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殺意

 初撃の槍の投擲、それによってランプを砕く。

 目にも止まる早技、伊達にゴブリンを殺し続けてはいない。


「なっ!?」

「へ?」

「コレは……!?」


 思考は加速し、精神は研ぐすまされ。

 冷徹でしかない意志は、気分という炎で加速する。


(非常に申し訳ないが、此処で殺させてもらう)


 口には出さず、両手に携えた棍棒を振るう。

 あの時に見たレオトールの闘法、彼はインベントリから出したアイテムをそのまま手元に出して動かしていた。

 再現は不可能、戦闘中の一瞬では様々なアイテム群から特定のアイテムを取り出すという判断はできない。


「ッ、早く明かりを出せッ!! 攻撃されてやがるッ!!」

「今やってますよッ!!」


 振るった棍棒は避けられた、がそれすら計算の内と言わんばかりに追撃を行いサイと言われた男を弾き飛ばす。

 筋力はなくとも、STRはないわけではない。

 理屈は不明、理論も不明ながら決して弱いはずがないのだ。


「グッ。テメェ、何者だッ!! 少なくとも蜘蛛じゃねぇだろ!!」


 答える口は敢えて持たない、答える存在など二流にすら足りえはしない。

 此処にいるのは、闇に紛れた不死者。

 漆黒を味方にした、骸の暗殺者。

 弾き飛ばされ、動きが制限された男の頭を棍棒で叩き割る。


 グシャッ!!


 単純明快、快活楽観と楽しみながら槍を拾うために姿勢を下げて。

 投げられたナイフを目視し、再度インベントリを展開。

 棍棒しか入っていない中身から無造作に選び取って、蹴り放つ。


「ヒッ!? き、聞いてないわよッ!! 契約違反よ!! 違約金を払いなさいよッ!!」

「生憎と、契約書には戦闘の旨が記載されています。違反にはなり得ません、しかし……」

「そんなこと知らないわよッ!! 早く払i……、あ」


 揉めている隙に、さっと槍を拾い女の胸に刺す。

 なにやら文句を言っていたようだが、正味関係のない話だ。

 何せ、女が胸から生えたナニカ槍の穂先を確認した瞬間、ポリゴン片へと変化したのだから。


「で、話は聞かせてくれるか? 探求会?」

「あれ? プレイヤーの方ですか? 後、私のことは知っているご様子ですが……」

「失礼で悪かったが、話を聞かせて貰った。幾つか情報を売る代わりに……」


 重みの消えた槍を静かに、目の前の人物に突きつける。

 遊びはナシ、だ。

 同居人の追手ならば、それだけで不利益でしかない。


「情報を買い取らせてもらおう、さん?」

「おや、どうしてバレました? キッチリと偽名を使っていたはずですが……」

「鑑定をかけさせて貰った、名前ぐらいならこのゴミスキルでも解るようでな?」

「鑑定ですか……。初期では使えないスキルで有名ですが、よもや取得している方がいるとは驚きですね」


 有用性の再確認、思考の冷静さと冷淡さを確認しながららしくもなく昂っている心を捉える。

 楽しい、この行為こそが。

 こんなPKじみた行動が、何故ここまで楽しいのか?

 疑問は頭をめぐり、それを捻り潰すことで余白を得る。

 この場において重要なのはPLとしての考え、それ以外は不必要だ。


「予想外で驚いたか? そりゃありがたい。で? さっきの話、受けてくれるか?」

「あー、情報の売買は本部以外で行えません。ご理解をお願いしますね?」

「生憎と、俺の問題でそれはできねぇよ」

「……、街への入場が不可能ってことですか? ふむ、レッドマーカーの場合は取引を断らせて……」


 錯綜する会話、相手からしたら此方が骸骨なのも見えてはいないらしい。

 その情報は、有用だ。

 迫り来る悪寒、狂気と怨嗟の底冷え。

 その錯覚を明確に感じながら、黒狼は口を開く。


「ちげぇよ。……、とはいえ安易に言いたくもないしな。お前より上のやつを出してくれ」

「はぁ? 傍若無人にも程がありませんか? お客様は神様とはいえ流石にそれは許容出来ませんよ」

「勝手に言っとけ、だが少なくとも俺はお前らが絶対手に入れていない情報を持ってるぞ? ソレを捨てて良いのなら交渉は終わりだ」

「……、そうですね。ではその信用の対価となるモノをまずは出してください。些細な情報でも構いませんよ?」


 告げられた言葉には、警戒が多分に含まれている。

 鼻から信用する気はないと、そんな風に言っているようにも思えた。


「じゃあ、一つ目。錬金術の製作物を製作途中で別の人に渡した場合自動失敗になるのは?」

「事実ですか? 確認を……。はぁ、未検証? とりあえず、バルカンさんに検証のお願いを。細かな条件ですか? ふむ、少し待ってください。すみません、詳細条件は判明して……」

「知らん」

「ですよね、はい。詳細条件は不明らしいですが……。検証終了? ああ、自動失敗すると言う警告文が出たのですね。はい、お騒がせしました」


 そう言うと、パラスは空中に指を這わせる。

 だが動きは知っている、その行為の目的も理解できた。


(側からステータスを操作してるとこんな風に見えるのか)


