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 さっきの戦闘からもう数時間、それだけの時間が経過した。

 道中取るに足らないとはいかないまでも、程々に強いスケルトンが何度も出てきてはバッサバッサと倒され黒狼のレベルも1上がった。

 他にもいくつかの戦闘系スキルのレベルも上昇し、黒狼は数値上では確かに強化されている。


 ならば実践の戦闘能力と言えばだが……。


「うん、俺、弱い!!」


 誤差の範囲、それ以上でも以下でもない。

 数値上の能力が上昇したところで、攻撃を当てられなければそもそもダメージは入らず避けられなければダメージを受ける。

 自前の運動神経と経験した格闘技経験からある程度は動ける黒狼だが、長期的な連戦かつ動き辛い洞窟での行動に数値上の強さの上昇以上に己の弱さが目立つ。

 そして、何より己の弱さを引き立てるのは……。


「仕方あるまい、素人臭い動きでそこまでできれば文句は無いさ」

「言外に、『お前、クソ弱い』って言ってるよな?」


 横に立つ、剣の達人だ。

 槍と剣という別種の武器を扱う以上比べるのはおかしな話だが、処理の速度や動きの素早さなどで明確に黒狼は劣等感を抱く。


「ハッ、大人しく字面だけで受け取らないからその様な被害妄想を起こすのだ」

「全くもってその通りだな、一回殴らせろ。お前とは共感できる気がしねぇ、こんな状況でなきゃ協力もしないだろうな」

「断る、何故殴られればならんのだ? ただ、後者には同意だな」


 とは言え、抱いて当然の劣等感を抱いた所でという話だ。

 別に、劣等感に塗れてどうやこうやという話でもないので割とどうでもいいことの部類に入る。


「手に入れるアイテムは骨ばかりなのは問題だな、加工が出来ん」

「確かに、安地を作れるモノがないとログアウト中に殺されかねないし」

「それ以上に飯だ。貴様は兎も角、私は飢餓で死ぬ」

「そうか、死んだ場合どうなるのかの検証も出来てないのか……。一回死のうか?」

「ソレで訳の分からない場所に飛ばされてみろ、助ける事なぞ不可能だ」


 納得した様子で頷くと、現れた敵を直視する。

 また、だ。

 面倒くさいと、息を吐きながら黒狼が手を上げた。


「と言うわけで俺が倒すぞ」

「ああ、構わん」


 一言だけ交わすと黒狼は一歩先に出て、レオトールは一歩後ろに下がる。

 短い間だが、最低限の信頼関係は出来上がっている。

 互いの実力も凡そ理解している以上、下手な手出しは無用。

 レオトールは無言で援護だけは出来る様に半歩、身を前に出す。


(最も、その心配は無用みたいだが……)


 レオトールが心の中でそう思うと同時に、黒狼が槍を突き出す。

 まずは一撃、鈍速ながらも鋭い一撃が放たれた。


 ガシャッ!!


