箱の中には、三つのインゴットが入っていた。
思わずつぶやく言葉、息を呑み込み言葉を吐く。
「なんだコレ?」
間髪入れず……、とまではいかないものの即座に鑑定をかける。
ゴミはゴミでも、何か使うことはできるだろう。
そんな、甘い推測と共に発動したスキル。
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鑑定結果:錬金金属
・錬金術で形状を変化させる事が可能な金属。
・(ーー鑑定がレジストされましたーー)
・(ーー鑑定がレジストされましたーー)
特殊効果
・(ーー鑑定がレジストされましたーー)
・(ーー鑑定がレジストされましたーー)
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しか、結果は惨敗。
碌に情報を見れない、つまりは鑑定スキルはゴミだったということだ。
「ほとんど情報が見えねぇじゃねぇかコンチクショウッ!!」
結果として錬金術で操れるという事以外なんの情報も得られなかった黒狼はそう叫ぶと、その金属をインベントリに入れる。
量としては10kgほどあり、かなりの容量を食われる形となったが持って帰らないという選択肢はない。
と言うか、低レベルとは言えど鑑定を弾く結果を出した金属を持ち帰らない理由が何処にあるのだろうか? いや、あるはずがない。
必ず、槍の優秀な素材となるだろう。
そんな期待を込めて黒狼は帰路に着く。
帰り道は多少の戦闘はあれど、大怪我も発展もなく行きより幾分少ない数の敵を倒し帰還した。
「戻ったか」
「おん、良いもんゲットしたぜ〜?」
「そうか、トラップは?」
「え? 怒んないのか?」
「まさか、現状維持に甘んじればいつかソレが壊れる事ぐらい見えている。……、確かに警戒しすぎなぐらいに言った覚えはあるがな」
「なんだよ……、怒られると覚悟してたのは無駄だったか?」
「期待に応え、今から怒った方がいいか?」
「勘弁します、許してください」
即座に地面に土下座する様子を見て、快活に笑い冗談だと告げる。
どうやら、そんな姿を晒すのが面白かったらしい。
無表情に近しくはあるが、明確に感情を表にし笑う。
「さて、戦利品は見せてくれるか?」
「ん? ああ、コレだ」
「……ほぉ、珍しい人工金属だ。市場に出せば1千万は降らんだろう、な」
「おぉ……、結構希少?」
「希少性は……、まあかなりの物だが
「汎用性? 俺の鑑定じゃ弾かれて詳細がわからねぇんだよ」
「ナニ、難しい話ではない。この金属は錬金術スキルさえ持っていれば、品質を大きく劣化させる事なく加工できるだけだ」
「え? マジで!? 品質劣化起きないのか!?」
叫びながらも、喜ぶ黒狼。
実はあの洞窟蜘蛛の槍を作成していた時、品質劣化というシステムは把握していたのだ。
このゲームにおいて錬金術などを含めた加工系のスキルを使用する場合、適正レベルより素材の質が高かったり慣れない複雑な工程を重ねれば素材が大きく劣化する。
その分多量の経験値も手に入るが、それでレベル上げをするのであればコストパフォーマンスが非常に悪い事になるだろう。
当然ながら、この逆も然りである。
その場合は品質向上と言うが、自身のスキルレベルより下位のモノを扱ったり単純な工程で行ったり習熟しきった工程で作成すれば品質が向上する。
ただしこの場合、取得経験値は減るため注意が必要である。
「ああ、ただ品質向上も起きづらい為注意は必要だがな」
「あー、それはそうか。ただ起きずらい程度だったら実質デメリットがねーようなもんじゃん」
「まぁ、そう言う事だ」
つまるところ、武器を解体する時も品質劣化が起きない為再利用できるという大きなメリットがある訳だ。
尚、黒狼の現在の武器である洞窟蜘蛛の槍だが……。
