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極剣一閃

 ダンジョンを歩きながら、敵を切り崩し殺し尽くす。

 心に燻る怒りをぶつけようと歩みを進める。

 向かう先はボス部屋、何時もの慎重さを捨て無鉄砲に無造作に切り捨てる。


「ッチ。」


 舌打ちをする、怒りの原因など分かりきっている。

 レオトールの話は思いっきり侮辱された様に錯覚した、自分とは相容れないと理解させられた。


 侮辱だ、それは黒狼に対する侮辱だ。


 怒りが先行する。

 次に理性が、最後に体が。

 なぜ相容れない、なぜ理解できない。


 答えは黒狼が納得できないからだ。

 納得できないからこそ相容れない、理解できない。

 信頼をおける、安心できる。

 そう感じている人物からそんな話を出されたのだ。

 人生経験の甘い黒狼にとってそれは、侮辱にしか感じなかった。

 だからこそ、怒りが先行する。

 言葉に変えられない怒りが先行した。


「冷静になれ、俺ッ!!」


 骨の手を握り込んで洞窟の壁を殴り付ける。

 目の前にはもうボス部屋があった。

 無理矢理押さえつけなければ激情のままに突っ込み、そのまま無為に死んでいただろう。


「ガキか俺はッ!! いや、ガキだな。」


 激情を律せない事を客観的に見る。

 ようやく、そこまで落ち着いたのだ。


「冷静になれ、落ち着け。」


 歯を食い縛る。

 怒りが収まらない。

 何に失望した? 自分に失望した。

 あまりにも餓鬼臭い己に。

 自分の身勝手な思いを裏切られただけでキレるなんぞ、最近のガキでも滅多にしない。

 そんな事を自分がやった事に一番腹が立った。


「ッチ、粉砕してやる。」


 怒りには体を動かして発散するに限る。

 槍剣杖を手に、剣と柄を握り込む。

 扉を乱暴に開け放つ。


 GoooaaaaaAAAAAAAAAAAA!!!!


