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呪血

 連携、ソレは古来より行われてきた兵法の基礎だ。

 紀元前に行われたスパルタ国王のレオニダスがその名を世界に轟かせた燃える炎門テルモピュライの戦いや、九偉人の1人ヘクトールが活躍したギリシャの大戦争ことトロイアの戦いにおいてより練度が高い軍を指揮したものこそ大いなる偉業を成し遂げた。

 練度の高い軍、すなわち連携がより上手く出来ている軍。

 何が言いたいかと言うと、複数人で戦うのならば連携が必須だと言う事だ。


「あ゛ー!!」

「ナイスアシスト!!」


 で、話を2人に戻そう。

 ゾンビ一号と黒狼のレベル上げがてら連携の練習をしていた2人だが、その連携はかなり上手くなっていた。

 基本的に火力の高い黒狼がトドメを刺すことは間違いない。

 だが、最初の様にゾンビ一号がロクにダメージを与えられない状況は大幅に改善されており2、3回に一度は相手を殺すことにも成功している。


「いやー、お前も成長したなぁ。」

「あ゛ー!!」

「レベルも上がったのか、コレでもうちょい強くなれるな。」

「あ゛ー?」

「もっと手軽に強くなれる方法ねぇ……。個人的にはスキル習得が一番早いと思うんだが……。っと、『呪血ブラッド』 お? 運がいい、成功だな。」

「あ゛ー!!」

「待て待て、飲ませてやるから。」


 そう言う会話を繰り広げつつ、今さっき倒したゾンビに呪血の呪術をかけそのゾンビの血を一号に飲ませる。

 やり始めて1時間ぐらいの時にゾンビ一号が、呪術は使わないのか? と言ったニュアンスを黒狼に告げたのがこの飲ませる行為の発端となる。

 ソコで、何気なく使用した呪血の呪術に反応を示した一号がゾンビの血を啜りだしたのが事の発端である。

 なお、啜って何が変わるのかはよく分かっていない。


「おー、美味いかー?」

「あ゛ー」

「美味いのかー、そうなのかー。」


 若干艶かしく血を啜るゾンビ一号を見ながら、剣の手入れとかをする黒狼。

 スケルトンの所とは違い、連続の戦闘は少ないが一戦は長くなっている。

 それに骨だけのスケルトンと違い腐っているとはいえ肉体があるゾンビ。

 錬金術でできる簡易的な手入れをしなければ、最初の槍以上に摩耗は早いだろう。


「あ゛ー」

「飲み終わったか? じゃぁ、もうちょい待ってくれ。こっちの手入れももう少しだしな。」

「あ゛ー、あ゛ー?」

「あー、もう長い事狩ったしな。一旦戻るのもアリか、ゾンビ一号的には戻りたい感じ?」

「あ゛ー!!」


 全力で頷くゾンビ一号。

 何気に5時間狩りを継続しているのだ、黒狼はまだまだ楽しんでいるがゾンビ一号はかなり疲労が溜まっている。

 骨以外の肉体がない黒狼に比べ、比較的人間に近いゾンビ一号の方が肉体的な疲れも溜まりやすいのは通りだろう。

 と言うか、5時間ぶっ続けで戦ってまだやり足りないと言う黒狼の方が中々におかしいとも言える。


「じゃ、帰るか。帰りは急ぎ目で行くから……、ついて来れるか?」

「あ゛ー」


 と言うわけで駆け足でダンジョンを進んでいく。

 戦闘メインとは言え、かなりの間ダンジョンで行動していたのだ。

 最初の拠点としていた場所から直線距離で3、4キロほども離れている。

 さらに曲りくねったダンジョンを歩むのだ、帰るだけでも1時間近くかかってしまった。


「今度はまぁ、随分と長く潜っていたな。」

「俺的にはまだまだイケるんだがな、こいつが帰りたいって。」

「あ゛ー、あ゛ー!!」


 黒狼の物言いに文句を言うと、ゾンビ一号は近くの椅子に横になった。

 その時に青白いタワワな双丘がボロボロの服の中で自己主張をする。


「で、何か得るもののはあったか?」

