完成した槍剣杖を、マジマジと見つめるレオトール。
さっきまで黒狼を無視していたとは思えないほどの熱心さ、武器を見る目が熱い。
「ふむ、杖として持てば槍は鞘として機能し槍として使えば剣も分離すると言うわけか」
「別に、付けっぱなしでも使えないことは無いけどな」
「見ればわかる、だがその使い方はあまり想定していないだろう?」
「……、理由は?」
「フン、やはりか。付けたままではバランスが悪すぎる、そう使いたいのであればもう少し槍と並行に鞘を作ってみろ」
「完敗だ、その通りだよ。抜く速度を優先してるからそれは結局不採用にしたけどな」
「だろうな、重量は8キロぐらいか? 全体的に重く作った様だな」
「鋭さが無いし。それ以上にスケルトン相手に軽く作っても……、だろ?」
「通りだな。……、アドバイスするところもない。強いて言うなら……、悪趣味すぎないか?」
「いいだろ別に、俺の趣味だよ」
「趣味が悪いな、全くだ」
「うっせぇ!!」
とまぁ、微笑ましい会話をしつつレオトールは槍剣杖を黒狼に返却する。
気になる要所は見終わったらしい、もはやソレに興味はないようだ。
「かなり特殊な武器で扱いが難しいな、これは」
「パーツごとで見れば、そこまでだろ」
「馬鹿も休み休みに言え、パーツ単位で見ても特異なモノだ。それが複数合わさる? ハッ!! 私なら絶対に扱いたく無いな」
「言いたいことは分かるから反論できねぇ。確かに、ここまでバランスが悪くて動く時に三つの思考を要求される武器は普通は扱いたくねぇよなぁ」
「分かったのであれば大人しく実践に赴け、早く慣れねば面倒くさかろう」
「えー? 稽古は?」
「まず思いつかんな。私の剣術を教えてもいいが……、基礎以上に教え込めばただ動く邪魔になるだけだろう」
「……、そんなもんか」
そう言って、黒狼は立ち上がる。
剣を、槍を軽く一振り。
そのまま重心を崩しそうになりつつ、杖の頭を地面に向けて杖代わりにした。
「そういや、魔法陣の解読って終わったのか?」
「ん? ああ、もう既に終わっているぞ。なんなら使うか?」
「え!? いいのか? 妹さんへのプレゼントなんだろ」
「コレぐらいまた買えばいいさ、彼に頼めば多少融通はしてくれるだろう」
「彼?」
「ああ、私の……前の雇用主だ。豪胆な人物で愉快な人間だぞ?」
「へー、そうか」
それだけ言うと、レオトールが巻物を渡し黒狼がそれを受け取る。
そして、黒狼は狩に出かけレオトールは洞窟の中で簡単なトラップを作り上げると寝ることにした。
*ーーー*
「さて、武器に慣れなきゃな」
槍から剣を引き抜き、擬似的な二刀流にする。
槍の長さは1メートル50センチ程度であり、狭い通路の中でも取り回しに気を付ければ扱うのに不足はない。
問題は、その槍を片手で操らなければならない事だ。
武道に長けている訳ではない黒狼にとって、70センチほどもの大きさの槍を操ると言うことは決して容易いことでは無い。
二刀流ですら、入門の時点でかなりの難易度を誇るのだ。
片方槍、片方剣。
さらに言えば、槍の柄は魔法を発動するための杖になっていると言う時点で並の武術の常識を超えている。
使い熟せばこれ以上ないアドバンテージとなるだろうが、初心者の状態であればただの雑魚同然だ。
ではどのように扱えばいいのか? その疑問を解決する方法は結論無い。
ゲームということもあり多少の補正こそ働くものの、それは動けて初めて意味するモノ。
動けなければ、補正も意味を成さない。
「っと、早速お出ましか……」
先程とは比べ物にならないほどの、そんな緊張感が迸る。
ステータスもレベルも、あの槍を持っていた時と変化はない。
違うのは武器だけ、しかし。
だがしかし、その武器一つでここまで差が生まれるのだ。
生唾を飲み込む、いや実際にアバターが飲み込んだ訳では無い。
ただ、そんな風に錯覚する。
カシャガシャッ!!
勢いよく飛び掛かってくるスケルトンを、槍で弾く。
横薙ぎの一閃、そこから一気に近づき剣で二撃目を放とうとして動きが止まる。
槍のリーチと剣のリーチの差、それに対応できずに動きが止まったのだ。
慌てて後ろに下がり、距離を取る。
襲い掛かってきたスケルトンは、さっきの薙ぎで大きくダメージを受けたのか動きはするが攻撃には至らない。
(想像しろ!! イメージするのは常に最強な自分だ!!)
頭にいくつものイメージが流れて、消える。
槍で突くか? あの隙間だらけの肋を?
槍で薙ぐか? 勝てはするだろうが経験になるのか?
剣で切りつけるか? 先程と同じ失敗になら無いか?
有り得べからざる今を幻視し、その中で最も最適と思える動きを刹那に探る。
本能ではなく理性で、知性を以て獣性を制せ。
暴れる獣ではなく、武器を使う人故に。
脳裏に走る天啓、それを実行するために手を上手く使い槍を半回転させる。
向けるは頭蓋骨、持つは杖。
簡単な話だ、近づくのが怖いならば。
「『ダークボール』」
距離を保ち撃てばいい。
最善には程遠く、最高とは話にならない。
そもそも、怖がらなければいいだけの話なのだから。
だが、怖いという感情があるのならば怖くならない対処をすれば良い。
その考えを念頭に置けばたしかにこの対応は間違ってはいないだろう。
何も使わずに発動させたダークボールとは段違いの威力を発揮し、前方に飛んでいくソレを見て黒狼は驚くでも喜ぶでもなく前方に躍り出る。
これで仕留め切れるか? 答えは否。
だからと言って連発してしまえばMPが一瞬で尽きるのは目に見えている。
「ハァアア!!」
短く息を吐き、気合を込めて出した剣戟はあっさりとスケルトンの頭蓋を打ち砕く。
ポリゴン片と化すその様子を見て一つ、ため息を吐くとボーっとした様子で一言。
「疲れた、まじで」
剣を鞘に直し、剣と槍を一体化させる。
重量が一気に増した槍を持ちながら、黒狼は洞窟の奥を見定める。
「ハァ……、こりゃ先が長そうだ……」
疲れたように言うと、達観した目で洞窟をさらに歩く。
古今東西、あらゆる物事は結論努力しなければ上達しない。
この世界では、スキルやステータスで数値化されている分その上達率は分かりやすく指標にしやすいが……。
一体どれほどから一人前なのか? どれほど有れば十分なのか? と言った情報が無い。
レオトールに聞けば教えてくれるだろうが、一人の情報を鵜呑みにしては偏見が生まれるしそれ以上に癪だ。
ついでにだが、この世界で一人前と認められるスキルレベルやレベルはない。
具体的な理由に関しては長ったらしく面白みのない内容なので現時点で言うのは憚られるが、簡潔に告げれば指標がないからだ。
スキルレベルが低くともソレに見合わない高等な人間も居るし、スキルレベルが高くとも碌に何もできない人間もいる。
またスキルの相互作用もあるのだ。
そんなややこしい状態なのに指標を作る方が間違っているだろう。
最も、そんな事情を知らない黒狼は二重の意味で経験を積むために洞窟の深部を歩くのだった。