 内心新鮮な感覚を味わいながら警戒心を強め、余地強く槍を握る。

 いよいよ、いつでも動けるように。


「新情報の提供、ありがとうございます。後ほどお礼を……」

「礼は取引のおける信用だ、さっきも言ったはずだが?」

「ソレとコレは違いますね。ソレは情報が信じるに値するかと言う信用であり、コレは情報に払う対価です。対価を払わぬ情報屋はすぐ潰れる。常識ですよ?」


 理解に苦しむ理論だが、相手を納得させられたと言う事実を一応受け止めた。

 口先だけで騙された感も拭えないが、それはソレというものだ。


「そうか。まぁ、この程度の情報で得られる対価なんて高が知れているだろうけどな……」

「ソレより本命の情報を話してください。まさか……、嘘ということは有りませんよね?」

「勿論、だがその前に一つ聞きたいんだが……。この世界の宗教は一神教か?」

「いえ、11の神がこの世界を収めていますね」

「それぞれの名前は?」

「さぁ? なんでしょうね?」


 含みを持たせた薄ら笑いを浮かべそう答えたパラスに、黒狼は凡そ自分の考えが間違って居ないと確信を抱く。

 彼は知っている、少なくとも


「なぁ? ソレってコッチDWOの神話に登場する神の名前だったか?」

「ふむ……、凡そ察しがつきましたが……。ソレは此方でも把握している情報となりそうですね」

「……つまり、欲しい訳か」


 黒狼が提供できる情報は確実に希少価値が高いと、黒狼は確信する。

 故に確信を抱く、己が推論に。

 早る鼓動を落ち着かせるように、如何に自分が知っているかを装う様に尊大に振る舞う。


「ハハ、さてソレはどうでしょうかねぇ?」


 空笑いでその質問に答えたパラスはゆっくりと、握る手を開く。

 そして、半歩。

 思わずと言った様に下がり……。


 ザシュッ……。


 一気に現れた、その恐怖。

 隠匿された殺意は、黒騎士の刃を強靭なものとして。

 確実に殺すための手段となる、間違いなく。


「謀を行うのであらば、もう少し周囲を警戒するべきだな」


 影より出た騎士に、袈裟斬りにされる。

 もう少し、冷静になるべきだった。

 パラスという名を持つ彼は、今更ながらに後悔の念に襲われる。

 交渉しようとしたのが間違いだ、目の前の存在は。

 黄金童女や、マッシャー料理人のようなPKと同じく。

 そもそも、!!


「……、彼が情報ですか?」

「フン、戯け。元より汝等の手には私の情報程度集まっているであろう? いや、集まっているな。そして、この先に眠るモノの情報すらも」

「いえ? 何かあると言うことだけは知ってますがそれ以上は」

「そうか、では疾く死ね」


 それだけ聞くと黒騎士は、己の剣を軽く振り上げパラスを真っ二つに両断する。

 生かす気はない、だが生きて舞い戻るだろう。

 その確信から、黒騎士は瞳孔から覗く光が弱くなる。


「ふん、嘘すら真と思えるその精神性。まともとは思えぬな」

「聞き飽きてるよ、その手の異常者扱いは」

「そう穿った取り方をするな、多少は誉めているのだぞ?」


 そう言うと、黒騎士は近くの岩に座った。

 ガシャンと音が鳴り、洞窟に軽く鳴り響く。

 音を消す気はないらしい、もしくは隠匿する必要性がなくなったか。


「闇魔法の成長は順調だな、その調子であれば可能性の一端ぐらいは見えよう。故に、残念だ。後二月時間があれば確実と言えようものを。」

「光を吸収する魔法だってな。聞いてないぞ? そんな話」

「言っておらんからな、何より現時点では意味がない」

「意味がない……? なんで?」


 黒騎士の意味深な言葉、気になる話だが……。

 それを無視し、聞きたいことを優先する。

 疑問は解消しないと気になるタチなのだ、黒狼は。


「逆に聞くが、全身を覆うほどの闇を常に出し無限とも思える光量を常に吸収できるのか? 弱卒風情が?」

「あっ(察し)」


 つまりは、そう言うことである。

 使えないものを今告げても無駄という話で有り、最初から言わなくても結果は変わらないと言う話だ。


「降らん話は終わりだ、ソレより貴様に提案がある」

「なんだよ、提案って?」

「簡潔に言おう、此処を出て行く気は無いか?」


 は? と言おうとして言葉に詰まる。

 その提案に乗っかるメリットが、その一切も見えてこない。

 即座に断ろうと考え、一旦思考を止める。


「理由は?」

「凡そ、数百に及ぶ敵がきているぞ? 全く、情報伝達が早いにも程があろう」


 呆れたように告げられた言葉、ソレに驚きを隠せずに問いただす。

 成程、と言えるはずもない。

 焦りと、恐ろしさが黒狼に襲いかかった。


「どう言うことだよッ!?」

「私の情報が露呈した、いや違うな。この場合正しくは私と言う存在レイドボスを餌にしたのだろう。ソレと、汝の連れの話もな。厄介ごとばかりだ、稀代の英傑が死にかけていることも含めて」

「レイドボス……、まさかっ!? そう言うことかっ……!!」


 つまりは、

 全くもって、道理がなくソレで居ながら納得できる話だ。


「納得したのならば早く連れを連れてあの石室に向かえ。戸は開いてある、時間的猶予はまだあるが1日と経たずして此処に数多の異邦人が訪れるぞ?」

「ソレは親切か?」

「まさか、ちょっとした戯れだ」

「そうか、わかった。今は、大人しく従っておくよ」

「そうするといい、ああ、本当に、な」


 それだけ告げると、黒騎士は音もなく消えた。

 何故出てきたのか、問うまでもなく殺したのか?

 疑問はあるが、無視をする。


「俺もあの部屋に戻るか、急いで。」


 黒狼も静かに立ち上がると、部屋に向かうように歩き始めたのだった。

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