進化して早速、探索に出かける黒狼。
彼を待ち構えていたのは想像を絶する苦悩だった。
「なんで、ここまで俺特攻なんだよ!!」
慌てて、迷宮を走り抜ける黒狼。
何故、黒狼は焦っているのか? その答えは迷宮の的にある。
今回の階層に出てくる敵はゾンビ。
あの腐敗した肉体に身を包んだ化け物だ。
それだけならば大した問題はない、ただここからが問題だ。
元々、スケルトンは打撃系の攻撃をしてこない。
厳密にいえば、打撃攻撃によって起こりうるフレンドリーファイアーを避けた結果そう言う系統の攻撃をしない。
だが、ゾンビは違う。
ゾンビは、打撃に対しての弱体化がない。
つまるところ、下手な斬撃攻撃よりも打撃攻撃を多用してくるのだ。
「無理!! 無理無理無理!! 勝てねぇって!!」
ステータスが若干下がったこともあり弱気な黒狼は、スゴスゴと逃げる。
実際戦えば負けるのか? と言う疑問があるかもしれないがそんなことはない。
大幅に強化されている黒狼が負けると言うことは、少なくとも例のボス以上の難易度を誇っていると言うこと。
そこまでの強さを相性込みにしても雑魚キャラが持っているはずがないのだ。
つまり、ただ怯えているだけである。
今更のビビリ発動だ、もう安心して死ねるのだから死にゲーにしたらいいモノを……。
などと言う感想を思い浮かべただろうが、黒狼はそこまで頭が回っていない。
何故なら油断しまくって初手で10ダメージも喰らいビビったからだ。
まぁ、幾らデスペナが低いとはいえ安易に死にたくはない。
そういう意味では、確かにこの行動は間違いではないのだろう。
最も油断しなければこうなることも無かったわけだが。
「ふう、ようやく逃げ切った……。つうか、打撃に対して俺弱すぎんだろ。」
自分の貧弱さを嘆きながら、剣を納刀する。
そしてダンジョンの中でへばり込むと額を拭った。
「まぁ、安心は出来ないか……。光耐性のレベルが上がったとはいえ光魔法は使えないだろうしなぁ、マジでどうしよう? このアンデッド共案外手強いぞ……。」
思案する様に、悩み込み殴られた部位に軟膏を塗る。
暫く塗り込んだ後に体力が1ポイント回復しているのを確認したらようやく安堵のため息を漏らす。
「……、となればいよいよ呪術を試すか。」
自身の攻撃手段の乏しさに非常に悩み込む。
この階層如きでは圧倒的な苦戦は無い、だが油断込みとは言え一撃貰っているのだ。
連戦前提の思考である黒狼にとってソレは非常に拙い。
「呪術ねぇ……、支える呪文は『
中々に面倒臭い仕様に頭を抱えつつ、杖を手に取る。
とりあえず片っ端から試すつもりなのだ、この
「まず解呪、はいいか。最初はポイズンだな、対象は自分でいいか。『
直後、体調が一気に悪化……しない。
まぁ、常識的に考えればわかる話だが黒狼は状態異常無効を保有している。
通常の毒が効くはずがない。
いや種族特性上、腐食毒や概念的なモノを伴った状態異常ならば食う可能性はあるがソレでも可能性は決して高くない。
何せ無効と名がついているのだ、柔な耐性値ではないだろう。
「あ、俺状態異常無効持ってんじゃん。」
遅まきながら気づく黒狼。
やはりコイツはバカなんじゃないだろうか?
「えー? じゃあ、ブラッドも効果でんのか? 『
呪血、効果がよくわかっていないアクティブスキルとしてサッと無視する。
名前からして血に関係することは判明しているが、それ以上はわからない。
鑑定スキルもスキルに含まれるアクティブスキルまでは鑑定できない。
つまるところ、『自分で調べろ』との
もしかしたら鑑定のスキルレベルが上がれば出来るのかもしれないが、現状出来ない以上そこを論じるのはただの無駄である。
「じゃぁ、最後。アンデッドねぇ? とりあえず使うか、『
まぁ、順当にその死体をアンデッドにするのだろう。
正に呪術に相応しい効果だ。
「……、待てよ? となれば、この呪術を扱うのにゾンビを殺さなきゃならんのか? え? マジで? ゾンビを安全圏から殺すためにゾンビを殺さなくちゃならない……。うん、ゴミクソじゃねぇか!!」
満面の笑みで毒を吐き捨て、脱力する。
再度言うが、黒狼の現在ステータスであれば苦戦はしない。
楽勝ではないにしろ、負ける様な敵ではない。
その程度の敵にビビっているだけだ。
「……よし、レオトールに倒してもらうか。」
ビビリは安易な手段があれば即座に飛びつく、特にその選択肢にリスクが少ない場合は。
今回は頼れる最強の味方がいるのだ、頼らない手はない。
「けど、ソレやったら俺ダサくね……? やっぱ無しだな、自力でどうにかしてやらァ!!」
だが間違えてはいけない、コイツはバカだ。
故に、そんな安易な選択肢はすぐには選ばない。
バカはバカらしく、単純明快な思考回路を回す。
つまりは脳死で敵探しだ、当然の話だがバカが頭を使うわけない。
「っと、発見。」
視界に三体のゾンビの群れを確認する。
それぞれの得手物は剣に石の鈍器だ。
明確に近接特化ということが窺い知れる。
「早速、呪術を使いますか。『
ステータスを確認し魔力が減っている事を観測、ソレを認識した黒狼は呪術の発動を確信した。
そして視線を、ゾンビに向けて見ると特に変化は見られない。
「……
現状手元にある情報を元に、敵のスキル構成を予想する。
とは言え、考察するための元となる情報が少ないためなんとも言えないが……。
「じゃあ、次はコレだな。『
などといいなが、呪術を発動。
一瞬の間を起き、棍棒を持つゾンビが倒れ込む。
他二体はその様子こそ見ていたものの、時に気にかけずどこかへ歩き始めた。
「棍棒持ちがいなけりゃ、テメェら雑魚以外の何者でもねぇだろ。よし、殺すか!!」
元気に叫ぶと、一気に躍り出る。
もう既に、槍剣杖から剣は抜刀済み。
一気に肉薄すると、ゾンビ1に槍を思いっきり突き刺し一旦距離を取る。
Bobaaaaaa!!
うめく様に発生された音声を耳に捉えつつ、剣を振り抜く。
スケルトンより素早いとは言え、圧倒的なまでに遅いその攻撃はアッサリとかわせる程度のものでしか無い。
一気に袈裟斬りを行う。
「って、マジかよ!?」
袈裟斬りを行い、二体とも殺したと安心した黒狼はその直後殺したはずのゾンビ二体共に襲いかかってきた事に驚く。
死者に半端な攻撃は効かない。
スケルトンは体の構造が脆く、主要な骨を壊せば自壊し死んだがゾンビは肉がついている分そこまで柔では無い。
「やっぱ、喧嘩売ったの間違いだった?」
誰に告げられた訳でも無いその問いに、ゾンビはうめき声で答えた。