 胸骨にヒットし、体のバランスが崩れたタイミングで蹴りを喰らわせ背後にいた二体目に弾き飛ばす。

 単純に、そして明快に。

 続け様の一撃を、声とともに発する。


「これでラストッ!!」


 2体が倒れたところを狙い、黒狼は頭蓋を思いっきり蹴り上げた。

 若干の抵抗感を覚えながら勢いよく蹴り飛ばした頭蓋はもう一つに当たり、吹き飛ばしながら壁に当たり少し転がってからポリゴン片となる。


「ステータスも技術も甘いな、今度時間があれば稽古を付けてやろう」

「ソレはありがたい、お前に教わるならゼッテェ強くなれる」


 そう言われたレオトールは、悪い気はしないのか苦笑いで返す。

 そしてドロップ品を指差しながら拾わないのかと視線で問いかけ、ソレに気づいた黒狼は拾いに出る。


「骨もこれで100個か、かなり溜まったな」

「換金素材とはいえ今使えぬのが残念だがな、貴様の強化に使えればかなり良いのだが……」

「俺もそう思ったんだがなぁ……、錬金術のレベルなのか今の俺の状態なのか分かんないけど強化素材と言う表記は出ているのに使えないんだよなぁ……」


 そう、この骨。

 何気に黒狼の進化素材と言う情報が、謎に鑑定で出ているのだ。

 ではどう使えば良いのかと言う話だが、黒狼もいった様に不明と言う……。

 ソレに、強化にどれぐらい必要かやどれほどの品質を要求されるのかも全く不明。

 単体で使えるのか、何かと合わせて使うかという情報すら不明なのだ。


「出来ぬことより、出来ることを模索すべきだろう。人の進化は幾度となく見たが、魔物の進化は預かり知らん」

「勿論、ソレに序盤で進化できる方がおかしな話だしな」


 そう言いのけ、骨をインベントリに仕舞うと体を伸ばす。

 ゲーム内に疲労の概念があるのかは知らないが、ポキポキとなる骨の音を楽しみつつ軽く欠伸をし危機感の欠如を顕にした。


「もう少し、気を張れ」

「そうは言ってもさ、実際難易度も脅威も大して変わっていない現状気を張り続ける方が難しいって」


 手をヒラヒラさせながら呑気に返しつつ、ソレでも一応は周囲を警戒している。

 その様子に呆れつつも、黒狼の意見に一理あると言う理解を向けつつそんなのは関係ないとばかりに本腰を入れて警戒し続けるレオトール。

 対象的な二人は、洞窟をどんどんと進んでゆき……。


「何故箱? いや、宝箱なんだろうけどもう少し豪華にしろよ」


 宝箱を、発見した。

 最も、宝箱というにはあまりにも見窄らしく青果を入れる箱と言われた方が納得できる程度のものだが……。


「中身は……、」

「待てッ!! 罠が無いか警戒しろ!!」

「あ、ああ、分かった。」


 嫌に神経質なレオトールの声を聞きつつ手に持つ槍で突く。


 カツ、カツ……。


 特に変化もなく、軽く動いた様子を見て罠が無いと安心した黒狼は手を伸ばし箱を開ける。


 ギギィィ……。


 錆びた金具の音を響かせ空いた箱の中にはポーションの様に見える物が二つ、そして水晶の様な球が一つ。


「何かあるのか?」

「ある、あるけど……。」


 そう言いながら離れているレオトールを呼び寄せ、内容物をみせる。

 内容物を見たレオトールは、困惑している黒狼とは対照的に眉間に皺を寄せ唸る様に考え込んでいた。


「……、スキルオーブだな? しかも、三等級ポーションも。まさか……、いや確実に……」

「どうした? 何かわかったか?」

「……、そうだな。先に安全地帯を探すことにしよう。降らん予想だが、その予想が当たっていたらと思うと……、果たして最善を尽くしても生き残れるのか?」

「おいおい、怖いこと言うなよ。気楽に行こうぜ? レオトール」


 黒狼の言葉に眉間を寄せて、何を言っているんだ? というような呆れを露わにする。

 そして何かを言おうとし、だが口を噤んで。

 肩を顰め、そのまま息を吐くと口を開いた。


「気楽に行けなど呑気なモノだな、ノワール」

「そうか? 所詮、ゲームなんだ。そこまで気を張ることも無いだろうに、な?」

「たかが遊戯となれど、本気で挑むのが作法というモノだろう? 人生に無駄などないのだ、吹けば消えてしまう様なモノでもな」


 そうして、苦笑いをすると即座に表情を引き締める。

 推し量る事などできない思考の没頭、加速した思考の先に世界をどう見るのか。

 ソレは分からない、だが一つ言える答えはある。


「そのスキルオーブは貴様にくれてやる。」

「え? 良いのか?」

「お荷物を背負って生きていけると思えるほど楽観視はしていないのでな。」

「そうか」


 黒狼は、はるかに弱く。

 レオトールは、驚異的に強いという事実だ。


ピコン♪


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剣術

 効果:剣を使った行動時補正

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 効果の説明を見ながらニヤリとほくそ笑みつつ、剣を持っていないことを残念がる。

 流石にレオトールから剣をくれ、というのは常識知らずにも程がある。

 最低限ぐらいの良識は持っている身として、友人との交友を自ら進んで壊すような行動は慎んでいるのだ。


「剣術スキルゲット、と。」

「ならば等級は中程度か。とすらばここは……、中層に当たるのか?」

「中層? 詳しく説明してくれないか?」

「後でな、ダンジョンの傾向が掴めんうちは貴様に余計なことを伝えて先入観で動かれれば苦労するのは此方だ。長い付き合いではないが、貴様は暴走する癖があるのはわかるのでな。」


 そう苦笑すると、黒狼の首根っこを掴む。

 骨しかないのだ、相当軽い。

 黒狼を持ち上げることなど、レオトールにおいては朝飯前だ。


「では、ダンジョンを攻略しようか。我らが未来のために、な」

「え?」


 レオトールは無表情だが、不敵にそう告げる。

 その言葉に黒狼は驚くことしかできない、できるのはまさかという言葉を飲み込むだけだ。

 そして、この二人のダンジョン攻略が開始する。

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