バックステップを行い二体のゾンビから逃げる黒狼。
胸に槍を生やしたゾンビと、内臓を露出させたゾンビに囲まれている状況だ。
非常に嬉しく無い。
「さっさとやるか。」
胸を切った程度では死なないのならば足の腱を切ればいい。
単純単純、問題はその腱を切るのが難しい事。
とは言え、そこは気合いで対処する。
部位破壊すらできない様では、レオトールに追いつく事など決してないだろう。
そんなわかり切った事を思考の端で考えながら、一刀流の動きやすさに驚愕する。
槍と剣を使った変則二刀流はカウンターがメインの動きしか出来ない。
別に攻勢に出る事も不可能では無いが、拙い動きでは数発貰ってしまう。
慣れれば脳内で夢想する動きもできるのだろうが、現実においてソレは遥か遠く再現性のカケラも無い。
「『スラッシュ』!!」
剣術のアクティブスキルを発動させ、一気に相手の下半身を切ろうとする。
鈍いゾンビは当然ソレを避けることができず、そのまま抵抗なく切り刻めた。
だが、ソレは一体だけ。
胸から槍を生やした二体目は未だ、黒狼に迫っている。
切り捨てた一体目が動いていない事を端に捉え、アクティブスキルの勢いを殺さぬ様に二体目に向き直る。
「『スラッシュ』!!」
狙いは多少甘くても構わない、アクティブスキルでソレを誤魔化す。
素人にしては上手く立ち回る黒狼に翻弄され二体のゾンビはあっさりと死んだ。
「っと、あぶね。死体が消える前に……。『
そう言いつつ、呪血で倒れた一体に目線を向ける。
そこには指定可能な様子を示したマーカーが立っていた。
「こっちは可能、か。発動条件が全くもって不明だな。」
そんな事を嘯きながら粗方条件を察しつつある黒狼。
死体の欠損が甘いモノか、もしくは呪血によってなんらかの影響を受けた状態であるか。
又は、その両方か。
どれであれ、簡単な条件では無い。
ゾンビである以上、黒狼は殺す手段として真っ二つにしなきゃいけない。
スケルトンであればその体重が掛かる部分を弾き飛ばさねばいけない。
つまり死体を大きく欠損させる様に殺さなければならないのだ。
達成するのは難しい以上に不可能に等しい。
また、呪血についてはそれ以上の難易度を誇る。
何せ、未解明の魔法なのだ。
どの様に何が作用してゾンビが倒れているのか、そんなことすらわかっていない。
名前から想像するにしても、血に関係しそうな事以外は一切不明だ。
もしかしたら超低確率で作用するものかも知れないし、血を猛毒や特殊な薬品の様なものに変質させるものかもしれない。
ひょっとすれば、血に一切関係ないかもしれない。
ないない尽くし、ここに極まれり。
鑑定スキルが作用すればもしかすればもっと便利に扱えたのかもしれないが今判明している仕様的にソレは望めない。
そもそも、日光の下に出ただけで死ぬ様なクソ仕様を積んでくる糞ゲーだ。
まともなバランスを期待する方が間違っているのかも知れない。
「考えても何も始まらねぇ。とりあえず、アンデッド化させるか。」
名前から効果が容易に想像できるスキル筆頭こと呪屍を使用する。
不気味な紋様が空中に展開され、ソレが体内に吸い込まれる様になる。
そしてしばらくすると、ゾンビが動き出した。
ピコン♪
「おい、ゾンビ一号。理解できるのなら返事しろ」
「あ゛ー」
濁った声で返答する様子を見た黒狼は、ゾンビに思考能力があると確信する。
「よし、ゾンビ一号。お前は今から俺の手下だ!!」
10歳のガキがやっていれば可愛らしいが、20近い大人が青白く体の一部が欠けている女性にそういうのはあまりにも異質感が強い。
しかも手下などと言っているのだ、女性に。
黒狼の倫理観を疑わざるを得ない。
「とりあえず武器は……、お前の持ってた棍棒でいいだろ。装備は無いから今着てるボロ布で堪忍な?」
「あ゛ー」
「おいおい、怒んなよゾンビ一号。活躍したらもうちょい良い物を見繕ってやるからさ。」
「あ゛ー」
仕方ないという様に項垂れるゾンビもとい、ゾンビ一号。
なお、本人? 本ゾンビ的にはこの名前も気に入らないようだが否定するほどのことでも無いので特にリアクションはない様だ。
「さて、通知を見るか。」
ステータスを開き何通か来ている通知を確認する。
ぶっちゃけ、見るのが面倒臭いので放置していた物だが通知欄の主張のウザさが上回った。
と言うわけで、幾つか貯まった通知を見ることにする。
「まぁ、拠点に戻ってからだが……。」
「あ゛ー」
そういう訳で、半眼で睨んでくるゾンビ一号を連れて拠点に戻った。
*ーーー*
「戻ったか、黒r……。なんだソレは? 何故モンスターを? テイムしたのか?」
「あー、うん。多分そんな感じ?」
「あ゛ー」
「ほら、本人? も言ってるし。」
「私には、『は?』と言った様に聞こえたんだが……?」
「気のせいじゃね?」
そう言いながら黒狼は殴ってくるゾンビ一号を手で押し留める。
別に痛くも痒くもダメージも無いが、鬱陶しいのは事実だ。
「まぁ、色々あったんだよ。とにかく、使い潰せる仲間が増えたんだから深く考えるなよ、レオトール。」
「一応聞くが、コレは貴様が得た新しいスキルの効果だろう?」
「まぁな。」
「ならばそこまで心配はない、存分に使い潰させてもらうぞ。」
「あ゛ー!?」
裏切られた様な顔をしてレオトールに突っかかるゾンビ一号。
ソレを軽く流し、黒狼を見る。
「で、新しいスキルは使えそうか?」
「分からん。少なくとも呪術は有用……、か? まぁ、ソレ以外はよく分からんかった。」
「そうか、で何故戻ってきた? お前ならばアホみたいに長い間潜っていると思っていたが……。」
「いやぁ、打撃武器使ってくるから相性悪くてな。」
そういうと、ステータスを開き通知欄を確認する。
通知欄には三件、メッセージが来ていた。
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通知:種族進化について
プレイヤー『黒狼』が種族進化を果たした事を祝福します。
種族進化とは環境や状況に合わせ、元来の形から逸脱しより上位の存在になるための進化です。
進化した場合、レベルが下がるデメリットがありますがスキルによるステータス増減分は変化しません。
この世界を生き抜くためにより、上位の存在となる事を目指しましょう。
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通知:女神より
拝啓、黒狼様へ。
進化おめでとうございます
私の権能が大きく封印され渡せるものは非常に少ないですが、少しばかりの祝福を……。
貴方に月の導きがあらん事を。
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通知:職業システムを解放しました
職業システムが解放されました。
詳細は専用チュートリアルで確認してください。
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「え? 職業システム?」
並ぶ三件の通知を見ながら黒狼は思わずそう呟く。
まさか、このゲームに職業システムがあったなどと露にも思わなかったのだから。