「特にナシ、ゾンビ系の素材は碌なものが落ちなかったりで割と散々と言ったところか? ボロ布なら大量にあるけどな。」

「……、流石に私でも縫い針と糸は持っていないぞ?」

「あー、錬金術のレシピに骨針ってレシピがあったし布は普通に糸に分解できるっぽいから頑張ればできないことも無さそうだぞ?」

「都合が良すぎないか? それだけ便利ならば私も錬金術を学んでおくべきだったか。」

「一応器用貧乏って感じだからなー、一点特化のスキルがあればそっちを学ぶ方がいいんじゃないか?」

「ふむ、そんなものか。ああ、あと呪術の調子はどうだ?」

「戦闘ではまず使い物にならん、呪血は生成する端から全部ゾンビ一号に飲まれるし。」

「ククク、そうか。ついでに聞くが呪血を使ったレシピなんかはあるのか?」

「ない、と言うか俺の予想だけど呪術ってスキルは他の生産だったり魔法だったりのスキルとは一線を画すスキルじゃねーかな?」

「さぁ、私はさっぱり分からんな。専ら剣を振う事しか出来ない身故。」


 そういうと、重力に逆らう様に立っている髪を軽く撫でインベントリから骨のボスが使っていた大剣の小型版みたいなモノやあの骨が着ていたボロボロのローブの小型版を取り出した。

 それを見て全てを察した黒狼は、思わず驚く。


「え!? は? ちょ、ちょっと待て。もう一回挑めるのか!?」

「ああ、逆に何故挑めないと思った?」

「え? あ、たしかに。」


 自分の思い込みで視野が狭くなっていたと認めつつ、内心コイツ普通に戦勝ってんななどと思う黒狼。


「まがりながりにも待ち受ける敵だから、水を出す魔道具でも出すかと思ったがそんなこともなくな。ただ不要な苦労をしただけだった。」

「あー、そうなのか。ただ退屈で戦ってただけだと思って悪かった。」


 純粋な謝罪を聞いたレオトールはサッと顔を逸らす。

 黒狼は、その様子を見ずにレオトールが出した装備を物色する。


「巨骨の大剣に骨骸の外套がそれぞれ二つね、剣はゾンビ一号にでもくれてやるかな?」

「その大きさだ、ダンジョン内で扱えるのか?」

「削る、錬金術を使えば長剣よりやや長いぐらいまでどうにかできる。」

「やはり万能ではないか、錬金術は。私も覚えてみるべきか……?」

「今覚えても仕方ないだろ、ダンジョン攻略してから覚えたらどうだ?」

「……、確かに独学で学ぶよりかは師を得て学んだ方が良いか。」


 と、そんな風に話しているとゾンビ一号から光が溢れ出した。


「え?」

「進化か、それもゾンビの。どうなるのか楽しみだな。」

「おいおいおい!? なんで俺の時よりも早いんだよ!? おかしいだろ!!」

「知るか、そのことは天にでも聞いておけ。っと、来るぞ。」


 がっくりと、項垂れる黒狼とは対照的にレオトールは興味深くゾンビ一号がいるであろう光の渦をみる。

 見る見るうちに光の奔流は大きくなりその明るさを増させる。


「あ、レオトール。魔石入れようぜ?」

「なるほど? 面白そうだ。」


 と言うわけで悪ふざけ半分で、彼女の側に丁度さっきレオトールが倒したボスの魔石を投げ込む。

 ついでに黒狼も近くに置いていた骨を投げ込んだ。

 そうこうしているうちに光はより一層強くなる。

 そして、一瞬目も眩む明るさまで達したと思えばそこには幾分か血色の良いゾンビ一号がいた。


「ワッ!? 服!? いや、このローブでいいか!?」


 慌てて、二着置いていたローブのうち一着をゾンビ一号に被せ顔を背ける。

 その反応を見て、苦笑いするレオトール。

 そんなことも知らず、ゆっくり寝こけているゾンビ一号。


 中々にカオスな空間が出来上がっていた。

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