 大声を上げて、視界に入るのは骨の巨人。

 大きさは3メートルもあろうか、勝てる自信は一切ない。

 だが、


「うるせェ、サルッ!!」


 声を張り上げ、地面を踏み込む。

 相手が大振りに振り下ろす大剣を前に進むことで避け、相手の足を狙う。

 距離は2メートル、走り切る事は叶わない。


「クソが!!」


 一撃見舞わせる事も叶わず、襲い掛かる横凪の斬撃に対し地面に伏せる。

 まともに受けるなど以ての外、受けたら軽さからあっさりと吹き飛ばされるだろう。

 何度か回転するように攻撃した後、体力切れか剣を立てて崩れる。


「オイオイ、弱いなァ!!」


 さっきまでの劣勢は何処へやら。

 威勢よく一気突貫とばかりにすぐさま間合いに入り込み槍と剣、二つを巧みに使い関節を狙う。


「『インパクト』ッ!! 『アタック』ッ!!」


 槍術と剣術スキルに含まれるパッシブスキルを展開し、DPSを上げるように努める。

 黒狼の攻撃によって、足の骨にヒビを入れられた骸骨巨人は猛き狂い剣を無理矢理振り回す。

 勿論、雑な攻撃に当たる黒狼ではない。

 大きく一歩、二歩と後ろに下がると槍を反転させ魔術を使えるようにする。


「お試し魔術だ、『アイス・アロー』。」


 手加減無し、スクロールに魔力を注ぎ込み必要のない詠唱をして氷の矢を撃ち放つ。

 要求魔力量はたったの10、8回まで打てるな? などと思考の裏で計算しつつ相手の手元を凍らせる。


「ついでに魔法も食いやがれ!! 『ダークボール』。」


 だが、悲しきかな? 見た目よりも大きなダメージとなって居ない事を瞬時に悟ると魔法を切り替える。

 こちらも大差ないだろうが無いよりもマシだろう。

 そんな精神で攻撃してみつつ予想通り効いてないのを確認し、槍として持ち直すと近接に切り替える。


 怒りは薄れつつ、好奇心からなる笑みが溢れる。

 ジリ貧だ、だが悪くない。

 武器の摩耗度合いは計算するまでもない、余裕で倒せる。

 一撃でも貰えば死にそうだ、と感じるがそれすらスリリングで面白いと感じ始めた。

 自分が造形した無骨な剣を骨に叩きつけ、単調な相手の攻撃を見切る。

 特殊な攻撃はない、勿論魔法など使ってこない。

 思考したように体が動き、思った様に剣が振るわれる。

 またとない爽快感と共に、圧倒的弱者が強者を追い詰める主人公的展開に興奮する。


 たっぷり数時間、満足以上に体を動かした黒狼はその勢いを殺さぬままボスを倒し尽くした。


*ーーー*


「よう、レオトール、早速だが次の階層に行こうぜ?」

「……、呆れて物が言えんがひとつ聞こう。階層のボスを貴様一人で倒したのか?」

「まぁ、一応。攻撃パターンさえ見切ってしまえばそこまで強いボスでもなかったしな?」

「アホか!? いや、貴様はアホだ!! 普通に私に頼れば良かっただろう!! ならば、もっと時間を短縮出来たはずだろうに!!」

「いやぁ、ムシャクシャしてやった。後悔はして居ない。」


 あっけからんと告げる様子に口をパクパクとさせ、あまりの馬鹿さ加減に怒り半分呆れ半分と言ったなんとも言えない状態になるレオトール。

 まず間違いなく、そんなくだらない理由でボスを倒したのはコイツぐらいだろう。


「さっさと行こうぜ、荷物は多くねぇだろ?」

「……、まぁ良いか。3分ほど待て、いくら少ないとはいえあと2、3日ここにいると思って居たのだ。拠点的な物を片付けなければならん。」

「それもそうだな、手伝おうか?」

「要らん、この程度なら一人でやった方が早い。」


 そう言うと、テキパキ片付ける。

 元々散らかって居ない空間ではあるものの、彼の手にかかればあっという間に何も残る物が無くなった。


「で、だ。ボス部屋を発見、突撃したんだな?」

「ボス部屋は元々発見してたけどな?」

「フン、どっちでも大差ない。……いや待て、発見して居た? ならばもっと早く私にいえば良かったではないか!! ならばこの気が滅入る様な空間から出られたはずなのに!!」

「え? ボス部屋攻略手伝ってくれたのかよ!?」

「無論当然だたわけ!! 逆になんで手伝わんと思った!! 言われれば幾らでも手助けしたわ!!」

「マジすか? うわぁ……、やらかしたぁ。大人しく言っときゃ良かったぁ……。」


 互いに、がっくしと肩を落としボス部屋まで向かう。


「そういえばボス部屋の奥に階段を見つけたのか?」

「おん、だから呼びに来たんだよ。」

「あー、宝箱は?」

「は? 何其れ?」

「了解した、久々に剣を振るう機会ができたな。」

「え、ちょ、どう言う事だってばよ!?」


 呆れ笑いの様な表情を見て、何かやらかしたと確信した黒狼は唐突に慌て出す。

 もう随分話込み、ボス部屋も目前と言ったところだ。


「何、難しい話ではない。」


 ボス部屋の手前、謎の石像がある部屋を通り過ぎ扉に手を掛ける。


「貴様のやらかしの尻を拭うのだ、感謝しろよ?」


 左手で扉を開き、右手で剣を抜く。


 GoooaaaaaAAAAAAAAAAAA!!!!


 例の叫び声、冷静となった今では吹き飛ばされそうな風圧と威圧感を感じる。


「『エンチャント』『部位強化:腕、脚、胴、頭』『全身強化』『孤高にて』『活路を開く』『伯牙』」


 数多のバフを自身に重ね、迫り来る骨を冷静に見つめる。

 その巨躯に一切動じず、その目はただ一点を見つめるのみ。


「おい、大丈夫かよ!?」


 慌てて、槍剣杖から剣を抜き思い掛けずそう問う黒狼に。


「下がっていろ、邪魔だ。」


 笑いながら一言。

 次の瞬間、雷光もかくやと言う速度で地面を蹴り空を舞う。


「『極剣一閃グラム』」


 即時、剣が煌めきその巨体を横に一閃する。

 一拍、二拍と過ぎ三拍経ったその瞬間に骨の巨人の体が崩壊する。


 其れはあまりにも圧倒的な、暴力だった。

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