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進化

 極剣一閃、放たれた空気に焦げた臭いが漂う。

 崩れゆく其れを見て焦った様に近寄る黒狼。


「危ない、そいつには第二形態がッ!!」

「承知した。」


 剣をインベントリに直そうとして居たレオトールは、そのまま剣を直す。


「何やってんだよ!!」

「慌てるな、見苦しいぞ。」


 圧倒的余裕を見せつけながらインベントリから槍を出す。

 無骨ながら豪華な槍だ、其れを惜しげもなく投げる構えに移行する。


「さて、『エンチャント』『電光石火』『反復強化デュアル』」


 今度は短く、だが彼の体から漏れ出る光は増している。


 ゆっくりと崩れた骨が集合しより厳つく目に見えて力を増している。

 その様子をゆっくり見ながら余裕そうに微笑むレオトール。

 だがその腕には軽く血管が浮かんでいる、槍を圧倒的な万力で握られているのだ。


「まだか? 随分と変化が遅いでは無いか。」


 余裕を持って、双眼を細める。

 瞬間、GoooaaaaaAAAAAAAAAAAA!!!! と言う捻りのない咆哮と共に変化が終わった。

 腕が二本一対から四本二対へ、頭部からはツノが生え骨は赤黒い線が走っている。

 手に持つ大剣は黒く変化し、圧倒的な切れ味を誇ることが窺える。

 其れを見て漸く、槍を構える。

 だがさっきとは違い今度はただその場に佇むだけ。

 その姿に怒りを覚えたのか、獣は大きく飛び掛かる。


「『串刺しカズィクル』」


 やけに響いたその発音、その瞬間に槍が骸に刺さる。

 スケルトンの肋骨に刺さった、勿論スケルトンの肋骨は伽藍堂だ。

 あっさりと抜けるのが道理であり考えるまでもない。

 黒狼は致命傷を与えられぬどころか手痛い反撃を喰らうぞ、と一瞬にして思い至り悲鳴を上げ掛けその思考を訂正する。


「バカめ、これだから迷宮の魔物は好かん。駆け引きが無い。」


 黒狼が悲鳴をあげかけた直前、槍から黒い魔力が発生し無数の魔力で編まれた槍が肋骨の内部から攻撃する。

 まさに串刺し、恐怖を覚えることしかできない。


 あっさりとポリゴン片となる巨大な骸を見て、こんなものかと呟き槍を引き抜く。

 その姿を見た黒狼は興奮しながら近寄る。


「スゲェ!! 圧倒的じゃねぇか!?」

「ステータスも回復したのだ、この程度に問題などあるはずも無いだろう。」

「正直、この姿見てなかったらお前が強いのって絶対嘘だと思ってたわ。」

「ほう? 中々に酷い事を言ってくれるな。口の使い方は考えろと言ったはずだが?」

「あ、すまん!!」

「冗談だ、そこまで深刻に受け取るな。」


 そう言うと、ボス部屋の横に行き黒狼が気づかなかった扉を開く。

 中には大型の宝箱が一つ、レオトールが軽く開け中を覗き込む。


「ほれ、取るがいい。取っておかねばまた奴がすぐに復活するぞ。」

「へー、ここにこんなのがあったのか。次から気をつけよう。」

「そうするといい、っと。中々いい物があるな……。大剣に煌びやかな頭蓋、呪われた骨に魔石ってところか。」

「あ、俺骨系貰っていいか? 俺が倒した時に落ちた剣をやるから!!」

「それもそうだな、私が持って居ても仕方ない。ほれ、さっさと仕舞うがいい。」


 そう言って何個かの素材を纏めて投げつける。

 慌てて、其れをキャッチしインベントリにしまうと額を拭う。


「じゃ、このまま先に行くか。」

「ああ、ダンジョン部屋の先は基本セーフティーエリアになっている。早く行って拠点を建ててしまおう。」


 そう言って、得たアイテムを鑑定しようとする黒狼を急かす。

 別に鑑定しても構わないが、やるのなら安全な場所でやれと言う意思が見え隠れしている。


「あー、わかった。すぐ降りるか。」


 と言うわけで、部屋の奥に現れている階段を降る。

 階段の下は簡単な作りの部屋となっており水が流れて居たり椅子があったりと至れり尽くせりと言った具合だ。


ピコン♪


