、そうだった。とりま、一号は服着てくれ。」

「ばイ。」


 今度こそ言われた通りに服を着たゾンビ一号。

 改めて見直すとその姿は中々に整っており美女と言っても過言ではない。


「さて、一号。お前はどういう風に成長したい?」

「ぜいちょウ?」


 首を傾げ、無垢な目で黒狼を見るゾンビ一号。

 それを見返しながら小さく削った剣を出す。


「そう、成長だ。ぶっちゃけ、今のお前じゃ能力的にクソ弱い。ゾンビ相手に有効打がかなり少ない時点で理解はしてるだろ?」

「ばイ」

「で、お前を成長させる。ソコでお前にはふたつの道が開かれているわけだ。」

「むずウのマじがいデば?」

「いや、二つだ。一つはここでお前を実験的に改造するか、もう一つは高火力アタッカーになるか。」

「じっじズびトずでずよネ?」

「どうする? 俺はどちらでも構わない。」

「げんをグだざイ。」

「高火力アタッカーとして期待してるぞ。」


 骨の下顎を震わせそう告げると、ゾンビ一号に長剣を投げ渡す。


「おモ……!?」

「そりゃそうだろ、さっさと着いて来い。スパルタ教育を施してやんよ。」

「エェ……、イやなんデずげド……。」

「大人しく着いて来いよ……。」

「ばい……。」


 と言うわけでやる気のない2人は再度洞窟へ潜ってゆく。

 ゾンビ一号が成長したことにより、その戦闘技能は大きく上昇しておりそれは連携の向上にも繋がっている。

 いや、連携の向上では無いか。

 火力不足での処理速度が低かった部分が改善され、それによって戦闘行為がよりスムーズになり結果として連携が向上していると言うのが正解だろう。

 まぁ、結果だけ見ればどちらの説明でも大きな差異はないが。


「『呪血』……、ッチ。失敗か、まぁいい。」

「ザンねんでず、ふにぐをグっでも?」

「構わないぞ、と言うかお前腐肉食うの? 前まで食ってなかったと思ってたけど。」

「じんガジでじょぐよグがめばえだミダイデず」


 グチャベチャグチョガギ……。


「へー、そう言う感じか。俺も進化して肉体を得たらゲーム内でも食欲が湧くのかな?」

「ザぁ?」

「安心しろ、お前には聞いてない。」

「ジャあ、ザイじょがらぐちニダざないでグダざい。」

「口に出すのは個人の自由だろ、文句を言われる筋合いはない。」


 ああ言ったらこう言う黒狼に呆れ、若干の殺意に芽生えるゾンビ一号。

 と言うか、名前すらまともに付けられていないのだ。


 (背後から襲えば勝てるか?)


 などと思いながら、実際は攻撃するつもりがない様で呆れつつも剣を仕舞う。

 一応は創造主ということで殺意を実行する気がないらしい。


 最も、このまま黒狼が傍若無人ぶりを発揮し続ければどうなるのかは不明だが。


 ああ、間違ってはいけないが黒狼はこの世界を現実に良く似たゲームだと言う認識でしかない。

 古来よりとある島国でブームを起こしたドラゴンを探し求めるゲームや、最後の空想と言ったゲームでも基本的にゲーム内の生物に人権はない。

 それは例え、1000年近く経ったこのゲームでも同じだ。

 黒狼は只々、0と1で形作られたデータの羅列でしかないモノだと思っているのだ。

 その程度でしかないモノに一体どれほどの価値を見出すのか? つまりはそう言うことだ。


 コレを、悪だと言うのなら彼は悪でいいと嗤いながら言うだろう。

 何故なら、彼自身にとってこの行為はただの遊戯の一部なのだから。


「っと、団体サンが来た様だぞ?」

「イギまず」


 そう言うと、ゾンビ一号は多少マシになったとは言えその肉体に見合う鈍重な動きで距離を詰める。

 その背後では、槍剣杖から剣を抜刀し杖についている骸骨をゾンビ共に向けている黒狼。


「ばァ!!」

「『ダークバレッド』」


 相手に肉薄し剣を振るゾンビ一号の背後で闇魔法を発動する黒狼。

 剣を振り抜き、相手を弾き飛ばしたかと思えば直後にゾンビ共は闇の弾丸に貫かれる。

 背後から聞こえる駆け音、それを認識した瞬間ゾンビ一号は身を屈める。


「『スラッシュ』、だァ!!」


 ゾンビ一号を踏み台にし、空中を飛びながらアクティブスキルの発動を宣言する。


GooOO!?


 驚きと驚愕に満ちたゾンビの顔を拝みながら真横に一閃する黒狼。

 ただその攻撃だけで、ゾンビ共は儚く散ってゆく。


「あぶないでズ。」


 悠々とポリゴン片に帰すゾンビ共に背中を向け、油断満々で戻ろうとしている黒狼の背後を見ながらゾンビ一号がそう告げる。


「問題ねェ。」


 背後から起き上がり、黒狼に襲い掛かるゾンビが一体。

 顔を少し背後に向け、起き上がるゾンビを視認。

 そして嘲笑うと、口を開く。


「『インパクト』」


 槍を背後のゾンビを突き刺すと黒狼はしっかりゾンビが死んだ事を確認する。


「ズメがアマいでずね。」

「結果良ければそれでよし、って訳だよ。」

「フン」


 やれやれと肩をすくめたゾンビ一号は抜刀していた剣を腰に刺し直す。

 そしてローブの裾を払いながら、黒狼についていく。

 それを見た黒狼は、ただ黙って洞窟の先を見る。


「そろそろ攻略にも本腰を入れるか。」

「エ、でをヌイデいだんでずガ?」

「あー、いやレベル上げを優先してただけだ。戦力強化は必須だったしな、それに前回のボス相手でも数時間ヒットアンドアウェイしてやっとだぜ? まともに強化しなきゃやってらんねぇ。」

「べー、ぞうでずが。ガンばっデぐださい。」

「お前もやるんだよ!!」


 そう言いながら新しく見えたゾンビを倒すため、2人は剣を抜刀した。

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