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最強

「あー、クッソ。暴走スキルってネタで取ったけどガチで暴走してんじゃねぇよ。しかも、リスポーンまで……、えっと、後10,800秒? ぐらい? ってことは……、3時間!? マジかよ、最悪だぁ……。ハァ。」


 溜息を吐きながら電脳世界から逃げる様にログアウトする。

 戦績としては上々、ジャイアントキリングを果たしているのを加味すればソレどころではないだろう。

 だが、その戦績はログイン不可能時間。

 いわゆる死ぬことへのデメリット、というものだろう。


「……、アレ? じゃあなんで10秒毎に俺は復活してたんだ……?」


 単純な疑問が頭を駆け巡る、思考の渦に没頭する。

 というより、今更な疑問だろう。


「……、もしや種族ボーナス? いや、十分にあり得る。もしかしたら反転系スキルが関わる要因で死んだ場合リスポーン時間が大幅に短縮されるとか? いや、絶対ソレだ!!」


 我、発見せりユウレカとばかりに立ち上がり、そのまま転ける。

 どうやら地面にあった布だった、不運にも。


「いてて……、クッソ良いことねぇな。……、けどコレは検証しがいがあるな」


 ニヤリとほくそ笑み、ログインしたらする事を空中に浮かぶモニターに入力する。

 好奇心は猫をも殺すと言った展開にならなければ良いが……、と思うのは老婆心ながらか。

 はたまた当人の破天荒ぶりからだろうか? どちらにせよ、目の前に人参をぶら下げられた馬の様に。

 もしくは思春期真っ盛りの少年が土手川にあるエ◯……、何? 最近の少年はスマホで済ます? いやいや、あくまでコレは一種の例え話だ。

 と、話が逸れたがそれだけ興奮して書き殴れば経つ時もあっという間であり案外気が付かぬ間に1時間は経過していた。


「机上の空論は終わりにして、ちゃっちゃと検証の時間に入りますか」


 そう呟くと、いつも通りゲームにログインした。

 いつも通りVRCを開き、その間に地面に転がっている石。

 もとい、投げ捨てられてた昨晩の服を蹴って部屋の端へと追いやった後。


「おー、死亡ログまともに見てなかったけどこんな感じなんだな」


 若干、面白がりながらそう呟くとそのまま閉じる。

 別に、黒狼には自分の死因をログから冷静に分析するつもりも面白がるつもりが無いのだから当然だろう。


「ただ、まぁ……。うん、今後はそうも言ってられないんだろうけど」


 検証と名打つのならば、自己の死因についても冷静な判断を行わなければならないだろう。

 ソレが、今後共に有益になるのならば尚更だ。

 故に、一切手を抜く事は出来やしない。

 尤も、端からそんな腹積りは無いが。


「さて、まずは光耐性反転から試すか。」


 そう告げると、ライトボールを作り即死する。

 そして息を吐く、10秒待たなければならない。


「ここまでは予想通り、ってところだな。」


 そういうふうに告げ、暫く待つとリスポーン可能という表記に。

 サクッと押して、リスポーン作業を行う。

 死ぬことによりデメリットが余りにも低いためいよいよ何にも思わなくなり出した。

 などと言ったらあの黒騎士や助けた男は怒り狂うだろうか? 考えるのは自由だろう。


「あ、助けた報酬貰ってねぇ……。まぁ、徳を積んだと思っておくか」


 今世紀最大の気まぐれだし、と言葉にせずに告げ光魔法を発動する。

 リスポーンをした場合時間以外のデメリットは、殆ど存在しない事は確認済みだ。

 というより、経験則故の知識と言ったところか?