 通知音が聞こえたので黒狼がステータスのメッセージを確認すると【セーフティーエリアに到着しました。リスポーン地点を変更しますか?】と言う文字が。


「勿論イエスだ。」

「ん? どうした? ノワール。」

「ああ、リスポ地点が変更されたんだよ。あー、あと……。まぁ、いいか。」

「おい、どうした? 最後何で濁した?」

「いや……、アハハ。」


 そういえば、自分の名前を黒狼ではなくノワールと伝えて居たな。と思い出し訂正するか躊躇する黒狼。

 別に実害は無いがいままで嘘をついて居たのが気まずくなるだろうとか色々考えて……。


「すまん!! 名前、嘘ついて居た!!」

「ハァ!? どう言う事だ!? 貴様の名前はノワールでは無いのか!?」

「俺の名前は黒狼って言う、ぶっちゃけ一言で言うと嘘ついてた。」

「よし、一発殴らせろ黒狼馬鹿野郎。そうで無いと気が済まん。」

「ゆ、許してくれ!! レオトール!! 別に深い意味は無いんだ!!」

「いや、そこに関してはなんとも思わん。ただ告白の仕方が白々しいことが癪に触る。」

「な、ナンダッテー!?」

「そう言うところだぞ、黒狼。」


 などと夫婦漫才男同士をしつつ、テキパキ部屋の中を二人の過ごしやすい様に変更してゆく。

 箱鞄から錬金道具を出して並べたり、本を並べたりして互いに居心地の良い空間に変更する。

 満1時間、たっぷりと時間をかけて過ごしやすい様に変更したセーフティーエリアはもう一種の家の様だ。


「これでこの階層に食える動物がいれば文句はないのだがな……。」

「実際どうなのかねぇ?」

「さぁ? いなければ貴様に探索を任せることは決まっているがな。」

「……まぁ、知ってた。」


 そう言いつつセーフティーエリアの扉を開く。

 そこの先は……、あいも変わらず洞窟だった。


「「知ってた。」」


 同時に半眼で先を見据え、ため息を吐く。

 そして、レオトールは黒狼の肩を叩き満面の笑みで言う。


「ほれ、行ってこい。」

「あんまりだろぉぉぉおおおおおお!!」


 そう叫びながら、一回扉を閉じる、


「ハァハァ、また俺任せかよ……。」

「申し訳ないがな、とは言えレベルとか上がっているだろうし比較的簡単だろう。」

「あー、其れだと良いんだけどなぁ……。」

「どうかしたか?」

「なんか、進化条件揃ったみたいなんですよダンナ?」

「ほう?」


 困った様に言う黒狼に対しレオトールは興味深そうに相槌を打つ。

 そしてじっくりと黒狼の姿を眺め上げ、ニヤリと笑う。


「ならば進化してしまうのも一手だな、要求されている素材は何だ?」

「えっとな、さっきの骸骨の頭蓋と骨、後は雑魚の骨沢山。ただ、ほかに入れたい物が有れば入れても良いってさ。」

「進化先の名前は?」

奇形骨格スケルトンってさ、絶対真っ当な進化先じゃねぇよな。」

奇形骨格スケルトン? 頭部が二つあったり、凡そ人とは思えぬアレか。そんな風に進化するとは、魔物とは非常に興味深いものだ。」

「レアサンプルだからって売るなよ?」

「貴様程度売ったところで大した金になるわけないだろう。精々、側で見ながら楽しませてもらうさ。」


 そう言いながらインベントリからいくつかのアイテムを出す。


「なんだこれ?」

「貴様の進化に役立ちそうなアイテムだ、どうせ不要在庫なのだから全てくれてやろうと思ってな。」

「いや、不要在庫って言って言うかゴミなんだが……?」


 そして見るのは、魔石に非常に似た赤色の石が10個にスライム状のナニカ、ついでに大量の骨。

 其れらを半眼で見つつ、黒狼は進化素材を集めろと言うタブに書かれた指示に従い自分の持つアイテム(ゴミ)を大量に出してゆく。


 整頓した部屋の中に出現したゴミの山はまさに、景観を害する最大要因だと言えるだろう。

 だが、ここにいるのは比較的ガサツな男二人。

 つまり、気にするはずがない。


「早速進化するぞー!!」

「早くやれ。」


 興奮する様に告げるレオトールに急かされ、進化ボタンを黒狼は押したのだった。

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