あれは高レア素材とは言え詰め込むと言う工程とも言えない工程で作られた為、品質劣化も向上も発生していない。
いや、一応向上は発生してはいるのだが殆ど要因は素材の特性である為その効果は有ってないようなモノだ。
「じゃぁ、早速作ってみるか!!」
「何を作るか決めているのか?」
「蜘蛛の足を利用した槍を作ろうとは思っているけど……、特に決めていないな。何がいいと思う?」
「ふむ……、レシピはあるのか?」
そう言われてステータスで確認する黒狼。
いくつもの面白そうな物品の中、特に面白そうなモノを発見する。
「なぁ、レオトール。杖と剣と槍が合体した奴って面白くね?」
「……は? 何を言っているんだ貴様は?」
たっぷり3秒、間を空けてから辛辣にそう返すレオトール。
魔法陣を読み解く手を止めて、呆れ顔でそう返す。
「いや、なんかめっちゃ面白そうなレシピがあんだよ!! コレ絶対面白いって!!」
「いや、知らんが……。実用性はどうなんだ? と言うか、剣と槍と杖を複合して何になる?」
「浪漫、それだけで十分だ」
「ふむ、元々わかってはいたが。貴様、相当な馬鹿だろう?」
「バカって言うんじゃねぇ!! バーカバーカ!!」
「バカでガキとは手が付けられん、せめて片方にしておけ……」
心労を抱えた様に言うレオトールを見て、笑う黒狼。
だが、レオトールは呆れてこそいるがこの会話自体は嫌がっていないのはその顔を見ればわかる。
仄かに上がった口角、それが彼の心情をわかりやすく表しているのだ。
「と言うわけで一回作ってみる、いいか?」
「それがいいな、どうせ金属塊に戻すことにはなるだろうが」
ひとしきり笑ったあと、落ち着いた二人はそう言葉短く交わすと各々の作業に戻った。
早速黒狼は、インベントリに表示されているレシピを見る。
(さて、と。形状は……、基本は槍……か? 槍に剣を収納する鞘が付いていて槍の柄の方が魔法の杖になる訳か。杖の形状は……、三種類? あー、素材として魔石を組み込めるのね。ハイハイ、OK。機能面はそれぞれのいいとこ取り……、いや耐久性が減ってるな。低下率は大体一割ってところか? うーん……、よし作るか)
碌に悩むことなく作る事を決定した黒狼は、早速金属の形状を変化させる。
その変化の速度は遅く、徐々にMPは減っていっている。
レベルアップを経験していなければ、即座に尽きていたかもしれない。
だが、経験を踏んだ事で一段階も二段階もレベルアップした黒狼。
休憩を挟みつつ、2、3時間かけ基本的な形状を作り上げた。
「よし、こんなもんか」
床に並んだ抜き身の鈍剣と鞘、杖、槍を混合した蜘蛛の脚をみる。
使った素材は大量の骨と多少の魔石、そして未だ入手量が二桁に届かない頭蓋骨。
幸い全ての素材の数に余裕はあった為、惜しみなく使う事に決定した訳だが……。
使った素材が素材な為、悪趣味な見た目になっている。
「なんていうか、表現に困る武器だな」
ボソッと漏らした感想だが、たしかにその通りだ。
剣とも槍とも杖とも言えるその形状は、三種混合武器と言う言い方こそ出来るが具体的な言い方は思いつかない。
それこそ、造語を作るしか無い訳だ。
「レシピはあるのに名前はないって不親切じゃね?」
誰に言うまでもないが、たしかにその言葉通りだろう。
強いていうなら、運営に向けての不満だ。
「……、えぇ。俺が付けた方がいいのか?」
そう言いながら、チラチラと横をみる黒狼。
そこにはレオトールがいるが……、彼は当然のように無言でガン無視する。
短い生活で大体の黒狼の扱い方を覚えたのだ、完璧な扱い方だろう。
「ハァ……。よし、コイツを『
そう呟き、拗ねながら構ってくれなかったレオトールを見るのだった。
なお、レオトールは面倒くさくなったのか途中から石を投げつけだし黒狼はソレが当たって死にかけたりしたのは裏話だ。