*ーーー*


 といわけでとりあえず、100回ぐらい試行してみたところ光耐性反転がようやく1上がり光魔法が3上がった。


「……、えぇ」


 詳しく記した訳ではないのでアレだが、100回ほど死んで1レベル上がるというのは非常に割に合わないのでは無いかという困惑を込めた溜息を出す。

 いや、文句はない。

 文句は無いのだが、それでも……。


「ほかにスケルトン選んだ人はどうしてんだろ?」


 疑問は溢れ出る、少なくとも開始時点で選んだ人間はいないはずだ。

 だが現在は不明、もしかしたらいるのかもしれないが……。

 コレだけの難易度だ、運良く地下にリスポーン位置が固定されてなければ黒狼も今現在平野でキルされ続けながら死んでいたところだっただろう。

 そういう意味では幸先よかった……、そんな事もないか。


「あー、後さ。ずっと立ってるのは良いけど話しかけてくれないか? いい加減、気づかないフリをするのも疲れた」

「反応を待っていたのだが? 無視してくるのは辞めておけ」

「お、案外気安いな」


 そういうと、男とすれ違い洞窟の奥へゆく。

 言葉は交わしたが、慣れ会うつもりはない。


「何処へ、向かうんだ?」

「俺の拠点、っと。一つ聞きたいけど、アンタってNPC現地人? それともプレイヤー異邦人?」


 黒狼の質問、それを飄々とした顔で受け止め。

 強気に威圧する様に発する言葉を馬鹿にしたように嘲笑い、男は質問に答えず名乗りを挙げた。


「私の名前は、レオトール。ああ、私はただのレオトールだ。貴様の名は? まさか名前もないわけでは無かろう?」


 その言葉には、威圧があった。

 弱者なら弱腰になり、弱兵なら思わず剣を抜くほどの。

 だが、その威圧は黒狼には通じない。


「名乗る名もなき骨だよ、ノワールとでも呼べ。」


 相手を嘲笑い、黒狼は髑髏を揺らす。

 その様子を見ながら、男は、レオトールは手を出した。


「……、は?」

「なに、暫く共に過ごすんだ。握手ぐらいしても構わんだろ? 異邦の骸。それとも、そちらの文化では握手といった概念はないのか?」

「……、はぁ?」


 呆れと共に、存在しない肺から空気を漏らす。

 呆れを通り越すと言うのは、こう言うことを指すのだろうか。

 何でこんなにも不気味な自分と、骨である自分と一緒に居ようとする? 理解できない。

 だが、仲間が増えるに越したことはないのは事実。

 裏切られても全くの損害はない、そう思えば特に思うことがないのも事実だ。


「お前なぁ……、俺がお前を殺すとは思わないのか?」

「逆に聞くが、俺を助けたお前が何故俺を殺すんだ?」


 視線を突き刺す、半眼で睨む。

 一触即発と例える他ない空気が漂う、だが男は飄々とその空気を受け流した。

 結局、先に折れたのは黒狼だ。

 この男は弁舌も上手いらしい、剣の腕は知らないが黒狼よりも下手ということはないだろう。

 蜘蛛から逃げることも能わなかった、黒狼より。


「悪い、わかった。認めるよ、たしかに俺はお前を殺す気はない。」

「そうか、それならやはり私の目は曇って無かったということか。まぁ、到底殺せるとは思えんが……、な?」

「さぁな? で一つ聞く。お前、なんでここにいる? その様子だと真っ当な人間だろ」

「ちょっとした諍い事だ。詳細を語るまでもない、な」


 眉を顰め、苛立ちを隠しつつ顔を闇に向け。

 だが、深く聞くのも失礼かと思いなおし息を整えた。

 厳しい話だ、難儀でもある。

 他人の事情に首を突っ込むな、といえど気になるものは気になるわけだ。


「ふーん、いつか話せよ」

「時が来たら嫌でも知ることになるさ」


 鼻につくヤツだ、そんな思いは飲み込むべきだ。

 思考が巡り、互いに一瞬無口となり。

 落ち着いた後、その後黒狼が口を開く。


「ところで、さ」

「なんだ?」

「錬金術用の本とか、魔術用の本とかって買えない?」


 媚びる様な声で出された当人にとっては切実な問題を聞き、一瞬の理解を得てレオトールは爆笑する。

 笑い話だろう、当たり前だ。

 あんなに強気にしていた黒狼が、急に媚びて物をねだったのだ。

 笑う他に、何がある? 


「スクロールで無いのなら金のある限り提供してやるさ、お前が入れぬ街の中からな。幸いにも人より上等なエルフとツテがある、潤沢にとは言えんがある程度ならば提供しよう」

「金のある限りって不安だな。と言うか、俺一文なしだけど?」

「無用の心配だ、将来金を得た貴様から支払って貰うさ。もし金を得なければ……、その時は私の望みを達成するための助力を請おうか」

「ヤッタァ、ってやっぱり借金なんかい……。あー、ゲーム開始早々借金生活かよ」


 などと存外、嫌そうでも無い顔で告げると歩みを進める。

 数百も歩かぬうちに、辿り着くのは黒狼の拠点。

 開け放たれた扉から、レオトールを誘うとこう告げる。


「ようこそ、俺の拠点へ。先人の遺物だが精々有効活用してくれ、利用できる物ならな?」


 そう言って、インベントリに収納していた数多の蔵書を並べる。

 精一杯の見栄を張る黒狼を見たレオトールは、苦笑いしながら黒狼に告げた。


「これから頼むとするか、名乗る名も亡き骨よ。」


 そういうと、お互い同時に笑った。

 決して短い付き合いで終わらない、そんな予感を感じながら。

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